ざまぁ3
ざまぁみろ、勇者
「はあ?どういうことだよ」
「どういう事と申されましても、規約でして…」
冒険者ギルドの受付でもめているのは勇者一行。勇者一行がもめているとあって近くにいた者たちは興味津々で聞き耳を立てていた。
「だから、ダンジョンはクリアした。モンスターは倒した。っていってんの、わかんねーかな。」
「ですから、ダンジョンクリアした証拠となるスクロールをお出しくださいと申しあげています。モンスター討伐も討伐部位をもって達成とみなし報酬をお出しします。いくら勇者様といえどそれがない以上無理です。」
「さっきからなんなのこの女。勇者が、モンスターたおしたっていってんの!さっさと報酬よこしなさいよ」
「ですから」
何を言っても受付嬢は一歩もひかない。
また勇者も一歩もひかず、このままでは危ないとギルド職員によってよばれたギルド長が奥からでてきた。
「サリエル様、どうぞこちらに」
大声で叫んでいたから大体の事情はわかっている。
いや、叫ばなくても分かっていたというべきか。
「やっと話がわかるものがでてきたな。」
尊大に立ち上がった勇者は薄汚れた格好をしていた。
つまり、彼らは金が無い。
だから無理を言って金を引き出そうとしているのだ。
これから一波乱あることにギルド長はこっそりとため息を吐き出した。
*****
「では、改めてお話をお聞かせねがいます。」
「俺たちは昨日この街のダンジョンをクリアした。そのクリア報酬を頂きたい。」
「わかりました。ではクリアした証のスクロールをお出しいただけますか?」
「スクロールはその、ダンジョンの中で落としてしまって」
事実は昨日のうちに聞いている。
彼らは落としたのではなく、置いてきたのだ。それを取ろうとした少女に「追放だ」と叫び、驚いた彼女を置き去りにした挙げ句、容易に脱出出来ないようにダンジョンの壁を破壊をしたらしい。なにも準備していなければそこで餓死なり、新たに出現したモンスターにやられるなどして、死を迎えるしかない。だが、少女はきちんと準備をしていた。ダンジョンから即脱出できるアイテムを遣って既に証拠は届けられている。
(さて、そろそろ次の街についたかな?)
一昼夜の差は、工作する分には十分な時間だ。
自分がするのは勇者一行の足止め。覚悟を決めて朝から待っていたのだが、もうそろそろ日が暮れるというこの時刻。
(一体どれだけ迷えばこんなに時間がかかるのやら)
ギルド長はしらない。
勇者一行が戦いと援助金以外の事を全て少女に押し付けていた事で安全にダンジョンから脱出できる転移石の存在を知らないことを。
さらにいうなら援助金は武器や防具に全額使われていて、旅の資金、宿泊や食事、アイテムについては討伐報酬、素材売価(全て少女がそれらを常に持ち運び、他のメンバーは汚いから触りたくないとか荷物が多くなるから嫌だとかの理由でてにすらしないそれら)によって成り立っていたことを。
「ですから、再三申しあげている通り…」
受付嬢と同じ問答を小一時間、勇者一行とギルド長は繰り返した。
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「報酬、…少ない」
「全くその通りだわ。いつもならバーンと金貨を積み上げてくれるつーのに」
「『今までの実績を鑑みて』だなんて、詭弁も詭弁だわ。たかが金貨5枚だなんて」
金貨が積み上げられる理由すら理解しようとせず、情けとばかりに貰った金貨5枚は
一般的な庶民の月収の5倍もの金額だということも知らずにそんなことを言う勇者一行。
普段泊まっている高級宿に泊まればそんなもの3日もすればなくなるということも知らずに泊まり、いつものようにはしゃいで、次の日には全て無くなっていた。
「宵越しの金は持たねーってな」
ハハハと高らかに笑い、勇者サリエル一行はギルドに向かった。
そこで絶望に落とされるとも知らずに。
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勇者が、高笑いしているより、数時間も前に少女は草原が広がる大地にポツンと浮かんだシミのように小さな村で目を覚ましていた。
のびを一つして、近くで一緒に寝ていた相棒に挨拶をする。
「おはよう」
栗茶色の脚が速い相棒。
昨日からの付き合いだというのに反応を返してくれる。
「よしよし。良い子」
首筋をなで回したあと朝ごはんを用意する。
軽くブラッシングをして調子を確かめればきもちよさそうに鳴いた。
「今日もよろしくね」
あの街から、勇者一行と別れた街から距離を取るためにしばらくは旅を続けなければならない。
「まだまだ、先は長い。」
ヒヒン、とつぶやきに答えが返ってくるのが嬉しくてもう一度ブラッシング用のブラシに手をかけた。
ギルド長ファイッ!
ダンジョンスクロールはダンジョンコアです、ね。
コアは破壊のイメージがあり、スクロール(ダンジョンの真理書)を持ち帰るという形にしてみました。変だったらコアに変更しまーす。