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不便な世界を生きやすく  作者: 途時
3/3

搭乗者たち


昨晩早く寝たためか、今朝は早く起きた。

服を着替える。今日は、昨日の道中で買った平民風の服装で、黄色のチュニックに白い長ズボンを履いている。これに白い靴を履き、白いつば広帽子で目立つ髪を隠して完成だ。

食事を取ったあとすぐに宿を出た。

街の中を歩いていると、1台の馬車が止まっていた。そのすぐ近くに看板が立っていた。そこには乗合馬車と書かれていた。


『すみません、この馬車は何処まで行きますか?』

「ウェスタリア王国のホワイトリー公爵領だ。1日と半日で銀貨5枚。お嬢ちゃん、乗ってくかい?」

『はい!お願いします!』

「出発は1時だ。遅れねぇ様にな!」

『はい』


助かった。2日間ずっと歩き続けたため、疲れが溜まっていたのだ。

ホワイトリー公爵領はそれなりに王都から近く、海と農園が広がっている。貿易もさかんだ。

今は7時だからあと6時間、買い物をして本を読もう。そう思い、私は買い物をした。買ったのは日用品だ。

そして、本をよみ始めた。

この本のタイトルは《魔法の使い方》だ。

内容は


・魔法は呪文を唱えるものと魔法陣を書くものがある。

・呪文が長ければ長い程明確に現れるが、威力自体は魔術師本人の魔力やコントロールによる。

・基本的な属性は火、水、風、土、光、闇でそこから氷や雷などにわけられ、術者によって得手不得手がある。

・呪文を唱える時は杖を振る。

・杖は自分で作ることもできるが、あらかじめできている物から相性の良い物を選ぶ場合の方が多い。

・生活魔法は杖無しでもOK。

・魔力を火や水に変換する様な感覚をイメージ。

・イメージが大切。


ということだ。

イメージか……以外と簡単そうだ。砂漠に住んでいる人が水をイメージするのは難しいだろうが、私は違う。文明が発達した惑星・地球に住んでいた日本人なのだ。イメージはしやすい。

