搭乗者たち
昨晩早く寝たためか、今朝は早く起きた。
服を着替える。今日は、昨日の道中で買った平民風の服装で、黄色のチュニックに白い長ズボンを履いている。これに白い靴を履き、白いつば広帽子で目立つ髪を隠して完成だ。
食事を取ったあとすぐに宿を出た。
街の中を歩いていると、1台の馬車が止まっていた。そのすぐ近くに看板が立っていた。そこには乗合馬車と書かれていた。
『すみません、この馬車は何処まで行きますか?』
「ウェスタリア王国のホワイトリー公爵領だ。1日と半日で銀貨5枚。お嬢ちゃん、乗ってくかい?」
『はい!お願いします!』
「出発は1時だ。遅れねぇ様にな!」
『はい』
助かった。2日間ずっと歩き続けたため、疲れが溜まっていたのだ。
ホワイトリー公爵領はそれなりに王都から近く、海と農園が広がっている。貿易もさかんだ。
今は7時だからあと6時間、買い物をして本を読もう。そう思い、私は買い物をした。買ったのは日用品だ。
そして、本をよみ始めた。
この本のタイトルは《魔法の使い方》だ。
内容は
・魔法は呪文を唱えるものと魔法陣を書くものがある。
・呪文が長ければ長い程明確に現れるが、威力自体は魔術師本人の魔力やコントロールによる。
・基本的な属性は火、水、風、土、光、闇でそこから氷や雷などにわけられ、術者によって得手不得手がある。
・呪文を唱える時は杖を振る。
・杖は自分で作ることもできるが、あらかじめできている物から相性の良い物を選ぶ場合の方が多い。
・生活魔法は杖無しでもOK。
・魔力を火や水に変換する様な感覚をイメージ。
・イメージが大切。
ということだ。
イメージか……以外と簡単そうだ。砂漠に住んでいる人が水をイメージするのは難しいだろうが、私は違う。文明が発達した惑星・地球に住んでいた日本人なのだ。イメージはしやすい。
しかし、杖が無ければ魔法が使えないとは……できることなら自分で作りたいが、いくら位するのだろうか。
そう考え込んでいると時間が経っていたらしく、すぐに昼食を取ると、12時50分になっていた。急いで馬車に向かった。
「お嬢ちゃん、ギリギリだぜ。乗ったらすぐに出発だ!」
『はい』
私は馬車に乗り込んだ。馬車の中には熟年夫婦と、おばあさんとその孫っぽい女の子と、黒いコートでフードをかぶった男?がいた。私は熟年夫婦の隣に腰掛けた。
「それじゃ、出発するぞ」
御者の声と共に馬車が動き出した。馬車が動き始めてすぐ、熟年夫婦の妻が話しかけてきた。
「お嬢さん、飴玉いるかい?ほらそこのお嬢ちゃんも!」
おばさんは私と女の子に飴玉を見せた。
「わーい!やった!」
「コラ、エイミー!ちゃんとお礼を言わんか!」
「えへへ、ありがとうおばさん!」
「いいんだよ。余るほどあるから。お嬢さんは?」
『あ、ありがとうございます。いただきます』
「はい、どうぞ」
おばさんが取り出したのは琥珀色に輝くまん丸の飴玉だ。それを受け取ってすぐに口に入れた。すごく美味しそうだったから。
飴はほんのり甘い。
『おいひーです』
「そりゃあ良かった。家はホワイトリー公爵領で飴屋をやっててね。今週はハーデンス王国に飴を売りに来てて、今日から帰る予定だったんだ」
「この飴、とっても甘い!なんで?」
女の子がそう聞いた。この世界では砂糖がとても貴重で高価だ。
だからこの飴はおそらく、
『蜂蜜、ですか?』
「よくわかったね。そうだよ」
『他にはどんな味があるんですか?』
「ぶどうといちごとレモンだよ。あと、風邪に効く飴」
『風邪に効くんですか?』
「まぁ少しね。薬は高価だから」
『なるほど』
確かに平民からすれば薬は高い。一部の貴族にはお抱えの医師がいることもあるけど。
