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孤独な死神(後編)




「久しぶり〜、アルフ。再会のお祝いだよ〜!」



ミトゥは間延びした声で言うと、鉾をアルフに向けヒュッと一振り。



すると、何も無かった空間から真っ黒な羽根の生えた蛇が大量に出現した。


それらは、アルフを喰らおうと飛び交っていく。




「くっ…。」



アルフはバッと飛び退き、数匹交わす。




「自分も手助けするよ。」



エマは大鎌を左手に持ち、高らかに掲げた。




そして、




「花鳥風月…幻惑の妖桜。」



鎌を振りながら舞い始めた。



艶やかに舞う彼女の周りには桜の花びらが降り注ぎ、蛇達を幻惑させる。




「へえ、なかなかやるじゃん。」



シスが敵ながら誉めてしまうほどの、美しく強力な舞だった。




「エマ、きれい…。」



「見とれてないで、あたし達も助太刀するよっ!」



「あ、うん…ごめん。」



「行くぜ!」



イリア、カナル、リアゼの三人も手助けに入ろうとしたが…




パリッ!




「えっ…!?なんでっ…?」



…結界のような物が張られていて、近づくことができない。




「面白いところなんだから〜、邪魔しないでね〜。」



ミトゥが三人に対峙する位置から言った。




「ミトゥ…そっちは任せとくから!私は…と。」



シスはスッとシークの前に立った。




「こっちを片付けておくから。」



「なっ…」



「フリーザス!」



パシュッ!シュッ!



面喰らい動けなかったシークを、十数本のつららが容赦なく切り裂いていく。




「……っ!!」



「シークー!!」



「よそ見は危ないよ〜。」



シークを気遣っていたカナルだが、ミトゥの忠告でハッとした。




気が付けば、イリアとリアゼの二人は遥か後ろに飛ばされていた。




「うっ…今のは…?」



「よ、よくわかんないっ…。オレンジの光が見えたと思ったら…前から凄い衝撃がっ…。」



二人とも上半身すら起こせず、息も絶え絶えのようだ。




「嘘…いつの間に…?」



「ふふ…二人きりでちょっと遊ぼうよ〜、カナル〜?」



ミトゥは茫然としているカナルに鉾を向け挑発した。




「おまえなんかと遊ばないよ!」



カナルも鎌を向け返し、先手必勝とばかりにミトゥの顔面に振り下ろす。




…だが、




パシッ!




「………!!」



ミトゥに鎌の柄をつかまれ抑えこまれてしまった。




「う〜ん、太刀筋は悪くないんだけどね〜。力に任せすぎかな〜。」



ミトゥはニッコリ笑って言うと、不意に手を離す。




「わっ!」




ドテッ!!