しかし、杖が無ければ魔法が使えないとは……できることなら自分で作りたいが、いくら位するのだろうか。

そう考え込んでいると時間が経っていたらしく、すぐに昼食を取ると、12時50分になっていた。急いで馬車に向かった。


「お嬢ちゃん、ギリギリだぜ。乗ったらすぐに出発だ!」

『はい』


私は馬車に乗り込んだ。馬車の中には熟年夫婦と、おばあさんとその孫っぽい女の子と、黒いコートでフードをかぶった男?がいた。私は熟年夫婦の隣に腰掛けた。


「それじゃ、出発するぞ」


御者の声と共に馬車が動き出した。馬車が動き始めてすぐ、熟年夫婦の妻が話しかけてきた。


「お嬢さん、飴玉いるかい?ほらそこのお嬢ちゃんも!」


おばさんは私と女の子に飴玉を見せた。


「わーい!やった!」

「コラ、エイミー!ちゃんとお礼を言わんか!」

「えへへ、ありがとうおばさん!」

「いいんだよ。余るほどあるから。お嬢さんは?」

『あ、ありがとうございます。いただきます』

「はい、どうぞ」


おばさんが取り出したのは琥珀色に輝くまん丸の飴玉だ。それを受け取ってすぐに口に入れた。すごく美味しそうだったから。

飴はほんのり甘い。


『おいひーです』

「そりゃあ良かった。家はホワイトリー公爵領で飴屋をやっててね。今週はハーデンス王国に飴を売りに来てて、今日から帰る予定だったんだ」

「この飴、とっても甘い!なんで?」


女の子がそう聞いた。この世界では砂糖がとても貴重で高価だ。

だからこの飴はおそらく、


『蜂蜜、ですか?』

「よくわかったね。そうだよ」

『他にはどんな味があるんですか?』

「ぶどうといちごとレモンだよ。あと、風邪に効く飴」

『風邪に効くんですか?』

「まぁ少しね。薬は高価だから」

『なるほど』


確かに平民からすれば薬は高い。一部の貴族にはお抱えの医師がいることもあるけど。


「そういえば自己紹介がダウンまだだったわね。私はアグネス。こっちは夫のエイベル。寡黙だけど話はちゃんと聞いてるから」

「私はエイミー!10歳!おばあちゃんと一緒にお祭りに行くの!」

「エイミーの祖母のシンシアじゃ」

『私はルイです』


ルイは氷波類からとった。平民はファーストネームが無い者の方が多いため、名前だけでこたえた。

アグネスさんがなかなか名前を言わないフードの男に声をかけた。


「あんた、名前は?言いたくないならいいけど、2日間も一緒なんだから。皆なんて呼んでいいか分からないよ」

「………フィル」

「フィルね。分かったわ!」


全員の自己紹介が終わり、また会話が始まった。


「エイミーちゃんとシンシアさんは何のお祭りに行くの?」

「国王様の誕生祭じゃよ。わしはウェスタリア王国出身でな」

「なるほど、そうだったんですか。ルイちゃんはどうしてウェスタリア王国に行くの?」


きた。されたくなかった質問。口止めされてるわけではないから正直に話してもいいんだけど、態度を変えられるのは嫌だし、何より説明するのが面倒くさいので適当に理由を考えておいた。


『出稼ぎ兼家出です。私が住んでいたところは税金は多いのに収入がほとんど無くて。両親にもこき使われて……だから逃げ出して来たんです』

「まぁ、大変ね。安心して、ウェスタリア王国はいいところだから。ところで、ルイちゃんはウェスタリア王国に働くあてがあるのかしら?」

『いいえ、残念ながら無いです。ウェスタリア王国についたら、まず仕事探しから始めます』

「ならちょうどいいわ。うちで働かない?住み込みで!」

『ありがたいですけど、いいんですか?私で』

「いいわよ!あなたみたいな綺麗な女の子がいてくれれば、飴ももっと売れるわ!給料もしっかり出す。だから、ホワイトリー公爵領にいる間だけでも、お願い!」

『……わかりました。これからよろしくお願いします』


エイベルさんには何も聞かなかったが良かったのだろうか?まぁ、怒っているわけでも無さそうなので良しとしよう。


「ほら、見て!国境を越えるわよ!」


アグネスさんの言葉で窓の外を覗き込むと、そこには大河が流れていた。その奥には美しい街並みが広がっており、遠くにはお城のようなものも見えた。


「おーい、もうすぐで今日の宿に到着するぞ!」


御者さんに声をかけられ、少し経つと馬車が止まった。皆が馬車をおり、宿に入った。

お金を払い、鍵を貰った。アグネスさんとエイベルさん、エイミーちゃんとシンシアさんはそれぞれ二人部屋で残りは一人部屋だ。

全員での食事が終わり、部屋に入った。

本を読もうと思ったが、持っていた本は全部読んでしまったので、今日はすぐに寝ることにした。

ベッドに入り、目を閉じた。



が、なかなか寝付けず起きてしまった。寝巻のままでははしたないが、外に出てみることにした。


夜なので誰もいないだろうと外に出ると、そこには人が立っていた。フードをかぶった男、フィルだった。とっさに隠れようとしたが、すぐに見つかってしまった。


「そこで何をしている?」

『寝付けなくて……こんな格好ですみません』

「いや、別に……。それより、ご令嬢がこんな所にいていいのか?」


!?!?なんで知って……


「見てれば分かる。言葉遣いや細かい動作からな」

『それを知って、どうするつもりですか?』

「どうもしないさ。俺も似たような物だからな」

『そう、ですか……』


似たような物……彼も何処かから逃げて来たのだろうか?名前も偽名かもしれない。

あまり詮索するのはやめておこう。

だんだんと眠くなってきたため、部屋に戻って寝よう。


『私、もう寝ますね』

「ああ、おやすみ」

『おやすみなさい』



さっきまで冴えていた意識が嘘のように眠くなってきたため、ベッドに入るとすぐに寝た。












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