転生というプロローグ
「……ええっと、ここは俺が居た世界の裏側の世界で、本来互いに認識し合う事もないんだよな?」
『その通り、しっかりと理解してくれたようだね』
理解もクソも、思考停止で受け入れなきゃパンクしそうなだけだよ。魔術やら魔法やら、信じられないことばかりだが、始めに見せられたアレはどうやっても俺の知っている知識では説明できない。
そんなイライラをミツカにぶつける前にどうしても聞きたいことがあった。
「なぁ……さっきの魔法、俺にも使えるのか?」
『無理だ、諦めな』
ばっさり切り捨てられた。もう少しオブラートに包んでくれたっていいだろうに。
『ああ、でもこの世界の技術で君に一番合いそうなものを使えるようにしてるよ。そのカバンの中漁ってみなよ』
「ホントか!?こういうのって大概スッゲェアイテムとか入ってるもんだよなぁ〜」
『それは見てからのお楽しみさ』
それもそうだな、あんまりハードル上げすぎるとミツカが可哀想だもんな。なんて思いながらも内心かなり期待していた……そう、期待していたんだ。
「……なぁ、何コレ?」
『杖とかより断然持ち運びしやすいし、かなり貴重な能力なんだぜ?』
「これでどう戦えってんだよ!投げつけるのか!?」
カバンから出てきたのは白紙の紙、形や硬度的にはカードと言った方が良さそうだ。
『そいつは封召札、単純にカードとも呼ばれてるものさ。その辺の魔物とかアイテムなんかを一枚につき1つ封じることができるんだ』
「一枚に1つってコスパ悪くないか」
『誰がこの世界に君を召喚したと思ってるんだ、手のひらに魔力をぐっと込めれば新しいカードが生成されるよ』
「じゃあ増えに増えたカードはどうするんだ?」
『そこも大丈夫さ。自分で決めた合言葉でカードを出し入れするんだ』
本当に俺の世界の常識は通用しないんだな。カードの分の質量なんて考えられちゃいねえや。
『試しにそのカバンでやってみな。封じるのにも合言葉を決めなくちゃならん。まあ適当に決めて試してみろ』
「どうすれば発動する?」
『カードの白い面を目標に向けて合言葉、発動させるなら呪文に変わるな、それを唱えるんだ』
ようし、カバンに狙いを定めて……
「シール!!」
突如カードから光が飛び出す。その光はカバンの周りを回っている。カバンは完全に光に覆われ、一筋の光に変わる。そうして光は手元のカードに戻ってきた。
「……せい、こう……したのか?」
『成功したならカードにさっきのカバンが浮かび上がってるよ。成功してたら次はそれから出してみな。やることはさっきと同じ。違うのは表を上に向けることくらいだな』
「おお、ホントだ。それじゃあ……」
召喚、なんて言われたらアレしか思いつかない。真ん中どストレート150km/h。
「サモン!!」
ポンッと小気味の良い音と共に先ほどのカバンが飛び出した。
『それも成功だな。あとはカードの出し入れだな。そっちは簡単で出すのも消すのも唱えるだけ』
「シール……今度は唱えるだけでいいのか?」
『さっきのとは別の呪文をな』
「ん、わかった」
直感で、思いついた単語を口にする。
「バニッシュ」
消してからの。
「コール」
呼び出し。完璧だ。
『召喚魔術の基本は完璧だな。もし魔物なんかを封じるなら相手を負かすか、どんな形でも忠誠を誓わせることが必要だから気をつけろよ』
それから少し考えたような間を置いてミツカは言う。
『もう必要なことも全部教えたな。この世界の通貨を少しやろう。まずは麓の町に向かうといい。その町に居るとは限らないが、他にも転生者が何人かいるからそいつらと合流して精々頑張るがいいさ』
「着いてきてくれないのか?」
『最初に言ったろう、ボクは神の使い、命じられているのはここまでさ。これ以上は越権行為でボクが消されるかもしれない』
「そうか、それは残念だ。それじゃあここから俺1人で街まで行ってみるよ」
『うん、それが一番だろう。それと、一人称を"僕"に直した方がいい。ただでさえ無愛想なんだ、多少なりとも柔らかい印象を持たれる呼び方の方がいいだろう』
「僕……なんかむず痒いな」
『そこは慣れだよ、慣れ。そろそろ時間も迫ってきた。それじゃあね、君からは見えないけどボクは何時でも見守っているよ』
そう言って、彼は消えていった。
「……さよなら、ありがとう。」
「それじゃあ、僕も向かうとしようか」