出会い、強襲、イレギュラー
朝だ。朝の日差しが目覚まし代わりのようで街は少しずつ目覚め始めた。
もう少し寝ていたい気持ちを抑え、ベッドから降りる。昨日に食べた晩飯が少し残っているような感覚を覚える。あまりにも美味かったせいで調子に乗って食べ過ぎたからだろう、ここままじゃ美味い朝飯が食べられない。
「ついでに目も覚めるだろうし、外で軽く体を動かすか」
そうと決まれば善は急げだ。カバンを持ち、街の近くの人目のつかなさそうな所に行こう。
「おはよう。昨夜はよく眠れたか?」
後ろから彼女の声が聞こえた。
「おはようございます。お陰でぐっすり眠れました。それにしても朝早いんですね」
「朝早くに起こしてくれってお客さんもいるからね。それでなくともみんなの朝ごはん作ったりしなきゃだし大体日の昇る前には起きてるよ。それよりもなんだ、もう部屋出るのか?」
俺のカバンを指差して彼女は言う。
「これですか?ちょっと体を動かそうと思いまして。暫くしたら戻ってごはん食べに戻ってきます」
「それじゃ朝ごはん作ってても大丈夫?」
「はい、お願いします」
「ん、了解。それじゃいってらっしゃい」
ああ、いい。すごくいい。可愛い女の子と朝ごはんの話して、いってらっしゃいって言ってもらうのすごくいい。最近、妹の口からいってらっしゃいなんて聞いてなかったもんな……むしろ俺を見る目が冷たかったし……
「ん?どうかした?」
「あ、いいえ、なんでもないです。それじゃいってきます」
「うん、いってらっしゃい」
「ここらでいいかな」
カバンから刀を取り出し素振りを始める。元の世界じゃこんな物素振りするどころか、これを構えながら突進してくる猪みたいなの避けることなんて絶対にできなかっただろう。
それができる辺り自分のステータスかさ増しされてるんだろうなぁ。
カードだってカバンだってよくよく考えなくても割とチートだし俺ってばこの世界で無双できるんじゃね?
「……次何回だ…50?60?60回でいっか。61、62…」
「テメェ!動くなって言ってんだろうが!こいつがどうなってもいいのか!」
どこからか物騒なセリフが聞こえてくる。咄嗟に声のする方に顔を向けると6人の山賊らしき集団に囲まれた馬車、それと山賊に捕まったヒョロい男が1人、フードを被った男がいた。
助けるべきか……何を迷う。この世界じゃ俺はヒーローなんだ。
カバンから木刀を取り出す。対人なら真剣で戦うよりこっちの方が戦いやすい。それと岩、念のためにこれをカードに封じ込めておく。いざという時にぶつけるためだ。
「よし、いくぞ……」
息を殺して近づく。いや、近づこうとした、その刹那。
「……シッ」
フードの男が動いた。正確には動いていた。何が起こった、分からない。なんで6人の山賊みんなノビてるんだ?
「……おい、そこに隠れてるやつ出てこい。それとも俺が行こうか」
「ま、待って!僕はこいつらの仲間じゃない!むしろ君の味方だ!手を貸そうとしてただけ!ホント!信じて!」
必死すぎて語彙が減る。
「なら武器を置いて、手を上に上げろ。幾つか質問する。」
「分かる範囲ならなんでも答える!だから助けて!」
「うるさい。聞かれたこと以外喋るな。…まず1つ目の質問だ。ここは一体なんなんだ。」
「ここ…?ここはファリサチという街ですけど…」
「そうじゃない、この世界はなんだと聞いている。手をかざすだけで傷を塞ぐ奴や火を噴き出す奴がいるなんて聞いたことがない。」
まさか……こいつも転生者?俺だけじゃないのか。そもそもこいつは仲間なのか?いきなり自分のことをばらすのはまずい気がする。ここは俺のことは隠してやり過ごす方が良さそうだ。
「それは魔法、と呼ばれるものです。こ、この世界じゃ広く扱われているものです。この世界、と言われてもそれはよく分かりませんが…」
ここでボロを出せばまずいことになる……なんとか矛盾のないように嘘をつかなければ。
「魔法……そうか、そうでなければ説明できないか……あのアンジュとか言っていた男の説明通りなのか……」
アンジュ…?どこかで聞いたような…そうだ!宿屋で読んだ本に載っていたんだ。この世界で信仰される2人の神の使いの1人がアンジュだった。
なら取る行動は1つ。
「あ、アンジュ様だって?あの神の使いの1人だぞ!?」
「聞かれたこと以外喋るなと言ったはずだ。まあいい、そのアンジュについて何か知らんのか」
「そこまで詳しくはし、知らないのでファリサチの教会に行った方が確実かと…」
「……そうか、礼を言う」
そう言ってフードの男は街の方へ歩いていった。
運動するより汗が出たぞ…。もう宿に戻ろう…。
「おかえり……すっごい汗だね。風呂浴びる?」
「はい……ごはんより先にそうします」
ふらふらと風呂場へと向かっていく。厄介なことに巻き込まれたかもしれないな、これは。
「ごちそうさまでした」
「おそまつさま。この後どうするんだ?もう一泊する?」
目が金になってますよお嬢様。……あの一件を考えると早いとこここを離れた方がいいな。
「いえ、もう出ようと思います」
「あっそ……せっかくの金ヅルが来たと思ったのに」
聞こえてますよお嬢様。そういうことは裏で言おうね。でも俺はめげないよ。強いからね!
「次は南のほうに行ってみようと思います」
「ってことは…シモナか。何にもない街だけどいってらっしゃい」
だからげんなりするようなこと言わないで……