反動でカナルは地面に倒れた。




…完全に遊ばれてしまっている。




「あなたの力はそんなものじゃないはずだよね〜?ちゃんと本気で戦ってよ〜?…さもないと。」



「…アルフ!!」



「痛た…えっ?」



めったに取り乱さないエマの大声を聞いて、カナルはそちらを注目した。




「アルフ!どうしたのさ!?」



「………っ!」



…アルフは腹部を押さえ、横向きに倒れていた。


顔はわずかにだが歪んでいて、苦痛を感じているようだった。



エマが舞いを続けながら、必死で呼びかけている。




「…アルフが大変なことになっちゃうよ〜?」



「くそっ…!おまえ…兄貴に何したんだよ!?」



リアゼの問いに、ミトゥは別に何も〜と空ぶいた。




「…っ…アルフを助けなくちゃっ…!」



イリアは鎌を杖代わりにし、よろよろと身を起こす。




「あれ?もう起き上がれるの〜。大したものだね〜。で〜も…」



ミトゥはイリアに向けて鉾をヒュッと降った。




「もう少し寝ててね〜?」



「きゃっ!?」



ドッと赤い閃光がイリアに直撃した。



鎌で防いだものの、跳ね飛ばされ、彼女の体は地面に激しく叩きつけられた。




「うっ…っ…ごめんね……アル…フ………」



「イリア!」



イリアはそのまま、目を閉じ意識を失った。




「ピンク娘!!…くそっ!」



リアゼは満心の力を込めて、小鎌を数本ミトゥに投げつける。



ヒュルル…と空気を切り裂き、光の速さで小鎌はミトゥに向かって飛んでいく。




「やった、かな…?」



「面白いおもちゃ持ってるんだね、あんた。」



惜しいことに、直前で鎌はシスの鉾に弾き落とされてしまった。



カンカンカンッと、金属が触れ合う音が鈍く響く。




「くそっ…!」



「厄介なおもちゃ持ってるあんたは、邪魔だから眠っといてくれる?…サンダシズ!」



シスが鉾に付いたダイヤルを雷の絵に合わせると…




ガーン!!



ガーン!!




雷が場所構わず降り注ぎ、その一つは互いなくリアゼに命中した。




「………っああ!?」



「ジャストヒット〜。シス、ナイスだね〜。」



「兄……貴……ごめんっす………。」



ミトゥの賞賛の声を子守歌に、リアゼもバタッと地面に付した。



翼からは焦げたような嫌な臭いが立ちこめ、皮膚も所々黒く焼けていた。



「イリア!リアゼ!そんな…。」



「お待たせ〜!次は、あなたの番だよ〜。」



「覚悟しな!」



ミトゥとシスの鉾がカナルに向けられた。



一瞬でも隙を見せれば、どちらかの鉾に突かれてしまいそうだ。




「カナル!」



エマの舞いは、“花鳥風月”の“啄む大鷲”の章へと変わっていた。




…中断しようにも、無数に現れる黒蛇のせいで止めることができない。




(こうなったら…一か八か、鎌の力を信じて戦うしかない!)



そう考えたカナルは、大鎌を両手で持ち前に構えた。




「本気になってくれたのかな〜?」



「ミトゥ!こいつは、あたしの獲物だから先に戦っていい?」



シスの瞳が、鹿を狙うハイエナのようにぎらついた。




「い〜よ〜。」



ミトゥの返事と同時に、シスはシュッと移動し、カナルに鉾を突き出す。




「わっ…と!」




ガキッ!




カナルは鎌の刃で攻撃を受け止める。




「まだまだ!」



シスは一旦離れ、今度は横向きに鉾を振りかぶる。




「負けないよ!僕だって…死神の端くれなんだから!」



カナルは鎌の柄を地面に突き立て、ひょいと高飛びの要領で飛び上がった。




シスの鉾はカナルが居た場所の空気を、上下に分断させただけに終わった。




「シスも、死神君もすごいね〜。私も戦いたくてうずうずしてきちゃったな〜。………あ、そうだ〜!」



何を思いついたのか、ミトゥは鉾を持ち直し体制を整えた。




「あたしだって、悪魔の端くれ。あんたを消すまでは、戦い続けるんだから!!」




ガッ…!




ガキーン!!




鎌と鉾がぶつかり合う音は、ひっきりなしに聞こえてくる。




持ち主の二人の戦いは、より白熱し、顔には汗が滲んでいた。




「シス〜、頑張ってね〜。…じゃ、私は、と〜。」



ミトゥの顔から笑顔が消え、目は黒蛇を粗方倒し一休みしているエマを見た。




「あの人と遊ぼ〜かな。」



言うが早く、ミトゥは行動を開始していた。




疲れ気味のエマと痛みに耐えているアルフの前に移動し、トッと鉾を地に付けた。




エマは、サッと身を引きミトゥを睨む。




「…何か用?」



「エマ…だったよね〜?私と遊ぼ〜!」



ミトゥの動作は、そののんびりした口調に似合わず、素早かった。




先端が赤く光る鉾を携え、エマの脇腹を狙い攻撃を繰り出す。




ガッ!




