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 目の前には、我がお城に負けないほどの豪邸が立っていました。これでも、ただの貴族

なのです、階級はそれなりに立派であったはずですが庭の薔薇は豪華に咲き誇り、甘い香りを漂わせています。

 白い豪邸はまるで今ペンキを塗り終えたかのようにくすみなく、綺麗でした。

「おお、来てくれたか……えっと」

 初老の夫婦が私を見て近づいてきました。実の父と、義理の母です。実の母はとうに病で亡くなったとききます。

「クール、とお呼びください」

「でも、それは魔王がつけた……」

「今の魔王は平和主義です。ひとを自ら襲いもしません。襲う気ならば、とっくにあなたたちを襲いについてきていますよ」

「そ、そうだな。クール。わしのことはお父様と呼べ、妻はお母様と」

 正直今更面倒くさいと思いましたが、わざわざ名前を憶えてやる価値もないでしょうから、私は笑顔で頷きました。彼らが実の母を見殺しにしたことを、私は知っているのです。

 重い病でも薬も何も送らず、密室に閉じ込め、詩をひたら待ったとききます。

「はい、お父様、お母様。それで、私は婚約を拒否しにやってきたのですが……」

「まあ! それは出来なくてよ! すくなくてもいい名づけには会ってちょうだい。かわいらしい方が、わざわざ訪ねてくれたのよ。せめて一緒にお話ししてから考えてはどう?」

 お母様の言葉にめまいがしてきます。なんでそう、用意周到なのでしょう。若い女性を待たせて、そのまま返すわけにはいきませんから、会ってお断りするしかありません。

 この寒い中、少しばかりの滞在で帰宅なんて、可哀想すぎます。

「わかりました。が、断りますよ?」

「まあ、きっと気にいるさ。綺麗なブロンドのお人形のような美人だからな」

 お父様はそう言いますが、私は黒髪のほうが魅力を感じます。

「儚げで、いかにも育ちがよさそうなお嬢さんだよ、最近改名したそうで、ローズマリーと言うみたいよ。素敵な名前よね」

「そうですね」

 私は棒読みでそう返しました。正直興味がありません。一刻も早くケータイを触りたいレベルです、

「さあさ、寒いから中へ。あったかいスープもあるし、最上級の肉もあるよ」

 闇様やダーク様は、食事をどうするのでしょうか。大味な料理を、確かパッションが作れたはずですが、ほかのメンバーはまず包丁を持ったこともないはずです。

 ああ、今更不安になってきました。作り置きはしてきましたが……。

「クール、顔が真っ青だぞ」

「寒いの? 早く言えの中に入りましょう?」

「あ、はい」

 家の中は、ワイン色の絨毯が敷き詰められ高そうなものが大量に飾ってありました。お母様の趣味でしょうか、そこら中に花々が置いてありました。広々としているのに,暖はしっかりととれており、入った瞬間体が温まります。

 そして、客室に通された私は、確かに妖精のような美少女を見つけました。

 思わず、無言で見つめ合います。

「貴女が、ローズマリー」

「貴方は」

「クールと申します。私も改名したのですよ。奇遇ですね」

 もう二度と、昔の名前で呼ばれたくなかった。貧乏で、孤独で、いつも泣いていたあの頃の名前など、欲しくはなかった。

 寂しさを紛らわせるために、捨てられている本を読んで賢くなっていった。その知恵は今、闇様やダーク様のために役立っているから、無駄ではないと思うけれど。

 ……どうせなら、堂々と学びたかったと思うのは、普通でしょうね。

「素敵な殿方」

「貴女こそ、美しい女性です」

 自分でもむずかゆくなるような言葉を吐きながら、にっこりほほ笑む。差し出された手をそっと握り返して私たちは向かい合って席に着いた。

「魔王様の手下って冗談ですのよね? すっかりうわさなのですけれど……」

 ローズマリーは苦笑しながら聞いた。私はゆっくりと首を横に振る。

「残念かもしれませんが、事実ですよ。素敵な魔王に仕えて、はや数年です」

「まあ! ユーモアがあるのですね」

 ローズマリーは大きな瞳を見開いて、小さな口をを震わせて笑った。ここで、力を見せれば信じてもらえるのだろうけれど、そこまでする必然性も感じなかった。

 何よりお父様たちの視線が痛かったのもありますが。本当はこんな家、変な噂が流れても知ったこっちゃないのですが、闇様たちに迷惑がかかることを考えるとここはにこやかに流していくしかないのです。

 権力のある貴族に、魔王の反乱を感じ取られてしまえば、また勇者たちがやって来ることになるでしょう。そんなのは、だれも望んでいないことです。

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