踏み出す一歩、出会う非日常
『あ、そうだ。忘れてたことがある……なんでそんな不思議な体勢で寝転がってるんだい?』
「ふざけるなよ!お前さっきサァァァって消えたじゃん!再会するにしても早すぎるんだよ!あといきなり耳元で囁くなよ!」
『ははは、すまない』
ミツカは悪びれることもなくそう言った。
「で、忘れてたことってなんだよ」
『そうだね、本題に戻そうか』
一呼吸置いて、
『君、戦い方分かんないだろ?だからそれの実戦的練習をそこにいる魔獣相手にしようではないか』
「いやいやいやいや、ちょっと待て、アレは幾ら何でも初戦にしては大物すぎるだろ!もっと別の奴はないのか!?」
ミツカは聞く耳持たず。
『カバンに丁度いい長さの剣が入ってるからそれ使いな』
そう言いながら振りかぶって、投げた。まあまあな大きさの石は彼の手から離れていった。横を向く奴の鼻に直撃させる辺りなんとコントロールのいいことだろう。
『ほうら、こっち向いた。おお、すっごく怒ってる。今にもこっちをガッとやってきそうだね』
「そんなキラキラした笑顔で言わないで!どうするんだよコレェ!」
『だから、カバンに剣入れてるからそれで戦えばいいんだよ!危なくなれば助けてやるさ』
ああもうクソ!やるしかないのか!そう思いカバンに手を突っ込む。中から剣よりも刀というべき形状の、自分の肩幅程度の収納物に収まるはずのない長さの剣が出てきた。
『右に飛び退くんだ!』
「だりゃあ!」
『そんな避け方じゃ倒せないぞ!すぐに体勢を立て直せ!』
「簡単に言ってくれるなよ!うおわぁっ!」
避けるだけで精一杯。体勢を立て直す?無理だ、絶対に無理。じゃあ無理なりにできることは?と辺りを見回す。
「……そうだ、あの大木を使えば!」
三度、突進してくる。しかし先程までとは違う。こちらには策があるんだ。
「……!」
飛び退く直後ズドンと大きな音がする。作戦は成功した、なら次は!
「うおりゃぁぁぁ!」
魔獣の脚の腱を狙って刀を振り抜く。が、まだダメ。
「もう一発!」
奴の厚い毛皮を切り抜けないと死ぬ。だから必死に何度も振りかぶる。
「グガァァァァァ!」
けたたましい雄叫びと共に魔獣は倒れこむ。
『……よく無力化できたね、せっかく準備してたのに』
こいつ……元から期待してなかったな。でも当たり前か。
「……っ、はぁー、はぁー、ふぅー」
息を整え、そして高らかに。
「コール!シール!」
『……おお、封印まで。初めての戦いでよくここまでできたもんだ。完勝じゃないか』
「……っおまえ……絶対最初に戦う相手じゃないだろ…」
『でも無傷で勝てたし結果オーライだよ。ググーンとレベルアップしたんじゃない?』
「そうだけど、そうだろうけど……なんか納得いかない」
『それじゃボクはホントに消えるとするよ。まずは麓の町まで頑張ってね』
「ああ頑張るよコンチクショウめ」
ミツカはまた優しい笑顔を携えて僕を見送る。それだけで許そうって気になるんだから彼は卑怯だ。
『彼なら、彼のあの力がこの旅でスキルアップするならば、もしかしたらこの戦争、勝てるかもしれない……』