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6 ヒキニート、10数年ぶりに外に出る

「ネロ様、このままではデブになってしまいます」

 シズにそう言われた。


「ハハハ、そんな馬鹿なことあるわけないだろ。見ろ、この割れた腹筋……」

「服を脱がなくていいです。変態は封印してください」

「す、すみません」


 相手は俺が作ったNPC。

 創造主である俺に対して、神のごとく……とは言いすぎだけど、きちんと主人として対応してくれるシズたちメイド。

 でもメイドたちに対して、俺は前世からの性格があって、そこまでデカい態度を取れずにいた。


「変態封印」

 ぽつりとこぼして、ちょっといじけた気分になってしまう。


 申し訳ないです。

 ゲームだった時は、割とこんなアホなこともしてました。リアルになった今だと、ただの犯罪なのか?


「コホン、外に出て気分転換されてはいかがですか?いつも同じ部屋にいては、気が滅入ってしまうでしょう」

「同じ部屋にいても、全然気にならないけど?むしろ、メチャ過ごしやすい」

「……」


 あ、ヤバイ。

 シズの目が氷点下モードになって、『こいつ何言ってやがるんだ!?』って感じでになった。

 俺を蔑む目で見ないでー。


 シズは俺の事を主人として対してくれるけど、たまに俺がガキだった頃にイジメてきた奴らとよく似た目になる。

 いや、シズの目の方が、いじめっ子より、もっと冷え冷えとしていて、体全体がゾクリと震えさせられる怖さがあった。



「あ、あー、そうだね。たまには外に出ないとねー」

 圧力に屈し、超棒読みだけど、俺は確かにそう言ってしまった。


 あ、ヤバイ。

 今世も引きこもり続けて家から出る予定なんてないのに、とんでもないセリフが口から出してしまった。

 俺のバカー!


 でも、その途端シズがニッコリと笑顔になった。


「あっ、可愛い」

「善は急げ。ネロ様の気が変わる前に、外に出ましょう」


 普段鋭い視線のシズが笑顔になったので、思わず見とれてしまった俺。

 いかんなー、引きこもりの執念が、理想のメイド嫁の前でグラグラと崩壊しかかっている。


 そしてシズが口笛を吹いたかと思うと、次の瞬間どこからともなく茶色のポニーテールに、巨乳をしたメイドのアズキが登場。

「ネロ様、失礼します」

 そう言われて、右腕を掴まれてしまう。


「おっ、胸が当ってラッキースケベェ」

 外に行くのは嫌だけど、そんな俺の考えを上書きするように、腕がアズキの巨大なマスクメロン様に触れてしまう。

 事故とはいえ、シズを押し倒した時に頬で感じた柔らかさも素晴らしかったが、アズキの巨乳には物凄い弾力があった。

 クッ、なんだ、このバネのような弾力は!とても同じ胸とは思えないぞ。


 さすがは化け物サイズバスト!

 貴様、ただ物ではないな!


 俺は、心の中でアズキの胸を称賛した。

 もちろん思っただけで、口にはださいな。


 こんなこと聞かれたら、俺がフルボコの刑にされてしまう。



「ネロ様ー、鼻の下伸ばしてないでお外に行きますよー」

「え、ああ。はい……」

 そんな俺の後ろに、またしてもどこから現れたのか、お子ちゃまメイドのリゼが登場。

 リゼの背丈は俺の腰ほどしかなく、胸に関しても発育途上。

 平坦でまな板。よく言って、洗濯板レベルだな。


 そんなリゼは、俺の後ろから「エイエイ」と言いながら手で押してくるけど、たまに当たる胸には何の感触もなく、物凄く悲しい思いがした。


 リゼ、今は小さなおこちゃまだが、大人になれば、きっと胸だって大きくなるからな。


 以前までの俺は、貧乳(ヒンヌー)はステータスだと勘違いしていた。

 だが、シズとアズキの弾力を知ってしまった今、そんな考えはきれいさっぱり消え去った。


 ――オッパイは、盛り上がっていてこそ価値がある!


 俺はリゼの胸に憐れみを向けつつも、気が付けばメイドたちに引っ張られ、押されて、屋敷の外まで連れ出されていた。



 玄関を抜け、館の前庭にいる。

 俺のバカー、スケベェに気を取られすぎだろー!


「あっ、太陽がまぶしい。萎れてしまう。う、うああーっ!」

「何根暗なセリフを言ってるんですか。太陽が気持ちいいじゃないですか」

「う、うへぇー」


 お、思えば俺が太陽をまともに見るのって、前世を合わせてこれで10数年ぶりじゃないか?