エマは、このくらい大したことないという風に大鎌で受け止める。




「その調子、その調子〜。もっと、私を楽しませてね〜!」



攻撃を止められたというのに、ミトゥはどこか楽しげだった。



クルッとバク宙しながら離れると、何やら一枚の符を取り出した。




「…自分は遊んでるわけじゃないんだけどね。」



エマは冷淡に返すと、舞の続きを躍り始めた。



“花鳥風月”の“風の章”、防衛の竜巻の舞を。




「ふふ…じゃ、ゲームしよ〜。消すか消されるかのコロシアムを〜。」



ミトゥの周りを何十羽というカラスが覆い始めた。



符から作られたようだ。




「………っ…。」



アルフは二人の闘いを見ていることしかできない状態にあった。




いよいよ痛みは激しく、このままでは意識を失うのも時間の問題だった。




「行ってきて〜、殺人カラスちゃん達〜。」



ミトゥが鉾を前に突き出して号令すると、カラス達はカアと鳴きながら、エマ目掛けて飛んで行った。


皆、嘴にナイフや刀など刃物をくわえている。




「来ない方がいいと思うけど?」




バシッ!




「カア…!?」




トサッ……。



エマの忠告を無視したカラスの一羽が、地面に落ちた。



他のカラス達も、エマの目前まで迫ると何かに弾かれるように地面に叩き落とされていた。




「な〜るほど〜。風がカラスちゃん達を拒んでるわけだね〜。」



なるほど、な〜るほどと二回繰り返し、ミトゥは頷いている。




「調子に…のりすぎだよ、あんた!」



シスの怒声が聞こえて、すぐにドッと地面の土が飛び散った。




何事かとエマがそちらを見ると、地面にうつ伏せに倒れているカナルの姿があった。




「くっ…っ……鎌が……」



背中には横向きの鬱血痕があり、シスの鉾の柄で強打されたものと思われる。




「半分人間のくせに…思い上がるからそうなるんだよ!飽きてきたし…そろそろ殺しちゃうかな!」



序盤はカナルに向かって、後半は独り言のように呟きシスはカナルの背中に鉾の狙いをつける。




…カナルの鎌は遥か後方にあった。




「カナル!今、助けに…っ!?」



舞を一時中断し、カナル救出に向かおうとしたエマの体を、黒い縄のようなものが締めつける。




「くっ…何…これ…。」



「ふふっ。どう〜?私の黒蛇ちゃんの力は。…すっごく細いから、風すら通り抜けられるんだよ〜。」



「………っ!」



体を激しく動かすが、黒蛇はしっかり巻き付いていて、離れそうにない。




そうこうする内に、ミトゥの鉾までカナルに向けられていた。




「ジ・エンドだね〜、弟君?」



「さあ…観念して消えなっ!」



カナルは観念して、目を瞑り時に身を任せた………。






「諦めるのは…まだ…早いぞ…カナル?」



「えっ…?」



途切れ途切れにアルフの声が聞こえたかと思った次の瞬間。



バシュという斬音が辺りに響いた。




そして、カッという音と黄色い閃光がきらめく。




「わっ…!?」



「なっ…!?」




カランカラン…




ミトゥとシスは目がくらみ、思わず鉾を取り落とした。




「兄さん…一体何が…?」



カナルは眩しさに耐え、細く目を開けた。




するとその視線の先には…黒真珠のように光り輝く大きな翼を携えたアルフの姿があった。




「狭間を断ち切っただけなのだよ、カナル。」



アルフは短く答えると、カナルの鎌を拾い上げた。




「狭間を断ち切る…?」



「つまり…今の私は完全な死神というわけさ。」



アルフは簡潔に説明すると、カナルの鎌を右手に携え、左手にある自分の鎌をカナルに放り投げた。




ヒュッ…




「わっ…!」




パシッ!




大鎌はカナルの右手にきれいに収まった。



刃先はギラギラと鈍い光を放っている。




「狭間を断ち切ったからって…簡単にあたし達に勝てると思うなっつの!!」



シスは鉾を振り回しながら、アルフに接近する。




「消えな、アルフっ!」




カンッ!




パチッ…!




鉾と鎌が激しくぶつかり合い、火花が散った。




「カナル!その鎌を使ってみろ!」



「え…でも…これは兄さんの鎌なんじゃ…?」



「お前なら…使えるはずだ!」




キンッ!




アドバイスしながら、アルフはシスの鉾をなぎ払う。




「あたしとの戦いに集中しろっつの!…黄突光!」




バシュ!




