表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そして死は巡りだす  作者: はるせ
2/5

傍観者

やっぱり戻ろう。

春香は学校から出て、五分程経って決意した。

今の春香は夏帆達と対立する気だった。

自分でも何故こんなに正義感が芽生え始めたのか分からなかった。でも春香はそれを嫌だとは感じなかった。

前に授業で人間の本質は善だと習ったことがあった。

なんて作者だったかな、とにかく人間は善だという考えには

春香は賛成だった。

きっと夏帆達も話せば分かってくれるはず。

そんな事を考えているとあっという間に学校に着いた。

正門にはもう和也の姿は無かった。何だったのだろう…

春香は校舎に入ろうとグラウンドを歩き出した時、地面に何かが

叩きつけられる音がした。ボールか?

いや、もっと大きい何か…

嫌な予感が頭によぎった。まさか、まさか、まさか、

春香は音が聞こえた方へ走った。

まさか、まさか、そんな、あぁ

目の前にはマネキンのように折れ曲がった人の姿があった。

春香は思わず排水口の溝へ吐いた。吐いて、吐いて、吐いた。

息を落ち着かせ目の前の人間を改めて確認した。

顔は上を向いており、月明かりに照らされていた。

間違いなく奈津子だった。目はカッと開かれ空を見上げていた。

春香はとりあえず救急車に連絡をとスマホを取り出した時、

足元のボロボロの鞄からピンク色の何かがはみ出ているのが見えた。この鞄が奈津子の物であるのは分かっていたが、奈津子がピンク色の物を持っているのが驚きだった。全然印象と真逆の色だったからだ。

そのピンク色の何かは手紙だとそこからでも分かった。

驚いたのはハートのシールが中央に貼ってあったからだ。

誰がどうみてもラブレターだった。

春香はそのラブレターを無意識の内に手に取っていた。

いや、奈津子の届かなかった思いを自分が伝える事が使命だと感じたからだ。

ラブレターを開くと、そこには丸っこい可愛いらしい字の文が綴られていた。春香は奈津子も一人の女の子だったのだと改めて思った。

~私達はいつも一緒だったよね。幼稚園の頃からずっと。

覚えてる?あの小学校の頃の修学旅行、一緒に金閣寺

回ってさ。近くのお土産で三色団子買って、一緒に食

べて、二人だけ班と別行動してたね。

夜になって急いでホテルに戻って、先生にすっごい

怒られたね。

中学校の卒業式の日にカズの家に泊まったよね。

私、すっごいドキドキした。

あの日、カズが急にキスしてきて私すっごい嬉しかった

けど、つい突き飛ばしちゃった。ごめんね。

私がカズの秘密を知った日、私、一瞬カズの事が嫌いに

なりかけたの。でも、カズは本当は正義感が強くて

優しいって私はずっと一緒に居たから分かってる。

カズのサッカーしてる姿は幼稚園の頃から変わらないね。

何かに真剣になってるカズの姿にずっと私は引かれていたの。

長くなってごめんね。

つまり、私はカズの事が好きだよ

いつでも返事待ってます。

ナツより ~


春香は思わず赤面した。

まさか、あの奈津子がこんなロマンチックな文を書くなんて。

そして春香は手紙を自分の胸にあてた。

私が絶対 奈津子の思いを伝えるから。絶対、絶対、

カズ君ていう人に、、、、

カズ君? いや、まさか、そんなはず、

春香は手紙をもう一度読み直した。手紙がグシャグシャになってる事なんておかまいなし。

サッカー部、、、

まてよ、別のカズ君ていう人かも。

春香に吹奏楽部に入部した時の記憶が蘇ってきた。

奈津子は桜井中学校出身だと言っていた。

和也の出身中学校はもちろん知っていた、桜井中学校。

そんな、

手紙にはキスしたって。でも、まさか奈津子の顔のレベルで、

そんな。

そういえば今日だって和也は誰かを待っていた。あれって。

そして春香は自分の親指で手紙の上の方が隠れていたのに気付いた。恐る恐る指をどけた、そこにはこう書かれていた。

~津田和也君へ~

春香の中から何かがこみ上げた。どす黒い何かが。

は?この女の汚い唇が、あの和也のきれいな唇と重なったっていうの!意味わかんない。修学旅行で二人きりで夜まで?

一体何をしたの!この女は純粋無垢な和也に何を!

もう春香の中の闇は止まらなかった。

大体何なのこの手紙?ピンク?だっさ。

春香は冷たい笑みを浮かべた。

こんな女、死んで当然ね。

春香にさっきまでの正義感など微塵もなかった。

ただ深い闇が心の中でグルグルと回っていた。

春香が奈津子を睨んだ時、上見上げていたはずの奈津子がこちら向いていた。

「きゃぁっ」

春香は思わずその場で尻餅をついた。

目を凝らすと奈津子はわずかに息をして、口を鯉のようにパクパクとしていた。

よかった。奈津子が生きてた!

早く人を…

~好きだよ~

あのラブレターの一文が頭に浮かんだ。

そうだコイツは和也をたぶらかした。当然の罰だ。

春香はその場から離れ始めた。

奈津子はなおも口をパクパクしながら見つめていた。

何よ!その顔は!そんな絶望した顔したって私は同情しないわ!

人生辛いのは自分だけとか思ってるんでしょ!

いいじゃない!和也とあんな良い思いしといて!

何が秘密の共有よ!くだらない!くだらない!気色悪い!

あんたなんか死んじゃいなよ!

春香は死ねという言葉をつい声に出してしまった。

春香は荒々しい息をしながらその場を去った。

ピンク色のラブレターを握りしめたまま。



第三章に続く







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