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「キュートじゃやっぱ駄目だったか。予測してたぜ」
異世界で目覚めてしばらくした後に、パッションが腕を組んでそう言った。
キュートはその言葉に露骨に不機嫌になりんながら準備体操をしている。
「失礼だよ、パッション。まさか妖精が魔法を使えるとは思ってなかったんだから。歴代の妖精は、言葉も話せなかったし」
ぶつぶつと、文句を言うキュートを無視して、クールは煮物を作っていた。
ナチュラルはというとその煮ものづくりの手伝いをしている。なんだか兄弟のようで微笑ましくて見ていて和む。見かけには、上下逆に見えるけれど。
「まあ、次はおれが倒しに行くぜ。あっちも数日は動けないだろうから、のんびりしてよーぜ。休息も大事大事。はっはははは」
豪快に笑うパッションを、冷めた目で見るキュートだった。
そこに、煮物を作り終えたふたりがやってくる。おいしそうな朝食だ。彩もきれいで、いい匂いがする。
「残念ですが、もうピュアが元気に動いてるのが目撃されています」
「!? 嘘でしょ!?」
「ダーク様に何故嘘などつきましょう。残念ながら事実です。ピンピンに元気かどうかは不明ですが、また魔物を倒しています。あ、ちなみに魔物と魔族は別ですよ、ダーク様」
「そうなの? 一緒かと……」
「魔族は人型でいなければいけません。魔力が高い一部の者しかできないのですよ」
「へぇ~博識だね。クール」
「昔のダーク様と本当に違うのですね。こんな常識に驚くことはなかったです。まるで他からきたようです」
ぎくり。
「そ、そんなことはなくてよ……」
実際そうなんだけどね! こんな世界ふしぎだらけでわけがわからないもの。
「死んだかと思いましたからね、意識不明になられたときは」
「え、あたし意識不明になったの?」
「てっきり精力不足だと思っていたのですけれど、違ったみたいで。すぐに目を覚ましました」
そんな経緯があっただなんて、びっくりだ。
あたしはただ、寝て起きただけかと思っていた。皆で席につき、煮物をつつく。美味しいご飯も一緒だ。
「まあ、おれらのダーク様が無事だったからそれでいいけどな!」
「びっくりしたし~」
「オレより先には死なせないよ、ダーク様」
四天王の言葉に、少しうれしくなりながら煮ものを味わう。すごくおいしい。
しかし―彼らの表情は固かった。
「それにしても、ピュアをまた倒しに行かなきゃいけないんだぜ、キュートのせいで」
「オレが次行ってもいいんだけど?」
「いーや、おれの番だ。皆ダーク様にいいところ見せたくて張り切ってるんだぜ?」
言い争うふたりを、クールは冷めた目で見ている。ナチュラルは食べることに夢中だ。
「戦わないですむ方法はないの? 話し合いとか……」
「ないね。あっち側の人間が折れるわけないよ。ダーク様の首を狙ってるんだから」
「そんな、キュート……首なんて……あたし、死にたくないっ」
「死なせないよっ」
キュートが力強く叫んだ。おもわずあたしはびくりとする。
「オレらは、ダーク様を全力で守るから、そんな心配しないで?」
「そ~だよ~。ボクもこう見えて強いからさ」
「いや、お前はいかにも強そうだろ」
「そう~? ありがとうパッション」
「とっとと煮物を食べてくれませんかね? 織機が洗えません」
「あ、うん」
クールの言葉に慌てて煮ものをかき込む。
お皿を集めたクールは、洗い場へと消えていった。
「クールって常に落ち着いてるのね」
「ダーク様の命名はぴったりだからねー。ナチュラルだけちょっと変わってる気がするけど」
「あたしがつけたにしては、まあ上出来よ」
あたしの家のの猫は豚まんってなまえだもの。それより上等よ。昔飼っていたハムスターは肉まんだったわ。
「大変です! ピュアがもう近くまで来ているらしいです!」
のんびりしていたところに、クールの叫び声が響く。そんな、バカな。あんなにダメージを受けていたはずなのに。