三本の黄色い光がアルフを貫こうと突撃していく。




「くっ…!」



光が当たる寸前で、アルフは身を交わす。




「ふふ…まだ終わりじゃないから。」



シスは不敵に笑う。


それもそのはずで、三本の光はまるで意志があるかのように、アルフを追いかけ回し始めたのだ。




「に、兄さん、大丈夫!?」



「私のことは良い。…お前は自分の力を引き出すことに専念しろ。」



「…わかった。」



アルフのことは心配だが、カナルはミトゥを倒す方が先だと理解した。




ザッとミトゥに向き直る。




「バトル第二回戦、開始〜だね。」



ミトゥはクスクス笑いながら言うと、カナルの背後にスッと移動した。




「う、後ろ…!?」



「行っちゃって〜、私のか〜わいい毒蛾ちゃん達〜!」



ミトゥが鉾を振り上げると、何百という黒い蛾が出現した。


そしてそれらは、カナル目掛けて一斉に飛び去る。




「わっ!?」



カナルは面食らいながらも、鎌で蛾の攻撃を防御する。




パシッ…




パシッ…




追い払うが、蛾はカナルの体にどんどん張り付いてくる。




「だ、誰か…助け……」



「カナル!お待たせ、自分が援護に回るよ!」



蛾に覆われ身動きがとれないカナルの耳にエマの声がかすかに聞こえた。




エマは舞っていた。


明るく優しい七色の光が放たれ、カナルの周りを覆う。




「花鳥風月最終章、月の音楽!」



エマが大声で言うと、カナルを攻撃していた蛾達が一羽残らず、七色の光の中に消えた。




「はあ…あ、ありがとう…エマ…。」



自由になったが、疲れたのか毒に当てられたのか、カナルはその場にペタリと座り込んでしまった。




「休む暇があるなんて、随分よゆーなんだね〜。」



「えっ…?」



「カナル!上だ!」



アルフが言う通り、ミトゥは今度はカナルの真上に居た。




「は、早い…!」



「カ・ナ・ル。なかなか楽しかったけど〜、そろそろ遊びは終わりにしようか〜。」



ミトゥの表情が、笑顔から見下すような鋭い目つきに変わった。




「カナル!…うっ。」



エマは舞いを始めようとしたが、体が動かない。



それどころか、体全体に痛みを伴い、めまいまでしてきたのだ。




「こんな時に…。」



舞を続け過ぎたための、重度の疲労が彼女を襲っていた。




「バイバイ、カナル〜。…闇の衝撃!」




バシュ!




イリアとリアゼを吹き飛ばした、オレンジ色の光が放たれた。


それは進むほどに巨大な球へと変化していく。




カナルの目前に迫った時には、彼の体の数十倍もある大きさになっていた。




(避けられない…!?)



カナルは無意識に大鎌を前に出した。




ドンッ!




…………………。




「ふ〜、終わった、終わった〜。」



ミトゥは、楽しかったけど物足りなかったな〜と残念そうに呟き、鉾を下ろした。




カナルの居た場所は白い靄に包まれていて、彼の安否はわからない。


しかし、声も気配も感じないことから、ミトゥはカナルが消滅したものと考えた。




「シ〜ス〜!こっちは終わったから、助太刀に行こうか〜?」



「大丈夫っ!あたしももうすぐ終わらせるからっ…。」



虚勢を張ってみたが、シスは実はかなり疲労していた。



彼女は圧倒的に攻勢だったが、どうしてもアルフに致命傷を負わせることができないのだ。



いや、致命傷どころかかすり傷さえ負わせられない状況であった。




「たあっ!」




ガキッ!




「くそっ…なんで、あたしの攻撃が効かないのっ!」




キーン!




