ざまぁ2
反省会と言う名の、食事を終えた勇者一行が店を出ると、後からあわてて酒場の主人が追いかけてきた。
「お客様、代金のほうがまだ…」
「あぁん?」
怪訝な顔でにらみつけると、酒場の主人が態度をかえた。
「おい、まさか勇者ともあろうものが無銭飲食するつもりじゃねーだろうな」
ゴキ、と腕を鳴らして酒場の主人が一歩近づく。
「代金?」
「私達はいつも通り…」
「あぁん?…おい、嬢ちゃんはどうした?いつも、嬢ちゃんが支払ってくれてたじゃねーか」
酒場の主人の問にあいつは死んだと、ダンジョンの中でモンスターにやられてしまったと告げるといかつい顔に驚きの顔を貼り付けていた。
「……っ、まさかと思うがお前らがやったわけじゃないだろうな?」
不名誉極まりない質問に、首を横にふる。
事実は限りなくその通りではあるが、実際に手を下したわけじゃない。
「俺達にとっても、あいつを失ったことは…」
本音を漏らさぬよう顔をしかめ、言葉を途切れさせる。
「…それは、……災難、だったな。しかしそれとこれとは別の話だ。食ったもんの代金は支払ってもらおうか」
酒場の主人が告げた代金はほぼ勇者の所持金と同じであった。
「ま、まぁギルドに行けば金ができるしな」
「そうですよ」
「やっとお風呂に入れるー」
「ふかふかの布団」
「よーし、お前ら急ぐぞ」
彼らはまだ知らない。
ダンジョン攻略の証拠も、モンスター討伐の証明部位も、さらに買い取ってもらえるはずの素材云々も、持ち運んでいたのは彼らが置き去りにしてきたはずの少女が持っていたことに。
ギルドにいったとして、一銭も彼らに入らないということに。
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一方、そのころ少女は。
ダンジョンで一夜を過ごした勇者一行と違って昨日の内に街に戻ってきた少女は、所持していた諸々を全て売り払い、そのお金で新調した装備に身をつつんでいた。
今まで、見栄を貼る勇者や物の価値のわからない聖女様のために出ていくお金ばかりで自分の装備の分のお金など作れるはずもなかった。
少しでも良い装備のためにとわずかながらの小金を貯金していれば、それすらもパーティの為と取り上げられ、たびに出た頃に作った装備のまま過ごしてきた。
「動きやすい、壊れない、装備最高!」
少女も日々成長しているのである。古い装備のままであると、呼吸がしづらくて、戦闘に支障がでていた。
それを勇者に告げてはいたのだが、お前の装備などそれでいいと。それよりかはアタッカーである二人の少女の武器や防御力の低い聖女のために金を使うべきだと、特に教会から援助を受けている以上、その分は聖女に使うべきだと言い切られてしまった。なら、国からの援助金から捻出をといえば、大事な金をそんなちんけな理由に使う必要はないと大声で喚き立てる勇者に反論を言うことにすらつかれてしまい、古い装備のままだったのだ。
(さてさて。今日のお宿はっと)
既にギルドには、街移動の件は告げてある。もちろん勇者一行のパーティから抜けたことも。その上で、勇者一行が自分について言及した場合は適当にごまかしてくれるという言質もギルド長直々に頂いていた。
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「勇者といえど、人を見下すあの態度にこの街の者は腹に据えかねているのです。早くあのダンジョンをクリアして別の街に行かないかと常々思っていたところですが、貴方様が抜けられたら攻略どころか全滅でしょうな。」
「腐っても神より勇者、聖女、剣聖、賢者という称号を得ている者たちです。そうやすやすと全滅はしないでしょう。ですが……」
「ハハハ、これは失敬。そうですな。彼らが全滅するのは戦闘の最中では無い。」
ニヤリと意味深に笑ったギルド長にダンジョン最奥で手に入れたスクロールを手渡す。
「グダグダいうようならこれを渡して放逐してやってください。」
「できればこれの報酬は貴女に渡したいものだが」
「暴動が起きるよりマシということで」
「そうですな。ならばこれは餞別ということで」
ギルド長から手渡された、新たなギルドカードをてにする。
「念の為、そちらのカードを使ってください。これまでの実績などはそのまま。名前だけ変えてあります。」
私の名前など覚えてもいなさそうだけれどもと思いつつ、ありがたくそれを受け取った。これから祖国までの道程を一人で辿らなくてはならない。身分を明かせば国が保護してくれるかもしれないがそうならない可能性も大きい。
その可能性を考えると旅費を稼ぎながら国に帰るというのが一番確実。家督を継いだ兄に勇者の実情を話せば匿うぐらいしてくれるはず。
「ギルド長、そろそろ行きます。便宜を図っていただきありがとうございました。」
「あぁ気をつけてな」
久しぶりに一人で見る青空は青かった。
ざまぁ!無銭飲食野郎め!