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 朝だ。異世界の朝だ。あたしは隣にいるナチュラルを見てそれを再確認する。

 あたし、やっぱりふたつの世界を行ったり来たり出来るんだ。

「おはよう、ナチュ」

「ん~ダーク様……おはよう~」

 寝ぼけまなこのナチュラルはのっそり起き上がり、伸びをする。ぼんやりしているが、スンスンと鼻を動かしている。そう言えば、いい匂いがする。クールの作る朝食だろうか。

「ダーク様、今日のご飯ブドウのパンとかぼちゃのスープにサラダですよ」

「うわあ、おいしそう!」

 ナチュラルの隣に座ると、キュートが嬉しそうな顔で洋服を持って現れた。

 ピンク色のフリフリしたドレスは、あたし好みだ。とても高級そうな素材を使っていることは、お嬢様のあたしにはすぐわかる。

「ダーク様! 素敵なドレスが仕上がりましたよ。軽くて柔らかいのに、とても暖かいです!」

「ありがとうキュート」

 そこにパッションも眠そうな顔で現れる。手には大きなイノシシのような生き物がいた。

「ダーク様! おれもいい獲物をとれましたぜ! 絶対美味しいっす! ほかのやつはあんま食べんなよ!」

「パッションもありがとう。でも、みんなでわけて食べましょうね」

 にこやかな光景を見ていると、ここが魔王の住処だとは実感できない。勇者のいない魔王は、こんなにもほのぼのとしていられるのだろうか。世界征服とか、計画しなくていいのだろうか。それで済むなら、大歓迎なのだけれど。

「最近ひまだぜ、誰もおれらを退治しにこねぇし」

「それは、僕たちが世界征服をめんどくさがってきたからかもしれないですけどね。だって、ぽこぽこ勇者や魔法少女が現れて、戦うのも疲れましたから」

「魔法少女!?」

 この世界には、そんな存在まであるの? まるで日曜日の朝のアニメのようじゃないの! すごく、ポジションを替わりたいんだけど……無理よねぇ。

「ハイ、魔法少女です。人間の中で選ばれたものが、変身して戦うのです」

「いいなあ」

「え?」

「いや、何でもないわクール」

「ダーク様はね~魔法少女なんかよりも優しくてかわいいし、魔王似合わないんだよね~。でも、そうなる運命だから仕方がないんだよね。生まれた時から魔王だったって言うし」

「そうなの?」

 あたしは、この世界では生まれついての魔王だったの? なんだか落ち込むのだけれど。

 せめて何か深い理由があれば、納得もしたのだけれど……運命かあ。ほかの四人も運命で集められたのかしら?

「うん、ボクを小人の村から救ってくれたのも、運命だよ~」

「小人?」

「ボクね~小人族に生まれたんだよね~。でもまあ、普通の人ですらボクサイズって珍しいじゃん? 怖がられて監禁されてたところを、ダーク様が救ってくれたわけ」

 何とも残酷な運命だこと。ナチュラルも、ぼんやりしてるようで苦労したらしい。

 思わずいい子いい子してあげると、へらっと笑った。今より前と言ったらまだ十二より若いのではないだろうか。それまでずっと、監禁なんて、甘えん坊な性格も納得かもしれない。

「クールたちは、何か理由があって集まったの?」

「オレは貧乏で女装して踊り子をしていたんだけど……どんどん骨格とか女子と違ってきて、そのうち男色家にねらわれかけてたところを、ダーク様に拾われて。今は家族は幸せに暮らしてる」

 キュートは恥ずかしそうに言った。男色家。

無事逃げれてよかったと本当に思う。だってキュートってば名前の通り本当にかわいくて、十九歳には見えないぐらい童顔なのよ。正直うらやましくいぐらいよ。

「おれは、前の勇者に妹を殺されているんだぜ。だから、進んでダーク様に使えた。勇者とは名ばかりで、最後はダーク様に殺されたんだ。ダーク様は千年近く生きているけれど、一度も農村を襲ったことがないのに、魔王ってだけで狙われているんだぜ。納得いかないだろ?」

 パッションのいうことにあたしはびっくりする。あたし、一度も農村を襲ってないんだ!? 魔王なだけで、もしかしてあたし平和主義?