「………。」



アルフは無言でシスを観察していた。


弾き返し、攻勢になるチャンスはいくらでもあるのに、あえてそれをしないようにも見えた。




「シス、大丈夫〜?」



「大丈夫だから!ミトゥ、あんたは舞ってた女にとどめを!」



「りょ〜かい。」



シスを気にしながらも、ミトゥはエマの方に目を向けた。




彼女はもう一歩も動けないようで、へたり込んだままキッとミトゥを見返す。




「動けない者を狙うなんて…卑怯だね、あんた。」



「卑怯〜?六人で二人と戦う方が卑怯じゃないかな〜?」



ミトゥは例のクスクス笑いをしながら、エマに鉾の標準をつけた。




「本当はアルフと戦いたかったんだけど〜、あなたでもいーや。私とシスのために…消えてね〜?」




ヒュッ…




勢いをつけ、ミトゥは鉾を振ろうとした。




しかし、




パシッ!!




「あっ…」



鉾は寸前の所で、何か強い力…風のようなものに吹き飛ばされた。




さらにその力は、アルフと戦っていたシスにも影響を与えた。



パリンという音を立たせ、シスの耳のピアスを割ったのだ。




「ピアスが…!」



シスはアルフへの攻撃を止め、耳を押さえた。




「まさか…?」



エマは信じられないような気持ちで、風が流れてきた場所に視線を移す。




「ふっ…ようやく目覚めたか。」



アルフは僅かに口元をほころばせ、鎌を持ち直した。




「今のは…僕が…?」



靄が晴れた地面の上には、カナルが立っていた。


彼の周りを、竜巻のような激しい風が取り巻いている。




「紛れもなく、おまえがやったことさ、カナル。」



「でも、なんで…?自分の鎌は使えなかったのに…」



「話は後だ。よそ見するな、カナル!」



「わっ…!?」



カナルはハッと気づき、サッと身をかわした。



…油断しているところを狙って、シスが鉾を振りかぶってきたのだ。




鉾は獲物を捉え損ね、虚しく宙を斬る。




「ちっ…やりそこねたか。」



シスは慌てず、体勢をきちんと整える。




「アルフ!カナルを手伝ってあげなよ。自分はもう動けないから…。」



エマは気を利かして進言したが、アルフは冷めた瞳で見ているだけだ。




「アルフ!」



「私はこちらの相手をせねばならんからな。」



アルフのオレンジ色の瞳がミトゥを映す。




「奇遇〜。私もアルフと決着つけたかったんだよね〜。」



大鎌と鉾が持ち主の心に応えたかのように、鈍くぎらつく。




「行っくよ〜?」



先に動いたのは、ミトゥ。



アルフの背後に周り、鉾を彼の背中に突き立てる。




「…遅いな。」



アルフは素早く振り返り、大鎌で防御する。


ガキッと刃物が触れ合う。




「カナル!こちらは私が食い止めておく。おまえは、鎌の力をより深く引き出すことに専念しろ。」



「あ…、うん!」



呼びかけられたカナルは、シスとの鍔ぜりあいに入っているところだった。




(力を引き出す…でも、どうやって…?)



「ちっ…兄弟そろって…あたしをばかにしやがって…!!」




ガキーン!




「わわっ…!?」



シスが不意に鉾を納めたことで、カナルは少しよろける。




「ダイヤル0!轟く雷撃。」



彼女の鉾に装飾されたダイヤルの目盛りが、稲妻のマークに合わせられる。




すると…ズガーンという凄まじい音で雷が辺り一面に降り注ぐ。


リアゼが敗れた技だ。




「うわあ!?」




ズガーン!!




左足近くに落ち、カナルはポテッと尻餅をつく。




雷は、所構わず落ち大地を揺るがす。




そしてその一つが、




「やっ…ああっ!」



エマを真上から襲う。




「エマ!」



カナルはシスと対峙していることさえ忘れ、エマに駆け寄る。




ズガーン!!




…雷は狙いたがわず、二人に直撃した。




………。




その場所だけ灰色の煙が立っている。




「あ〜あ。アルフのお墨付きの割には弱いんだね、弟君〜。」



「………。」



アルフはチラッ…と目だけを向けた。



だが、特に何の感情も示さずに、ミトゥに向き直る。




「心配じゃないの〜?意外と薄情だね〜、アルフって。…んっ!?」




パリン!




