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今、リリィはなんて言った? 思わず目をぱちくりさせて、彼女を見る。にやりと笑っていた。

「お兄ちゃんリリィを見殺しにしたでしょ? リリィ許してないんだよね。だから悪霊になったの。気づいてないみたいだけど……ナチュお兄ちゃんは勘付いてるみたいだから今のうちにやっちゃおうと思って」

 そんな馬鹿な。

「ナチュお兄ちゃんにも、すぐさまこうなるとは予測できなかったみたいだけどね。飛び飛びの透視なんて、役に立たないもん」

「……わかった。オレが死ねば満足なんだな?」

「……すんなり行き過ぎるのもつまんないなー」

「じゃあどうすればいいんだ」

 おれは泣きそうだった。おれが、あの時リリィを助けていたら……。

「たくさん苦しんでよ、お兄ちゃん。そう、その崖から飛び降りて、痛みに悶えて死んでよ」

「……リリィ、お前はそんなにおれの事を」

「はい、いけませんよパッション。雰囲気にのまれては」

 そこには、ワープで飛んできたらしきクールが立っていた。隣には闇様もいる。

 気がつけば、四天王すべてが集まっていた。

 おれはとりあえず崖の近くからどいた。

 リリィの身体からまがまがしいオーラが発せられてくる。黒いような、紫のようなそれに圧倒され、オレは動けない。

「バカだなあ。お兄ちゃんってば。悪霊が恨みを持たずこの世にいられるわけないじゃん?」

「おれは、ずっとリリィに会いたくて……」

「リリィが恨んでるって、考えもせず、おめでたい頭だよね。お兄ちゃん」

「……本当にすまなかった」

 リリィが手から、丸い球体上の闇の塊を生み出し、それをおれに投げた。ジュッッと音がして、オレの腕が焼けた。

「うーん、これくらいしか、リリィには能力がないのかあ。さっさとお兄ちゃん食べちゃえばよかった。それか、闇様を」

「やっぱり、闇様狙ってたわけ~?」

「ナチュお兄ちゃんは、知ってたの?」

「ううん~。闇様の寝てるとこに現れるってことはそう言うことかなって想像しただけ」

「バカに見えて、勘鋭いよね。ナチュお兄ちゃんは。うちのお兄ちゃんは、純粋すぎて困っちゃうよ」

「パッションはピュアだよね。まっすぐで。ボクはそれは長所だと思うけど?」

 ナチュラルはそう言って、頭のわっかを外した。そしてそれを闇様に渡す。

「まあ、言うこと聞かなかったら強制成仏しかないよね。闇様の力で」

「魔法少女の力で?」

「そうだよ闇様。浄化する力は、十分にある。

成仏は……わかんない、できるのと出来ない未来が両方見えるから」

 そんな。絶対に成仏が出来るわけじゃないなんて……。おれのせいでこうなった以上、オレが出来ることは何でもしたいけれど、どうやらおれは無力らしい。

「闇様行くよー!!」

「うんっ」

 闇様が魔法少女へと変身していく。ステッキを持って恥ずかしそうに、そして真面目な顔でリリィを見つめる。

「リリィ浄化されちゃうの? やだなあ。あーえいっ」

 リリィは闇玉を投げつける。闇様の身体はびくともしない。見た目に似合わない舌打ちを、リリィはした。

「リリィ、あきらめろ」

「うるさいなあお兄ちゃん。早く食べさせてよ、その精力。むだにたっぷりあるんだからさあ。闇様は変身しちゃって食べれないし。っていうか、噂では死んだ人をよみがえらせる力のあるお兄さんが魔王といるって言ってたけれど、リリィにそれを使わないの?」

