生きるためには
「思ったより何もできないなぁ」
と言うのも、宿一泊の料金が60ガル必要なのだ。
手持ちは300ガル、食事も料金に含まれるからいいけど冒険するための道具を買い揃えるとなるとそれほど長居できるわけじゃない。それどころか一泊分すら惜しいくらいかも知れない。
そんな思考を巡らせている時宿の方から可愛らしい声が聞こえた。
「お兄さん、そんなとこに居られちゃ客も入らないよ。お兄さんは客なのかそうでないのかどっちなんだい」
恐らく15歳くらいだろうか、看板娘らしい可愛い女の子が扉から顔を出した。
「あ、ああ。一応僕は客のつもりなんだけど……」
「けど?歯切れが悪いね。ははぁ、さては文無しか?ならまずはそこの曲がり角のとこにあるギルドに向かうんだな。」
「ギルド?そこでお金が稼げるのか?」
「……呆れた、ギルドも知らないなんて。いい?ギルドってのはね……」
ギルドーー冒険者達が魔物の討伐のような依頼を受けるほか、入国手形の発行や商人達が商品を仕入れ、出荷を行う商人ギルドの役割も持つなどたくさんの役割を持つ施設。旅をしながら生活する冒険者は皆ここで旅の資金を調達したりする。
「……なるほど、そこに行けばお金用意できるんだな」
「うちに泊まるならまず宿賃用意してから来なよ」
「そこの表にある値段は払えるくらいは持っているんだけどね」
「あら、貴方運がいいわね。今ちょうど一部屋だけ空いているのよ。泊まるつもりなら今すぐ抑えとかないとすぐ埋まるわよ」
「へぇ?そんなに繁盛してるんだ。ここに来るまでに何か祭りだとかそういうのは見かけなかったけど」
「ここ最近大猪の討伐で結構高い金額の依頼が出ているのよ。そのためにうちの宿を利用する人が多いんじゃないかしら?まあアタシが可愛いからってのもあるだろうけどね!」
すっごいドヤ顔いただきました。まあ実際可愛いし噛み付いても損しかないだろうからやめとこう。
「とりあえずその空いてる部屋チェックインしたいんだけどいいかな?それとギルドの詳しい場所も案内してほしい」
「先にチェックインね、そこのカウンターでサイン書いてね」
……ヤバイな、この世界の文字とか分かんないんじゃないか。自然に会話してるせいでそのこと忘れてた。
こうなりゃヤケだ。思うように書いてやれ。
「スギサキ サイト?あんまり聞かない名前ね南の大陸の生まれかしら?」
ほ?なんだこの文字?全然見たことないのに自分で書けるし読めるぞ。
「まあそれは置いといて、チェックインは完了したんだろ?次はギルドの場所教えてよ」
「はいはい、ちょっと待ってね」
そう言いながら彼女は地図を取り出す。
「今いるのがココね。で、外に出て右に行くと大きな広場があるでしょ?その1つ手前の角を右に曲がると初回利用のための登録場があるの。
登録終わったら貰える資料を持って広場にあるギルドで受付に渡せば完了よ」
「ありがとう。それじゃ行って来るよ。鍵は戻ってきてから受け取るね」
「はーい、いってらっしゃい」