ミトゥのピアスが真っ二つに割れた。




気付けば、アルフの大鎌の刃先が自分の胸の前にあったのだ。




「…ミトゥ。おまえの負けだ。」



しばらく無言だったアルフは、事も無げに言う。




「ミトゥ!」



「…近付くと、ミトゥの命は無いがそれでも良いのか、シス?」



ミトゥに駆け寄ろうとしたシスだったが、こう言われてはうかつに動けない。



卑怯者…と小さく呟き、鉾を下ろす。




「カナル…エマ。二人とも無事か?」



アルフは大鎌をミトゥに突きつけたまま、灰色の煙の中に向かって問う。




答えるように、煙が徐々に晴れ、中から声が返ってくる。




「なんとか大丈夫…カナルのおかげだよ。」



「僕というか…兄さんの鎌のおかげだよ。」



カナルとエマは、薄い肌色のバリアに守られていた。


それが雷の直撃を防いだのだろう。




「兄さんの方は…?」



「…もう片はついた。」



「…へえ、さすがといったところだね。」



アルフの今の状況を見て、エマが感嘆の声を上げた。




「問題は、この者達を消すか生かすかだが…」



アルフは判断を委ねるというように、カナルに目をやる。



カナルは、ミトゥとシスを交互に見た。




ミトゥはジッと鎌の刃先を見つめ、シスは悔しそうに親指の爪を噛んでいる。




次にカナルはエマに視線を移す。



…彼女の表情は険しく、消す方がいいと訴えかけていた。




カナルはもう一度ミトゥを見て、すうと息を吸ってから答えた。




「消さないで…兄さん。」



「………。」



アルフはカナルの意見に応え、大鎌を背中にかけた。




見逃すという意味と悟り、ミトゥはスッとシスの所に移動する。




「ミトゥ!」



「シス…今日のところは退散だね〜。」



「…仕方ないか。」



ミトゥとの相談を終えると、シスはアルフの方をキッと睨む。




「私達は、負けたわけじゃないから!勘違いしないでよねっ!!」



そう捨てゼリフを吐くと、ミトゥとシスはどこへともなく飛去っていった…。




「行っちゃった…。これで…いいんだよね?」



自問自答するカナルに、エマがまあいいんじゃないかなとそっけなく答えた。




「あっ…そうだ!みんなを手当てしないと…!」



「…いや、その必要はないようだ。」



「えっ…?」



アルフの言葉に驚きカナルが見回すと、イリアとリアゼとシークは、ケガも無く元気に起き上がっていた。




「みんな…どうして…?」



「自分の舞には、治癒の力もあるのさ。」



不思議がるカナルに、エマが微笑んで答える。




「助かったぜ…エマ。」



「あーりがとうっ、エマ!」



「感謝するっす。」



三人の礼にエマは自分だけじゃないよと首を振る。




「そうだったんだ…ありがとう、アルフ、カナルっ!」



イリアはにっこり笑って、礼を述べた。




「俺からも礼を言うぜ、ありがとよ。」



「ありがとっす、カナル!兄貴!」



「え…ど、どういたしまして。そんなに感謝されると、なんか照れるよ…。」



「礼を言われるほどではないさ。」



頬を染めて照れるカナルとは裏腹に、アルフは何ともないような涼しげな顔をしていた。




しっかし…と、リアゼが思い出したように話題を振る。



「…あいつらはなんで襲ってきたんすかね?天界戦争があってるわけでも無いのに…。」



「そういえば…アルフ。君を知っているようだったけど、君の方はあの悪魔達に何かしたのかい?」



「………。」



エマの質問に、アルフは無言という形で答えた。




「アルフが恨まれるようなことするわけないよっ!きっと、何となく目に付いたから襲ってきたんじゃないかなっ?」



「何となく、ねえ…。」



シークは、何か言おうとしては止め言おうとしては止め…を繰り返ししているカナルを横目で見た。




「それは…」



「全ての元凶は私にある。私が道を誤ったばかりにこのようなことになったのだよ。」



「兄さん…。」



皆の注目がアルフに集まる。




「私は…死神として一度消滅し、ミトゥとシス…あの二人が私を復活させたのだ。」



「へえ…。それなら、なぜ君はその二人と敵同士になってるのさ?」



「………私が彼女達を裏切ったからさ。…それを逆恨みして、二人は私だけでなく、私と共に行動し始めた皆を襲ったのだろう。」



アルフはそこまで話すと、もう説明は不要だろうと話し止めた。




「ふうん…?もう一つ個人的に聞きたいんだけれど…カナルがピンチになっていた時に、なぜ助けなかったのさ?また、一瞬であの二人を止める力があったのに、ギリギリまで使わなかった理由は?」



