ざまぁ7
ざまぁみろ 勇者
守護者、ダリアはサクサク逃げるぜ。
ギルド職員、副ギルド長の彼がくれた情報は価千金の情報だった。
遠距離のパーティ募集の場合、ギルドを介して行われる。もし断られた場合、無駄足になることから普通は返事が返ってきてから合流することを取り決める。
なのに、勇者一行は既に旅立ったというではないか。
「まだ中央ではそんなに注目されてないけどね。地方ではあのお馬鹿一行って有名なんだ」
副ギルド長が緑茶の入ったカップを置くとニイと口を三日月型に歪めた。
―殺られる―
身構えようとして、今はカフェの制服だったことに気がついた。
「うんうん。怖がらないで。おじさん悲しくなっちゃう」
良く聴いてね。と姿勢を正した副ギルド長にこちらも背筋を伸ばした。
ダリアから濁点をとっただけで別人として認識されているということは手紙を読んだときからわかっていた。
お金が無いというのも、隣でよく見ていたからわかる。
王国からの援助も、大神殿からの援助もきちんとした書類申請をしてからじゃないと受け取ることが出来ない。
中央に近ければ顔パスでいけるが、地方、それも馬で1ヶ月もかかるような場所では勇者である証明が必要なのだ。
具体的には街から出るときにきちんと次の行き先を領主、教会に申し出ておき、新しい街に、入ったときにきちんと双方に挨拶にいく。その時までにこちらの人相なり、名前なりが前の都市及び中央政権から証明されればその街で、活動する分の援助金が貰える。
そういった手順を省けば、援助金を受け取るまでに時間がかかり、そしていつもの通りに見栄を貼ったふるまいをしていれば路銀が尽きるのも当たり前だ。
「王都を挟んで反対側にいる人をわざわざ追いかけてくるなんてどういうことかな?とも思うけど。タリアちゃんのためならおじさんひと肌脱ぐからね」
副ギルド長の一言に瞳をまたたかせる。
「せっかく新しいギルドカードを発行してもらったというのに、うちのバカのせいで迷惑かけたわけだし」
バカとは誰?一体なんの話を?
「うちのギルド長がタリアちゃんの事をあちこちで言いふらしてさ。優秀な冒険者がいるって。勤勉で実力もあって街の人からも人気の娘ってさ」
マスターお代わり、タリアちゃんの分もと副ギルド長が注文をすれば、店で一番人気のパフェがでてきた。
半ば愚痴のような副ギルド長の話を聞き終え、早く次の街に行ったほうがいいと言うことで、愛馬となりつつある相棒の馬にまたがった。
「気をつけてね。できる限り、勇者御一行様達は撹乱させておくから」
街の門を副ギルド長権限で開けてもらい、次の街へと旅立つ。全てが上手く行った暁にはこの街に帰ってきたい。そう思えた街だった。
*******
「は?断られた?なぜ???」
返事も待たずに出立した勇者一行がタリアの返事を受け取ったのは次の街へとたどり着いた時だった。
「わかりません。理由は書かれておりませんので」
淡々と答えるギルド受付嬢に血管が切れそうになる。
「そこを聞くのがあんたたちの仕事じゃない?」
剣聖アーティアがカウンターを叩くが、ちらりと見られただけでどこ吹く風だ。
「アーティア、落ち着け。俺たちの計画は何も変わらない。王都に一時帰還して、王様と謁見、大神殿長様と謁見して、新しい仲間を迎えに行く。ただそれだけじゃないか」
この街には一度立ち寄っている。王都から出発してきたときは大歓迎で迎えられたのだが、何故か出ていくときもまた大歓迎で見送られた街だった。
それが今は舌打ちでもしそうな態度で迎えられている。ギルドに併設された酒場の奥ではこちらを見ながらヒソヒソと話を、する集団が複数ある。
「新しいお仲間ですか、そうですね。守護者様が抜けられたと言うことは盾職をお探しですか?」
「抜けたわけではないんだ、あいつが今いないのはちょっと怪我をしてしまってね。5人でやっていくには厳しいからもう一人入れようかと思って」
「え?でも、正式にダリア様は脱退されておりますよ?こちらにきちんと……」
受付嬢が手に持っていたパーティカードを無理矢理奪い取る。
その背面に今まで気づかなかった変更が施されていることに今更気づいた。
異様な雰囲気に、受付嬢の眉根が寄せられる。
「あいつ、ダリア・ロッケンの記録はどうなっている?」
サリエルはパーティカードの後ろに記載されている名前で、やっと元婚約者の名前を思い出した。
唸るように受付嬢を、といつめれば大慌てで資料をひっくり返す。
しばらくして返ってきた言葉に自らの矛盾を突きつけられた。
「ダリア様の情報は、1ヶ月以上前に行方不明となっています。でも、いまさっき怪我をなされているとか見つかったわけですよね、でしたら今ここで情報を、書き換えましょうか?」
そうだダリアを見捨てた街で、行方不明の話をしたのは自分ではないか。
――
―
「直ぐに王都に向かおう」
ギルドから帰って来て第一声にリアとマリーは首を傾げた。
先程この街にたどり着いたはずだ。王都にほど近いこの街で宿の手配を任された二人が選んだのは以前と、同じ高級宿。
そこの一室でギルドに立ち寄ったサリエルと、アーティアを待っていたのだが。
「事情が変わったのよ」
忌々しげに唇を噛むアーティアに何事かと二人は顔を見合わせた。
「行方不明のはずのあいつが生きている可能性がある」
「はい?」
「え??」
「パーティカードは基本申告制なのは覚えている?パーティの内の誰かが申請しないと更新されない」
「それが、更新されていた。誰が脱退の申告をした?俺たちではない。なら?」
「嘘でしょ?」
「ダンジョンからそうそう脱出できるわけ」
「俺たちの後に入ったパーティがスクロールを持って帰ってきたんだ。スクロール以外も持って出てきたとしたら?」
「荷物、返ってくるの?やったぁ」
的外れな答えを導き出したリアに他の3人が苦笑を浮かべた。
もちろんもって出て来たものにそれは含まれていたかもしれない。だが、持って出てこられては勇者一行が困るもの、ダンジョンの奥深くに置いてきたダリアそのものを持って帰ってきた可能性が高いと勇者は踏んだ。
実際は一人でサクサクッと出てきた訳であるが、勇者はまだ知らない。
「ダリアが王様や神殿長様に告げ口するより先に言わないと、盾のときと同じになるぞ」
仲間を殺そうとしたとバレれば援助金が大幅に減額される未来が見える。
ここで上手く切り抜けないといけないのだ。
街を去るときは大歓迎
やらかしているので大歓迎なのですよ。お馬鹿さん。