「うおおおっ、やめろ、体が溶けちまう!(ネロ)は吸血鬼をモデルに作ったから、太陽の光には滅茶苦茶弱いんだー!」

 見た目だけは完璧男のネロだけど、俺がネロの外見を作るときに元ネタに使ったのは、ブラムストーカーの吸血鬼だった。

 完璧な見た目、伯爵と呼ばれる貴族的な立ち振る舞い、そして太陽を嫌うが故の病的に白い肌。


 そんな俺にとって、太陽とはまさに天敵。

 ナメクジに塩をかけるように、太陽の光にさらされた俺は、湯気を立てながら萎れていく。


「ギャアアアー!」

「外に出ただけで喚かないでください。恥ずかしいです」

「で、でも、死んでしまうー!」

「なに寝言いってるんですか。それより外に出たのですから、体を動かして運動してください。ネロ様は気づいてないようですけど、以前に比べてお腹周りが少し出てきてますよ」

「うあああーっ!デブはイヤダー!」

「ならば、まずは走りましょう!」


 太陽が憎い。

 しかし、脂肪はもっと憎い。


 シズに指摘され、俺は先ほどまでとは違う絶叫を上げてしまった。


 クッ、何が悲しくて、転生してまで外に出なければならない!

 俺は前世でも今世でも、清く正しいヒキニートだぞ!


 しかしそれ以上の問題は、またしてもあの関節痛に悩まされ、何もしてないのに体中から汗が流れ続け、ヒーヒーフーフーと荒い息をついてばかりの、デブになってしまうこと。

 一度痩せた体を手に入れてしまった手前、前世の俺の肉体は、とてつもなく醜いものだったと思い知らされた。


「チ、チクショウ。俺はデブになんてなりたくねぇー。もう、あんな姿は嫌だー!」

 太陽の光は憎いけど、太るのはもっと嫌な俺は、叫びながら外を走ることにした。


 脂肪よ、死にさらせ!

 俺はもう二度と、デブに戻らん!


 心に固く誓う。


 なお、ネロの外見が吸血鬼をモデルに作っていても、実際に太陽の光を浴びてダメージを受けるなんて、ゲーム的設定はなかった。

 あくまでも俺の脳内キャラ設定でしかない。

 なので太陽の光にさらされても、何も問題なかった。


 体から湯気なんて出てないから。

 あれはただの幻覚。心象風景という名の錯覚でしかない。


 ただそんな厳格を見てしまうほど、10数年ぶりに外に出た俺衝撃が大きかった。

 俺の豆腐メンタルに、ダメージが入ってしまったぞ。

 だが、デブにまたなってしまう危機に比べれば、それも軽微なものだ。




「とはいえ走る、ランニング、マラソンか。俺、小学生の頃のマラソンって、いつもビリだったんだよなー」

 走るのはいいけど、どうしても前世での嫌な思い出ばかり蘇る。


 マラソン大会の練習では、常に最後尾をついていく先生から、なぜか半笑いの顔をされ、「がんばれ、がんばれ」と励まされていた。

 そんな俺はゼーゼーハーハーと重い体を引きずって、今にも死んでしまいそうな顔をして、必死に足を動かしていた記憶がある。

 なお、俺は走っているつもりだったが、なぜか近くにいた年寄りのばあさんが歩く速度の方が速かった。


 ……あの時の俺は、本当に走っていたのだろうか?

 自分だけ、走っているつもりだったのではないか?


 そんな苦い経験が、思い出される。


「クッ、ウオオオーッ!」

 だが、俺はもう二度と太らないと誓った。


 だから恥も外聞も捨てて、太らないために全力で疾走することにした。


「最初から全力で走ると、すぐに息切れしてしまうのに……」

 シズが何か言ってる気がするけど、超久しぶりに外に出たことでテンションがおかしくなっていた俺には、聞こえてなかった。


「はへっ!?」

 ところで、妙なテンションになって全力疾走し始めた俺だけど、予想外のことが起きた。


「ほっ、ほへっ、ふひゃあっ!?」

 もう、驚きすぎて、まともな言葉が出てこない。


 だって、1歩足で地面を蹴っただけで、5、6メートルの距離をいきなり"跳んだ"。

 ちょっと、どうなってるの、一体これ!?


 1歩駆けただけで、とんでもない勢いがついてた。

 勢いが付いたまま急に止まるわけにもいかず、さらに2歩目、3歩目と、急いで足を動かして走り続ける。


 するとさらにスピードが出て、足で地面を1回蹴るだけで、10メートルくらいの距離を飛ぶように進みだした。


「なんじゃこりゃー!」

「ネロ様ー、驚いてないでちゃんと前見てください。危ないですよー」

「のあああっ、噴水がー!」


 メイドの1人リゼに注意されたけど、車は急には止まれない。

 あまりにも勢いがついて走る俺は、急ブレーキをかけることが出来ず、館の庭の噴水に派手に突っ込んでしまった。


 ――ドパーンッ!

 そのまま全身水浸しになって、噴水の中にぶっ倒れてしまう。


「ああ、ネロ様がヒキニートになるだけでなく、とんでもない運動音痴になってしまった」

 シズさん、やめて。

 俺のメンタルはもうゼロなのに、そんなこと言わないで~。


 噴水にぶっ倒れた俺は、そう思うのだった。


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