「そういえば自己紹介がダウンまだだったわね。私はアグネス。こっちは夫のエイベル。寡黙だけど話はちゃんと聞いてるから」
「私はエイミー!10歳!おばあちゃんと一緒にお祭りに行くの!」
「エイミーの祖母のシンシアじゃ」
『私はルイです』
ルイは氷波類からとった。平民はファーストネームが無い者の方が多いため、名前だけでこたえた。
アグネスさんがなかなか名前を言わないフードの男に声をかけた。
「あんた、名前は?言いたくないならいいけど、2日間も一緒なんだから。皆なんて呼んでいいか分からないよ」
「………フィル」
「フィルね。分かったわ!」
全員の自己紹介が終わり、また会話が始まった。
「エイミーちゃんとシンシアさんは何のお祭りに行くの?」
「国王様の誕生祭じゃよ。わしはウェスタリア王国出身でな」
「なるほど、そうだったんですか。ルイちゃんはどうしてウェスタリア王国に行くの?」
きた。されたくなかった質問。口止めされてるわけではないから正直に話してもいいんだけど、態度を変えられるのは嫌だし、何より説明するのが面倒くさいので適当に理由を考えておいた。
『出稼ぎ兼家出です。私が住んでいたところは税金は多いのに収入がほとんど無くて。両親にもこき使われて……だから逃げ出して来たんです』
「まぁ、大変ね。安心して、ウェスタリア王国はいいところだから。ところで、ルイちゃんはウェスタリア王国に働くあてがあるのかしら?」
『いいえ、残念ながら無いです。ウェスタリア王国についたら、まず仕事探しから始めます』
「ならちょうどいいわ。うちで働かない?住み込みで!」
『ありがたいですけど、いいんですか?私で』
「いいわよ!あなたみたいな綺麗な女の子がいてくれれば、飴ももっと売れるわ!給料もしっかり出す。だから、ホワイトリー公爵領にいる間だけでも、お願い!」
『……わかりました。これからよろしくお願いします』
エイベルさんには何も聞かなかったが良かったのだろうか?まぁ、怒っているわけでも無さそうなので良しとしよう。
「ほら、見て!国境を越えるわよ!」
アグネスさんの言葉で窓の外を覗き込むと、そこには大河が流れていた。その奥には美しい街並みが広がっており、遠くにはお城のようなものも見えた。
「おーい、もうすぐで今日の宿に到着するぞ!」
御者さんに声をかけられ、少し経つと馬車が止まった。皆が馬車をおり、宿に入った。
お金を払い、鍵を貰った。アグネスさんとエイベルさん、エイミーちゃんとシンシアさんはそれぞれ二人部屋で残りは一人部屋だ。
全員での食事が終わり、部屋に入った。
本を読もうと思ったが、持っていた本は全部読んでしまったので、今日はすぐに寝ることにした。
ベッドに入り、目を閉じた。
が、なかなか寝付けず起きてしまった。寝巻のままでははしたないが、外に出てみることにした。
夜なので誰もいないだろうと外に出ると、そこには人が立っていた。フードをかぶった男、フィルだった。とっさに隠れようとしたが、すぐに見つかってしまった。
「そこで何をしている?」
『寝付けなくて……こんな格好ですみません』
「いや、別に……。それより、ご令嬢がこんな所にいていいのか?」
!?!?なんで知って……
「見てれば分かる。言葉遣いや細かい動作からな」
『それを知って、どうするつもりですか?』
「どうもしないさ。俺も似たような物だからな」
『そう、ですか……』
似たような物……彼も何処かから逃げて来たのだろうか?名前も偽名かもしれない。
あまり詮索するのはやめておこう。
だんだんと眠くなってきたため、部屋に戻って寝よう。
『私、もう寝ますね』
「ああ、おやすみ」
『おやすみなさい』
さっきまで冴えていた意識が嘘のように眠くなってきたため、ベッドに入るとすぐに寝た。