エマの口調は、彼女の普段の穏やかさからは想像できないほど厳しく、責めるようであった。




アルフには事情があったんだよと言おうとしたイリアを、シークが制止する。




「力を…引き出すためだ。カナルの死神の力をな。そうしなければ、この先カナルは天界でも下界でもやっていけないだろうからだ。」



「さすが兄貴!弟想いで優しいんすね。」



リアゼがすかさず誉める。




当のアルフはそうではないと返したのだが。




「戦力を得るためだ。カナルの身を想っての行動ではない。」



「へっ?そ、そうなんすか…。」



「………おい、アルフ。あんた…何か変じゃねえか?」



拍子抜けして言葉を続けられないリアゼに代わり、シークが訊いた。




「アルフのどこが変なのっ、シーク?いつもと同じでクールで素敵だよっ?」



「いや、確かにいつも通りなんだけどよ…なんかこう…感情が薄いというか…」



「いつも通りなら、変じゃないでしょ?シークの方が変だよっ。」



イリアに指摘され、うっとシークは口をつぐむ。




「言われてみれば…確かに変だね。いつもより…瞳が冷たい感じがする。十数年前の天界戦争の時みたいに…。」



「………。」



エマの視線を、アルフはスッとそらした。




「兄さん…?」



「………カナル。いずれ、おまえにもわかる日が来る。狭間の死神であるおまえになら。」



心配そうに自分を見つめるカナルに、アルフは顔を向けずに言った。




「まさか…狭間の死神が死神になる時の代償って…」



「感情を失う…もとい、感情どころか心自体を失うってことじゃないかな?」



エマが推測して言った。




「心を失うって…嘘っ!?本当なのっ、アルフ!?」



「兄貴!?大問題じゃないっすか…それ!」



「何がだ?私は元々感情は薄い方だ。今更、心を失ったところで支障など皆無だ。」



慌てふためくイリアとリアゼに、アルフはきっぱり言った。




「そんな…。僕の力を引き出すために…僕のせいで…」



「カナル!…泣き言を言うな。おまえのせいではない…全て私が選んだことの結果だ。」



「だ、だけど…」



「…もう良い。おまえは早く家に帰れ。私達も…天界に戻る。」



アルフは冷たく言い放つと、一人でさっさと天界に飛び去った。




「あ…アルフっ!イリアちゃんも一緒に戻るっ!」



「兄貴!待ってっす!」




バサバサバサッ!




イリアとリアゼも、アルフの後を追い天界に帰っていった。




「兄さん………。」



「カナル…あんまり気に病みなさんな。あいつがおまえのせいではないと言ってるんだ。…おまえは何も気にせず、下界で暮らしゃいいんだ。」



「うん………。」



「…じゃ、自分達も戻るから。アルフのこと…閻魔様や最高神力者にも相談してみるよ。」



「ありがとう…。」




バサバサバサッ!




エマとシークも去り、後にはカナルだけが残された。




彼はしばらくひまわりを見ながら立ちすくしていたが、やがて意を決したようにキッと顔を上げた。




(…兄さんが自分の心と引き換えに僕を鍛えてくれるんだ。僕も…落ち込んでる場合じゃないよね?)



「よっし!僕だって…頑張るんだから!」



そう天に誓い、彼もまたひまわり畑を後にしたのだ…。



全てを見ていたひまわり達は、いつものようにザワザワと風に揺らめくだけだった…。
















始まるから終わる。




終わるから始まる。




矛盾しているように聞こえる二つの言葉は…




いつしか交錯し…




運命を告げる………。









-To be continued…-

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