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「ピュア、君は選ばれたのだよ。だから、安心して。世界を救うことで君の願いはかなうのだから」
「そんなに簡単にいくものなの? 魔王には四天王っていう強い味方がいるのでしょう?」
ガタガタ震えるピュアは、きゃしゃで女の子らしさの塊だった。まさにヒロイン。気が強そうなあたしとは大違い。
そう思っていると、キュートが特攻を仕掛けた。ピュアの背中に、鈍器である岩をもって襲い掛かる。
しかし、ピュアはそれに気が付き、大きな岩は地面にめり込んでいった。
「きゃあ、なあに? かわいい女の子が襲い掛かってきたわ……」
「おかしいな、魔王はもっときつそうな女のはずだれど……四天王は全員男だったような」
妖精は堅苦しい口調で悩む。キュートは得意げに笑う。
「あたし、迷子のメアリー。貴女は?」
声まで女の子にして、キュートは尋ねた。
ピュアはほっとしたのかキュートに手を差し伸べて……空に放り投げられた。鈍い音がして、地面にたたきつけられたピュアは、涙目になっている。
「メアリーさん、どうしてそんなことをするの? わたしたち、何の因縁もないはずよ」
無垢な目で、キュートを見つめるピュアを、あたしは物陰から眺めていた。どうやらキュートは見かけによらずバカ力のようだ。
「それはね……あたしが男で魔王様の使いだからよっ」
「え!?」
悲鳴を上げたピュアを土埃がつつむ。そしてそのまま、大きな穴が開いて、そこにピュアが埋まった。そのままそこに容赦なく土をぶち込んでいくキュートは鬼のようだった。
このままじゃ、死んでしまうけれど……死なない限り、魔法少女はあたしたちを狙うだろう。
「ピュア!」
ラブリーと呼ばれた妖精が叫ぶ。そして、何かを唱えた。すると、土が舞い上がり穴の中は空っぽになった。その中にいたピュアは、目を丸くして腰を抜かしている。
この妖精、意外と優秀なのかもしれない。
前の魔法少女の時も、この子がついていたのだろうか。
「死ぬかと思ったわ……けほっけほっ」
「ピュア……」
「もう嫌よ、魔法少女なんて」
「君には目的があるのだろう?」
「そうね……あの夢をかなえるために、ここにしるしをつけておきましょう」
そう言って、妖精は何か円陣のようなものを地面に書き込んだ。
ピュアはじっとキュートを見つめる。
「次は、絶対貴方を倒すわ。わたしが皆を助けなきゃ……」
「ふんっ、助けなくてもみんな平和だっての」
「そんなことはあり得ないわ。あったとしても、それじゃ困るのよ」
意味不明な言葉を残して、ピュアは立ち上がる。そして土をきれいに払って、踵を返した。
「次は負けないわ」
「オレだって、ぶっ飛ばしてやる」
にらみ合うふたりを眺めながら、ピュアが見えなくなった頃に、あたしは顔を出す。
そこら中荒れた森を見て、あたしは呆然とした。魔法ってすごい。
「びっくりした? ダーク様」
「ええ……本当に。あなたたちは何者なの?」
「オレは土の力をつかさどるもの。まあ、ダーク様の力なんだけど。ほかの三人も属性があって、まあそれは戦うときにお楽しみかな?」
なるほど。だから自由自在に土を操れたのか。けれど、ピュアったら何も魔法を使わず帰っちゃったけれど、それでいいのだろうか。敵ながら不思議に思えてくる。
魔法少女なんだから、必殺技使えばまだ戦えたんじゃないの?
顔についた土を落としながら、キュートはあたしを見つめる。
「でも、魔王様の手を汚さなくてすんでよかった。オレじゃあいつを殺すことはできなかったけれど……」
「そんな、殺すだなんて、物騒よ」
「でもあいつは、ダーク様の命を狙って魔法少女をやってるんだ。命をかけた戦いなんだよ、ダーク様」
そう言われると、とたん悲しい気持ちになる。どうして、あたしたちは争い合わなければいけないのだろう。それぞれの場所で、平和に暮らしてちゃいけないのだろうか。
不機嫌な顔のままキュートがお城に向かって歩き出したので、慌てて追いかける。
そろそろお腹が減ってきた。家に帰ったらクールのおいしいご飯が待ってるのだろう。
美味しいご飯と仲良しの従者。それがあれば、それだけで十分なのに。
「魔王になんか、なりたくなかったよ……」
「何言ってるんですか。ダーク様がいなければオレたち生きてなかったんですよ?」
「……うん、わかってる」
魔王だから、この四人と出会えたという事実も、実感しているつもりだけれど……。もし人間の時のように、普通の五人でいられたら、どんなに幸せだっただろう。
気が付くと城の門までついていた。ナチュラルがいきなり抱き付いてくる。よしよしとそれをなでると、昼食に入った。