表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
善悪の狭間  作者: 邑咲
3/4

限りなく悪に染まった善

 ポケットから懐中時計を取り出す。時刻は11時55分。

 長かった。あと5分だ。あと5分だけはまともでいられる。まともな間にしておくべきことはあるだろうか。

 私はかぶりを振った。そんなものはない。全て捨ててきた。何もかも、全て。やがてもう一度まともになる時が来るとしたら、それは死者の仲間入りをした時だけだ。


 ……あと1分、か。


● ● ●


 鼓膜が抜けるほどの爆音が街の中に響き渡った。ざわめく群衆の中をするりと抜け、私は王宮の裏門まできた。


「国家魔術師のエルティ・ドードです。至急、王に謁見を申し出たいのですが」


 裏門にいる兵士2人は先程の爆音で動揺していたようだが、突然の訪問者にもしっかりと対応をした。


「申し訳ありません。ただいま街で原因不明の爆発が発生しており、王宮内には誰も入れてはならないと……」


 こういう時でも仕事はこなすのか。それとも偽名を使っているのがバレているのか。まあここで時間を取られるのも面倒だし、さっさと通ろう。


「そうですか。では失礼して」


 私は腰から拳銃を抜くと即座に2人を始末した。人間から物になったそれを踏んづけながら、裏門を開ける。


 王宮内は複雑な迷路だった。とはいえ、この日のために内通者から内部の地図を受け取っていたので、そこまで手間取ることもないだろう。

 私は真っ先にあの部屋へと向かう。王宮内は先程の爆発で混乱していたおり、思った以上に通るのが楽だった。


 特に何もなく、5階まで辿り着いた。しかし問題はここからだ。この部屋に入るためには、部屋の前にいる兵士の相手をしなければならない。

 さてどうしたものか。拳銃を使ってもいいのだが、出来るだけ静かに始末したいというのが本音だ。ここで発砲すれば確実に部屋にいる人物に気づかれるだろう。

 攻めあぐねていると、件の兵士からこちらに近づいてきた。


「何者だ。そのフードを外したまえ」


 こんな不審者みたいな格好をしてたら当然か。しかし好都合だ。

 私は兵士に近づきながら、フードを外す動作を見せた。そして一瞬息を止めると、裾に隠していたナイフを素早く取り出して兵士に飛びかかった。


「なっ……」


 兵士が何か言うよりも早く、ナイフが喉元を抉る。

 まあ、このくらい離れていれば中の人物にも気づかれていないだろう。上出来。


「が……はっ……」


 おや、まだ息があるみたいだ。


● ● ●


 部屋の中には彼女がいた。


「久しぶり、ソフィア」


 彼女は私の姿を認めると、目を大きく見開いた。


「えっ、ポーラ! どうしてここにいるの!?」

「うん、ちょっとね」


 質問に答える気はない。私が彼女に質問をしにきたのだから。


「わたし、すっごく心配してたんだよ? あの時会ってから連絡もくれないし、それに……」

「あのさ、一つ聞いていい?」


 言を遮る。


「なんで私に嘘を吐いたの?」


 一瞬、彼女の動きが止まるのが分かった。それを見て私も確信した。この女は有罪だ、と。


「ど、どういうこと? わたしがポーラに嘘って……」

「ソフィア、私に言ったよね。魔術師をやめるって」


 彼女はようやく合点がいったかのように、顔を明るくさせた。けれどその態度は、今までその約束を忘れていたからに他ならない。


「あっ、そのことね! 聞いてポーラ、わたし魔術師試験の責任者になったの!」

「へぇ」

「あの日、わたしがこの国の偉い人に話をしに行った時にね、その人から教えてもらったの。試験の責任者になれば、実技優先の試験方式も変えられるかもって」


 黙って聞いていた。しかし彼女から継ぐ言葉は出てこなかった。彼女が何を言いたいのか、私にはさっぱり分からない。


「……終わり?」

「だ、だから、わたしポーラのために頑張って……」


 言っている意味が分からない。拳銃を抜こうとする手をなんとか抑えて、私は彼女に問うた。


「それに何か関係があるの? 質問の答えになっていない」

「…………っ」


 答えないということは、つまり答えを持ち合わせていないということだ。それが分かればいい。それが分かれば、遠慮なく引き金を引ける。

 私が腰の拳銃を抜き、彼女の頭に狙いを定めようとすると、いつのまにか彼女が泣いていることに気がついた。


「うっ……うぅ……。ポーラ、どうしてこんなことになっちゃったの……」


 胸の中で何かが蠢いている。怒りだ。


「どうして? じゃあ逆に聞くけど、どうして約束を破ったの?」

「だって……わたし、わたしはポーラと一緒に魔術師になりたかったから……っ。それで、それで……」


 何を言っているのか聞き取れない。もう少しはっきりと喋ることはできないのだろうか。


「分かった。ソフィアは私のことをちゃんと考えてくれてたんだね」

「……! そう、そうだよポーラ! だってわたし達、親友だから……」

「ありがとう。じゃあ、今度も貴方が先に行っててね」


 その瞬間、渇いた銃声が部屋の中に響き渡った。

残り一話は十二年後の話となります。

別視点なのでご注意ください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