善悪の狭間
一人、泣いていた。自分の6年間は、彼女のものとどう違ったんだろう。
魔術師になるためだけに必死に勉強してきた私と、錬金術を学ぶ片手間に魔術を勉強した彼女。それでも結果は、こうなった。こうなってしまった。
努力だけでは絶対に覆せない、才能。いや、彼女はその才能に加えて努力をしているのだから始末に負えない。私ができて彼女にできないことなど、ただの一つもないのである。
書類を手に取る。何度も何度も確認した、書類。
でも彼女は違った。書類は未開封だった。誰それが合格したなど、勝者側からは一つも興味がないのだ。その裏には、どうあがいても敗者にならざるを得なかった人間が眠っているのに。
ここまできて、私は自分が恐ろしくなった。そして同時に、最低だとも思った。
こんなのはただの逆恨みだ。自分で言ったじゃないか、彼女は努力をしたと。そう、彼女を妬む権利すら、私は持っていないんだ。
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魔術師になるのが夢だった。なぜかと聞かれると、答えに窮する。それでも、なりたかったものはなりたかったのだ。
初めて魔術を使ったのは、8歳の頃だったと思う。破けた服を、結束魔法で修復したのが始まりだ。両親はよく褒め、私はどんどん魔術にのめり込んだ。
私に才能がないと気づいたのは、14歳の時だ。念願の魔術学校になんとか合格したが、その時に私が、いわゆる普通の魔術が使えないということが分かったのだ。
炎魔法といった、属性を操る魔術が使えなかったのだ。周りの子たちが当然のようにできていることが、私にはできなかった。学校から帰ってもひたすら勉強に励んだ。
でも、できなかった。
何を勉強しても、何度練習しても、ついに私が普通の魔術が使えることはなかったのだ。
そんな時、ソフィアに出会った。彼女は私が魔術を使えないことを馬鹿にしなかった。それどころか、私が魔術が使えるようになるまで一緒に練習をすると約束したのだ。
練習は、魔術学校を卒業するまで続いた。それでも、毎日ソフィアがそばにいてくれたのが唯一の救いだった。彼女は約束を破らず、毎日私の練習に付き合ってくれたのだ。
そして、ある日突然、ソフィアがこの国から去ることを知った。私が16歳の時のことだった。