実感する力
なんとも幸運であった。
今朝方に助けた(といってもほぼあのフードの男だったが)荷馬車のオーナーがこのあとシモナへと向かうようで、同乗させてもらえることとなった。
「でも本当にタダで良かったんですか?シモナ行きだとどこも大体50ガル程度が相場だと聞いたんですけど…」
「ああ、それな。最近はなんでか魔物が活発になっててね、シモナまででも結構物騒なんだ。なんでガルよりも護衛の労働を提供してくれる方がこっちも安上がりなんだ。こうやって冒険者さんとワシのコネクションも出来上がるからな」
「そういうことなら甘えさせてもらいます」
初老のオーナーはそうしとけ、と言って馬に向き直った。
ガタガタと荷馬車が揺れる。
「このまま何も出ずにシモナに辿り着けば楽なんだがなぁ…」
そう呟くも意味は無く、馬車を追いかけてくる魔物が見える。ツノが一本頭から生えた犬のような魔物だ。一角犬とでも呼んでおこうか。と、その前に。
「おじさん!後ろから魔物が来てる!僕が迎撃するからスピードは落とさないで!」
「オーライ!でもどう戦うんだ!?お前さん、見たところ魔法使いって訳でもないだろう!?」
「まあ任せて!コール、サモン!」
今朝の戦闘で用意したままの岩石を飛ばして迎撃する。一角犬に直撃はしなかったものの、あまりにも突然な落?石で戦意喪失したようだった。
「驚いた、お前さん封召師だったのか」
「まだひよっこですけどね」
「それでも自身の目で見るのは初めてだ。でも封召師なら尚更一人旅は勧められねえな、次の街でギルドにに話通してやるから適当にどっかのパーティに入った方がいい」
「あ、ありがとうご…うわっとっと」
突然馬車が止まり俺は思いっきりずっこけた。外を覗き見るとこれまた山賊らしき片手で足りる程度の集団が目の前にいた。治安悪すぎだろ。
「やい、てめえら!金目のものを置いていきな!」
テンプレすぎだろ。もっとひねろ。
「ビビって声も出せねえか!なんてったって俺らは超少数精鋭集団マードだからな!ハハハハハ!!!」
奴らが持つ武器は長剣が3本、短剣が4本……試してみるか。
「おい、そこのヒョロイやつ!だれが動いていいと言った!そんなに早く死にたいか!」
首元に切っ先を突きつけられる。狙い通り【俺の身体に触れた】
「シール!」
この武器の奪い方は発動すれば止められないな。
狼狽える山賊Aを蹴り飛ばす。
「ってめえなにしやがった!お前ら!もうこいつらぶっ殺して全部貰っていくぞ!」
魔猪を躱して戦っていた俺には人の攻撃を避けるなんて容易いことだ。避けて体勢を崩したところを見計らい、
「シール、シール、シール!」
どんどん武器を奪っていき、全ての武器を奪い切った。
「もう終わりか、なれこっちからも行くぞ」
武器を封印したカードを上に投げる。山賊たちの視線はそちらに向くだろうと素早く刀を取り出す。
「気をつけろ!何か仕掛けてきやがる!」
下の警戒が厚いか…なら!
「サモン!」
空に舞うカードから長剣短剣入り乱れて降り注ぐ。
ここだ!
「うらぁぁぁ!」
踏み込んで、一閃。リーダー格の男の鼻頭を掠める。ありきたりなバンダナを切り落とし決め台詞。
「まだやるか?今度は首を掻っ切るぞ」
決まった……俺ってば今まさに人生の中で最高に輝いてる……
「「「ひ、ひぃぃぃ」」」
手下どもはハマって逃げ出す意識を取り戻した隊長がそそくさと逃げていく。この武器たちは俺がもらっておこう。
「さ、シモナに向かいましょう!」