ざまぁ6
手にした金を片手に宿屋で思案する勇者に聖女リアが、しなだれかかった。
「サリエル様。それで新しいリアの服買ってくれる約束」
「…それは、この街にあるダンジョンをクリアしてからだ」
先日のダンジョンでは最奥で、ダンジョンスクロールを見つけた。それが重要なアイテムだとは知らずに手に取ろうとした奴にすでに決まっていた追放を告げて、奴が嘘の申告を言わないように工作をしてきた。
いつもならダンジョン攻略をギルドに告げるとそのまま了承を得て、攻略報酬を手にすることができた。
だがあの日から、ダンジョンスクロールの存在すら知らぬ馬鹿勇者ご一行様という不名誉な噂が出回るようになり、しかも勇者が攻略したダンジョンだというのに、後から入ったパーティがダンジョンスクロールを持ち込んだ為に、ダンジョンの攻略はそいつらということになってしまった。
当然攻略分の報酬はそいつ等のものとして支払われ、正当な請求をしようとしたら衛兵に止められているうちにそいつ等は姿を消してしまった。
「リア、アンタまたっ…」
アーティアが部屋に入ってきたかと思うとリアとアーティアのケンカが始まる。
考え事もできない。
「お前ら、暇ならダンジョン攻略でもしてこいよ。そんくらいわかるだろ?」
あまりに不名誉な噂とダンジョンがなくなったことで勇者は不要だと追い立てられるようにあの街を追い出され、なんとかこの街に再びたどり着いたのは良いものの、教会に行けば申請書類が受理されるまで援助金は出せないとのことで、一週間も待たされた。
これも前回とは異なる点だ。
教会の司祭にどういうことか聞けば、奴の仕業らしい。
まったくコソコソと行動していたとは、なんとも姑息な奴だ。
「ちっ、どいつもこいつも使えねーな」
壁に立てかけた剣を手に取ると教会が用意してくれたチンケな部屋の一室をあとにした。
しなびれた街のしなびれたダンジョンを攻略した勇者一行は久しぶりに手にしたダンジョン攻略報酬をテーブルの上に並べて顔をつき合わせていた。
「奴を追い出し、新たなメンバーを加える。それが俺たちの目的だった」
「ええ、そうね」
「無駄飯ぐらいの金食い虫を追い出したはずなのに、どうして私達こんなにお金がないのかしら?」
「姑息、卑怯もの…のせい」
「ああ、確かにそうだ。だが、いつまでもこの世にいないやつのことを言っても仕方ないだろう?そこでだ」
得意気に勇者サリエルが3人を見廻した。
「新しいメンバーをいれる。コイツでな」
そう言って机の上に置かれた金貨を弾いた。
「有名な勇者一行のパーティメンバーという箔があればすぐにでも人は集まるだろう」
クククと喉奥で笑い声を上げた勇者に向けて3人の少女はキラキラとした瞳を向けた。
「さすがは、勇者」
「そうよね、もう魔物に触るの嫌だったのよ。そういうのは私の仕事じゃないわ」
「あの子みたいに実力のない子はうんざりだわ。ただ突っ立ってるだけの子は入れないで」
フフフと不敵に勇者が笑う。
「実は既に目星をつけているやつがいる」
どんな人?と尋ねる声に手をだして押し止める。
「この町からだいぶ離れた街に、腕のある冒険者がいるらしい」
「…私達、旅立ってから大分経つものね。ここで一度王国に帰るのも1つの選択かもしれないわ」
「それも、そうねぇ。一度王国に帰って王様に顔を出すのも一つかしら」
剣聖アーティアと賢者マリーが勇者サリエルに教えられた街の名を見つめながらつぶやいた。そこは今いる街から王都を通り過ぎてたどり着く街。
旅の途中とはいえ、立ち寄らないわけにもいかない。
「よし、そうと決まれば早速ギルドで手配をしてくる」
「その人がこっちに、くる?」
リアが尋ねるがサリエルは首を横に降った。
「最初だからな。俺たちが直接出向けばあっちは完全に俺たちに心酔するだろ?教会の信徒と一緒さ。俺たちに心酔すればするほど俺たちがやりたくないことをしてくれる奴等の出来上がり、さ」
ニヤ、と醜悪な笑みを浮かべてサリエルは席をたった。
*******
午前中は狩り、午後はカフェの店員という仕事を続けてからずいぶんと日が経ってしまった。居心地が良すぎたともいう。
今では簡単な呪文が唱えられる程、カフェに馴染んでいた。
「えっと、ご注文は、森の緑あふれるサンサンアリプレータ緑茶ですね?」
「はい。森の緑あふれる陽陽ありふれた緑茶で間違いないです」
常連客の方が呪文を間違わずに言えるとか、もう彼はここに就職したほうが良いのではと思いながらも厨房へと注文を通す。
「緑茶おまたせ!」
厨房から注文の品がでてくるのをテーブルへと運ぶ。
「お待たせ致しました」
「実はね、休憩がてらタリアちゃんにお使いなんだ。急ぎのね」
お客の彼が差し出す手紙に手を伸ばす。
それに気づいたマスターが客と同じ緑茶を用意するとダリアに、座るように言いつけた。
常連客であるギルド職員の彼が持ってきたのは緊急性の高い手紙につけられる印が刻まれている。
のんびりとお茶を飲んでいる彼はダリアの返事を持ち帰らなければいけないはずだ。
一体、誰からで、なんの要件だと急いで開封する。
「………」
手紙の差出人は知らない街のギルドから。
――
貴殿の功績は遠いこの地にも聞こえている。そこで貴殿に是非
勇者パーティに合流してほしい。
――
夢でも見ているのだろうか。
それもとびきりの悪夢を。
「お断りです」
「りょーかい」
お茶を堪能しているギルド職員がにやりと笑った。
「俺ね。この街に来る前は王都ギルドに、いたんだ」
手紙に集中していた視線をあげると面白そうに笑っている彼がいた。
「タリアちゃんが誰かなんて告げ口はしないから安心して?あ、代わりにこういう情報はどう?」
表情を引き締めたギルド職員が、この街に、向けて勇者一行が旅立ったと口にした瞬間、思わず立ち上がってしまった。
「安心して、まだ君だとバレたわけじゃないし。君には素敵な相棒がいるけれど、勇者御一行様方には馬車一台借りるお金すらない。この街に、たどり着いたとしても2ヶ月くらいかかるんじゃないかな?」
教会の司祭が不審を抱き、
大きな街のギルド上層部は既に勇者一行を信用していない。
ギルド職員の彼は副ギルド長だったりします。
とりあえず、
ざまぁ!さっさと落ちぶれろ勇者