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戦うために着替えるパッションに、慌てて昨日と同じ格好をするあたし。
正直、行きたくなんかない。思わず助けを求めてほかの三人を見るけど、ただ頑張ってほしいという表情を浮かべるだけだった。
あたしは諦めて一歩踏み出す。今回も、あたしは見ているだけがいいなあ。
なんて思っていると、パションは火山を上り始めた。ぼこぼこという音がして、明らかに危険だ。足元がふらついて、マグマに頭を突っ込みそうで怖いのと、隠れる場所がなくて終わった雰囲気なのとで、あたしの気分はブルーだ。
「ダーク様、顔が青いぜ」
「この状況でわくわくしてる貴方がおかしいのよ……」
「だって久しぶりの戦いだぜ!? わくわくするだろう!」
「理解不能よ……あ、そこ段差あるから気を付けて、パッション」
そんなことを呟いていると、白い人影が見えた。ピュアとラブリーだ。
ピュアはあたしを見て目をぱちくりさせるとラブリーのほうを向き直った。
「あれが、魔王なの? ラブリー」
「そうだよ、アレが魔王ダーク。この世を闇に落とそうとしている張本人さ」
「そんな、あたししてないっ」
思わず反論するけれど、ふたりは聞いていないみたいだった。
「美人だあ、魔王って感じじゃないよ~」
「これでも世界を滅亡する力があるんだよ」
「へえ、かっこいい~」
「ピュア、何を言ってるんだい君は」
「だってだって」
「君は正義の魔法少女だよ。そんな発言は許されないよ?」
「ごめんなさい~」
ピュアは舌を出して軽く謝る。その姿は昔の少女漫画のヒロインのようだ。
そして、ステッキをあたしたちに突きつけるように持つ。
「か、かかってきないっ」
「おう、行くぜ!」
パッションは周りのマグマを球体にして外にだし、それをピュアにぶつけた。
「きゃあ!」
「ピュア!」
ラブリーが叫ぶのも仕方がない。だって、ピュアはやけどで肌が焼けただれているのだから。かわいかった顔が、白かった肌が、ボロボロになっていく。
そんな状況にあたしまで小さな悲鳴が出た。えげつない攻撃は、どんどん続く。次第に骨まで見えて来て、あたしは視線をピュアからそらした。
「熱い、熱いよぉ」
「ピュア、攻撃だっ」
「腕を動かすのも痛いもの。無理よ」
泣きそうな声に、心が痛む。
「ねぇ、もういいんじゃないの? パッション」
「駄目だ。あいつは回復能力が高いらしいから、すべてを溶かしてやる」
敵とは言っても女の子の、体を溶かすだなんて、あんまりすぎるよ……。
「それとも、ダーク様水から攻撃するのか?
きっと魔法の使い方も忘れてるぜ、ダーク様は」
図星で、何も言い返せない。
瞬く間に、ピュアの体がドロドロになっていく。なのに、ラブリーは動じない。どうしてだろうか。
ピュアが何か得体のしれない塊になったころには、あたしは泣いていたし吐き気さえ覚えていた。魔王って、こんなにもつらい仕事なんだ。
でもこれで、ピュアはもう襲ってこない。ここまでひどくやれば、次の魔法少女もしばらくは現れないだろう。
「覚えてろよ!」
ラブリーはそう言って叫んで消えていた。
あたしは呆然としたまま、パッションに抱きかかえられて帰った。
途中、パッションは何も話さなかった。
帰って来てからは、勝利の報告をして、皆で乾杯をした。
これでもう、終わりだと思っていた。だから、あたしは安心してゆっくり湯船につかり、眠っていった。戦いが、続いていくことを知らないで。




