7 ヒキニート、チート能力に気づく
「ヒャッハー、俺はチートだ、チートじゃー!」
前回自分のとんでもない脚力に振り回された結果、噴水に突っ込む醜態をさらしたネロです。
しかし、俺は知ることになる。
ゲームでステータスがほぼカンストしていたネロの肉体は、この世界に転生してからも健在だった。
屋敷の庭で試しに軽くジャンプしてみれば、それだけで5メートル以上の高さまで飛ぶ。
助走をつけて飛べば、3階建ての屋敷の屋根と同じ高さまで飛んだ。
「えっ、ちょっとなにこれ?落ちるーーー!」
高く飛べたのはいいけど、3階以上の高さから落下する羽目になった。
このまま落ちてしまえば、骨折は確実。
下手すりゃ死ぬんじゃね?
せっかく転生できたのに、俺の第二の人生はここで終わってしまうのか。
これはもしかして、部屋に閉じこもっていなかった、俺への天罰だろうか?
ヒキニートは、ヒキニートのままでいければならないということか!?
転生してからのわずかばかりの第二人生とは言え、その間の人生が俺の脳裏で走馬灯のように過ぎていく。
まあ、過ったのはいいけど、俺がこの世界に転生してからしたことって、食べるかベットでゴロゴロしてるか。
あとはメイドたちとのラッキースケベが、ちょっとあっただけだ。
「ああ、なんてつまらない人生だったんだ」
自分がヒキニート生活を送り続けたことに後悔はない。とはいえ、生まれ変わっても嫁さんが出来なかったのは、男としてちょっと悲しいな。
なんて思って、俺は地面に足から激突した。
――ストンッ
「……マジかよ。あの高さから落ちたのに、痛くもなんともない。この体、マジでチートだ」
地球人だったら、骨折してるぞー。
ゲームのステータスのおかげか、全くなんともなかった。
「フ、フフフッ、俺はチートだ。チートに生まれ変わったんだ!」
ダメージ皆無だと分かると、俺は無性に嬉しくなって、庭を飛び回り、走り回って、自分の身体能力が、人間やめた超人レベルになっているのを喜びまくった。
こんなに飛び回って、走り回っても、全然問題ない。
前世のスーパーアスリートでもたどり着けない、スーパースペックボディー。
俺は全能感に支配され、嬉しくなってしまった。
「やはりネロ様は変態ですね。まるで子供みたいにはしゃぎまわって」
俺が馬鹿みたいに喜んで飛び回っているから、メイドのシズに呆れられたけどな。
すまないね、中身が30過ぎてるのに、童心に返ってしまうおっさんで。
とはいえ、異世界チートってすげぇ。
よかったー、ゲームでネロのステータスカンストさせといたおかげで、今の俺は無敵だー。
ハハハーッ。
「とはいえ、俺はヒキニートをやめるつもりはない!」
俺は外で飛び回って無邪気にしているけど、ここはまだ館の前にある庭。
つまり、自宅の敷地内だ。
館の敷地には前庭と、裏庭の2つがあって、富豪の豪邸よろしく敷地は広大。
館の敷地を現す正門から館の玄関まで、少なくとも500メートル以上ある。その全てが前庭だ。
そして裏庭に至っては、内部に木々が茂る林を抱え込んでいて、周囲数キロが庭という、庶民感覚を完全無視した広さだった。
ゲームの頃には想像しなかった、超豪華豪邸だ。
ナニコレ?アメリカの大富豪の家に、住んでるのか?
あるいは、北海道の広大な牧場並みの敷地だなー。
俺としては家から出ないヒキニート生活を、今後も続けていくつもりだ。
外とは言え、館の"敷地内"で動き回るのだから、いまだに俺がヒキニートを続けているのは間違いない!
自分の家の庭は、ヒキニートの行動範囲として、ギリギリ合法だ。
「よし、これからは敷地内で動き回って、立派に第二のヒキニート人生をエンジョイするぞ。そして、もう二度とデブには戻らん!さらばデブだった俺!」
俺は改めて、心の中で固く誓った。
そんな感じではしゃぎまくり、庭で飛び跳ねまくっていた俺だけど、気が付けば夕暮れを迎え、夜になろうとしていた。
「ネロ様、そろそろ暗くなるので館にお戻り下さい」
メイドの1人にそう言われるまで、俺は時間が過ぎているのに気づかず、ただ無心で跳び跳ねまわっていた。
おかげで、体が程よく汗をかいている。
「なんだ?動き回ったことで、体中の筋肉がとても嬉しそうにしている……だと!?」
前世のデブだった頃にテレビ番組で見た光景だけど、筋肉モリモリのマッスルな人たちが、『筋肉は扱いて苛め抜いてやると喜ぶんですよ』などという、意味不明なセリフを吐いていることがあった。
体を動かさないでいた前世の俺には、まるで宇宙人が話す理解不能な言語にしか聞こえなかった。
だが、今になってその言葉の意味を理解した。
「おおおーっ、俺の筋肉が滅茶苦茶喜んでいるー!」
今まで知らなかった、新しい世界が開けたぞ!
俺はムキムキに鍛えてマッスルになるつもりはないけど、筋肉が嬉しそうにしているので、明日からもちゃんと体を動かすことにしよう。
「フフフッ、どうしよう。俺って完璧な見た目だけでなく、チートな身体能力まで持っている。俺に惚れるなよ、アリエット」
気分が高揚していたので、俺は近くにいたメイドの1人に、そんなセリフを宣った。
「……ネロ様、汗臭いのでお風呂へどうぞ」
「あ、はい、そうですね」
軽くスルーされた。
なんですか、その対応。
俺って完璧イケメンのはずだけど、どうしてスルーしまう?
「ネロ様がおかしいのは、いつもの事ですから」
「……」
シズだけでなく、メイドたちの間では、俺は頭のおかしい変態変人扱いされているようだ。
俺、君たちNPCを作った創造主なんだけど、どうしてそういう扱いになるわけ?
……確かに転生前のゲーム時代、俺は君たちにモニター越しとはいえ、抱き着いたり、理想の嫁発言を何度もしまくったけどさー。
どうして、こうなった!?