「セクシーのこと? アレが長く聞くのは魔王だけだよ」

 キュートがあきれた様子で言った。オレのほうをちらりと見てため息をつく。

 きっと冷めたところのあるキュートから見れば、これは茶番なのだろう。

 とっとと浄化すればいい、そう思っているのだろうけれど……。

「浄化しても、すぐ消えないんだからとっととやっちゃいなよ。闇様」

「キュート……」

「逃げる気もないみたいだしね」

 たしかに、リリィは逃げようとする様子を見せなかった。もっとも、魔放送所とワープできるクールがいる以上どうしようもないのだけれど……。

「ええい、浄化っ!」

 闇様がステッキを振り、ハートが乱舞する。

それと同時にリリィの身体が眩く光る。

その時リリィはなぜか、笑っていた。気のせいではないと思う。

 確かに笑顔で、そのまま浄化を受け入れた。

 そしてその場にしゃがみ込む。

「ドロドロした気持ちが消えた……リリィのお兄ちゃんへの恨みも消えた……よかった。リリィ、あの感情嫌いなのに、どうしていいかわからなかったの」

「リリィ……」

 オレは思わず目に涙を浮かべる。

 リリィは笑顔で、オレのほうを見て、歩み寄ってきた。そして思い切り抱き付く。

「ずっと、お兄ちゃんにお礼を言いたかったんだ。ずっとお世話してくれてありがとうって。でも、死んじゃったことのショックで、汚い感情に飲まれちゃって、つらかったの。ここに来れば、どうにかなるってなんとなく思ってきたの」

「そうなのか……」

「うん~まあ、ボクの見てた未来はよけられたみたいだねぇ~。あこでパッションが食べられようとしてたら、えぐいほうの未来になってたかも」

 正直おれは、食べられてもいいと思った。

 それぐらい、反省していた。

 だからこそ、浄化されておれに好意を向けるリリィを見つめていると涙が出た。

 男だって言うのに、ぼろぼろと、大粒の涙を人前で流している自分が恥ずかしいけれど、どうしたって止められなかった。

 リリィを抱き返して、すすり泣く。リリィも泣いているようだった。

「でもまあ、成仏ってどうやるの?」

 ナチュラルの発言におれは我に返る。

「この世の未練がなくなれば、成仏できるんじゃないの?」

 キュートの発言に、リリィを見つめる。

 リリィの未練って、何だろう?

「リリィ、もっとお兄ちゃんと遊びたい!

 闇様とも! でも、空く量じゃなくなったから、もうすぐ体が透けて来て遊べなくなっちゃうかも……」

「あたしの力を使えばどうにかならないの?」

「ん~、霊体に関与する力は闇様にはないけれど、そうだね~。ボクのそのわっかをつけている間ぐらいは、しばらく人間の姿を維持できるんじゃない? ダーク様の力は今はないし、完全ボクだけで、さっき闇様が使っていたから、持って一週間ぐらいだろうけど……」

「ナチュお兄ちゃん、いいの!?」

 リリィが尊敬したまなざしでナチュラルを見た。ナチュラルはすごく不満そうに、頷いた。きっとリリィや闇様の気持ちやおれの気持ちを優先したのだろう。なんだかんだでやさしい子供だから。

 今度、リリィが成仏したら、狩りでいい肉をたくさん取って来てやろう。

 闇様はわっかを外して、リリィに取り付けた。いつもの姿に戻った闇様は、お疲れモードでため息なんかついている。

 俺はもう一度、リリィを抱きしめた。キュートたちも幸せそうな顔をしておれらを見ている。

「あとしばらくは、我慢してあげるけど。リリィが成仏したら闇様はボクだけの物なんだからね?」

 ナチュラルが拗ねるようにって、闇様が笑う。

「わかってる。ご褒美に甘えてもいいわよ。ちゃんとお兄さんできて偉いわね」

「えへ」

 それから数日。リリィはずっとおれに甘えたり皆と遊んだりして過ごした。

 そして、最後の日目が覚めたころには、おれの隣に眠っていたリリィの姿はなくて、置手紙が置かれていた。

『おにいちゃんだいすき。うまれかわってもおにいちゃんのいもうとにうまれたいな』

 下手くそなひらがなで書かれたその文字を見たとき、おれはやっぱり泣いてしまったのだった。

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