「私はこの国の王族の愛人の子供で、虐げられていたところ助けていただきました。そのことは本当に感謝しています」

「クール……みんな大変だったのね」

「うん~、まあ、ボクらが来るまではダーク様とひとりの従者と暮らしていたらしいよ」

「ひとり? ひとりで勇者や魔法少女に立ち向かえたの?」

「ダーク様は、最凶ですから。ですが、私たちを助けたころにはもうすでに、力が減り始めていました」

「どうして減るの?」

「ダーク様は、人間の精力を得るのを拒んでいたからです。もうひとりる頃は、彼の力のおかげでダーク様は生きており、もっとも長くダーク様と同じぐらい生きられる体でした」

「そんな、じゃあ、今はどうしてあたしが生きてられるの?」

 勢力を、誰かがとっているの?

「私の頭脳で、精力に代わる食事を考え出せたんですよ、ちなみにナチュラルにでも作ることができる簡単な方法で」

「クールひどくね? ボクをバカみたいに」

 確かに少々毒のある言葉だ。でも、最年少のナチュラルが出来るのなら、きっと本当に簡単なのだろう。

「それなのに、また新しい勇者や魔法少女はやって来るのです」

「そんな……」

 あたしたち、何も悪いことしてないのに!

 それってまるで昔の魔女狩りみたいよ。差別って言うんじゃないのかしら。

 冷めきった朝食を前に、不穏な空気が立ち込める。ナチュラルに至ってはあたしの手を握りしめて離さない。

「ダーク様は、ボクが守るからね~?」

「おれたちの間違いだろーが。このマザコン」

「マザ……ダーク様はママじゃないしっ」

「お袋じゃなくママかよ。子供だな、ナチュラルは」

 パッションの煽りにナチュラルの顔色が赤くなっていく。慌ててナチュラルのほうを引っ張って、止める。

「ナチュ、落ち着いて」

「だって、ダーク様はダーク様だもんっ。ボクの大事なダーク様だもんっ」

「うん、そうね。だから泣きそうな顔しないのよ。あたしが困ってしまうわよ」

「それは……嫌」

 よしよしとなだめるあたしの前に、キュートが立ちはだかった。今日はかわいらしい水玉のワンピースを着ている。

「ママ替わりならオレがやるよ? 女役なら慣れてるしね」

「キュートも、かわいいけれど煽りに参加しない」

「煽る気はないんだけどな。ナチュラルの御守大変かなって思って」

「御守じゃねぇしっ! ボクダーク様を守るナイトだもんっ」

 ……膨れながら言うナチュラルが、可愛くてたまらない。やれやれと言った様子のクールはお茶を入れ替えてくれた。

 こんな風に、ほのぼのしている魔王のお城が(多分お城だと思う、外出てないけど)何で魔法少女たちに狙われる運命なんだろう。

 幼ないナチュラル、落ち着いたクール、元気なパッション、可愛いキュート。まるで家族のようなあたし達のきずなを、壊すだなんてひどいんじゃない?

「……ダーク様、不安? 記憶もないもんね、ボクがいろいろ教えてあげるからね~」

 ナチュラルの励ましを、素直に頷いてあたしは冷えた朝ご飯を食べた。

 その日一日は、なんだか落ち込んでしまって、必要以上に皆に心配をかけた。

 すると、ガシャンと音がして誰かが倒れた。

 キュートだった。近づいてみれば顔が赤い。

「ちょっと、熱があるんじゃなくて?」

「ダーク様、うつります」

 そう言いながら近づいてくるクールの顔も赤い。パッションもぼんやりしている。平気なのはナチュラルだけだ。

「あたしが看病してあげる」

「やめときなよ~ダーク様。ボク達は頑丈だから寝たらすぐ治るし」

 それでも、だるいときは心細いから、あたしはなれない手でお鍋を持った。おかゆを作らなくちゃ、と思い水とお米をゆでる。

「ボクがやろうか?」

「あたしが皆の魔王様なんだから、世話位焼かないとおかしいわよ」

 ただ守られてるだけだなんて絶対いや。

 あたしにも、できることがあるはずよ。

 だけど、うまく行かなくてなんだかすごい濃い味付けになっちゃった。

「どうしよう……」

「ボクが食べるよ。三人の分はボクが作り直す。こう見えて、簡単な料理は出来るんだ」

「でも」

「気持ちは十分伝わってると思うよ?」

「そうかしら」

「絶対だし~」

 ナチュラルが笑うから、あたしもそんな気がしてそうすることにした。

 その代わり濡れたタオルを変えたり、上半身を拭いてあげうるのはあたしがやった。

 みんなが恥ずかしそうだったのは、気のせいだろう。

 ちなみに、料理は結局クールが作り直したらしい、

 


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