人生のエピローグ
ガララ、ガララ。音が鳴る。その音は俺が歩く真横の工事現場からだ。ここ最近、この街には高層マンションが立ち並ぶようになった。無論、俺には一切関係のないことだが。
「こんなものに関係がある人間なんてどうせアイツらみたいな人間なんだろうよ」と、心の中でそう呟く。
突如俺は影に包まれた。視界に映る空は晴れているからにわか雨という訳でもない。
再びガララ、と音がなる。今度は真横からではなく頭上から。にわか雨のほうが幾分か有難かった。
今まさに俺の頭上へと降り注ごうとする鉄骨、逃げなければという意思に反して俺の脚は他人事のように動かない。
「周りの人間のように、もう少し遅く気付けば良かった」 「なぜ、俺ばかりこんなことに……」
マイナスの感情が嫌な記憶と共に甦り、数秒後には俺は意識を手放した。
----徐々に意識が覚醒しはじめる。
「ここ、は」
ぼやけた記憶を辿りそれまでの状況を確認する。
「たしか……俺は鉄骨に押しつぶされたはずじゃ」
直前の記憶と目の前に広がる世界がどうやっても繋がらない。なぜなら、俺が居たのはコンクリートジャングルであって言葉通りのジャングルではないからだ。
『おや、ようやくのお目覚めか』
その声に俺ははっと振り向く。そこには中性的な顔立ちをした見知らぬ誰かがいた。
『おっと、そんな顔をしないでくれよ。今から君が疑問に思っていること全てを話していくんだからさ』
彼はそう言ってこちらに投げかけた。
『まずはボクの事からだな。そうだな、簡単に言ってしまうとボクは神の使いなんだ。だから、ボクを呼ぶ時は御使ミツカとでも呼んでくれたまえ』
馬鹿らしいな、何が神だ。神がいるのならこんな目には合ってないだろうが、と心のなかで毒吐いた。
『ハッハッハッ!!酷く信用されてないようだ!!確かにいきなり神の使いだなんて言われて信じる方が無理な話だったな。じゃあほんの少しだけ"力"を見せてあげようかな』
そう言ってミツカは手を振る。
途端、側にある泉から水が噴き出し、彼を中心にリングを形成する。俺はというと余りの非現実さに声が出ない。
『これで信じてくれる?……その様子だと信じてくれたんだね、良かった。それじゃあ次の話へと進めようか』
その穏やかな声色は昂った俺の心を宥めるかのようだった
---------------
「常識の外の世界への片道切符を僕は手にしたのだろう」
杉崎彩斗は己の稚拙な知識で推測し、呟いた。
「そうでなければこの世界を否定することになる」
『否定しようとも、現にここに存在してるのさ』
----------------