1
どうしてこうなった。
あたしは、ずっと魔法少女に憧れて生きてきたのに。高校一年生の秋を楽しんで、それなりの生活を送ってる最中だったはずなのに。
「おはようーーっ!! ダーク様!!」
目を開くと、赤い髪を元気にはねさせた青年があたしに向かって元気に叫んだ。ケープをかぶった下は黒いタンクトップを着ている。いかにも体育会系という印象だ。
「ひい」
いきなりのドアップにあたしは悲鳴を上げる。
そこに、青い髪をキレイに切りそろえた細身のめがねの青年が飛んでくる。
「パッション! うるさいですよ! ダーク様は気絶されていたのですから」
「ダークって誰?」
「貴女ですよ! ああ、おいたわしやダーク様」
およよと泣き始める青い髪短い学ランを思わせるけれど、どうみてもファンタジーな世界の人々に見える。
「うるさいのはクールもだよ、バカ」
さらに黄色い髪のロリィタファッション? に身を包んだ少女のような……声からして男の子が言った。
「ね~? 大丈夫? ダーク様、ボクのこと覚えてる? ナチュラルだよー。さっき話しかけた赤い髪の暑苦しいのがパッション。ボクの次に大きくて百八十五ある。注意した青いめがねがクールで、あっちの小さい黄色い髪の女の子みたいな女装のがキュート。」
そう発言したのは緑の髪を長く伸ばしひとつに束ねた二mはあるかと思われる長身の大男だ。身長の割に威圧感のない、のんびりとした口調でしゃべる。頭には孫悟空のようなわっかをつけている。うん、現実にはいないタイプ。
現在、あたしはまるでファンタジーゲームの四天王のような、四色の頭をしたイケメンにあたしは暗い部屋の中で囲まれていた。
さっきまでは普通のお嬢様として学校に通っていたはずなのに、交通事故にあったと思ったらこの様だ。
記憶を少し整理してみよう。
あたしは、たしか……。
*
「闇お嬢様。今日もご機嫌麗しゅう」
「ごきげんよう」
あたしは長い黒髪を揺らして、頭を下げる。
あたしの家は、倉グループのトップである。
いわゆるお嬢様なあたしは、お嬢様学校に通っていた。中には、貧乏でも無理して入学する特待生とかもいるけれど、あたしはストレートにあたしの家、倉家は寄付金を渡して入学した。
黒塗りの車に乗って登校する生徒が多い中、あたしは自力でゆっくり登校するのが好きだ。
野花を見たり、猫と戯れたりする自由な時間に癒しを感じる。
クラスでは、一番お金持ちだから、ボスのように扱われるしなんだか居心地が悪い。
あたしが望めば、皆がイエスと頷く宗教のような状態と、あいつがいるから。
「ごきげんよう、皆さん」
「闇お嬢様! ごきげんよう!」
「城崎ましろのやつ、遅いですね。今日の当番なのに……」
城崎ましろ。彼女は貧乏なのに、この学校にいる生徒のひとり。勉強だけは出来るけれど、どんくさくてクラスでは嫌われている。
一部の男子に受けがいいことが、あたしの周りが彼女を気に入らない原因だったりする。
「放っておきなさいな」
「でも、遅刻とか生意気ですよ」
「後で怒られればいい事。あたしたちが気にすることじゃなくてよ」
このお嬢様言葉も、家でしつけられたもので、正直めんどくさい。お嬢様たるもの、上品に。っていうけれど、古臭いんじゃなくて? 白いレースのハンカチに、白い三つ折り靴下にひざ下丈のセーラー服。今時、これはないなって思う。
あたしだって、普通の女の子だったら、ブレザー着崩してゆるく決めたかったけれど、お嬢様に生まれたから仕方がない。
「すみません、おくれました」
色素の薄いふわふわした三つ編みを揺らして、城崎真白は現れた。
「遅い、闇お嬢様を待たせるなんて。今日の課題やってきたわけ?」
あたしは別に自分でやって来ると言っているのだけど、どうも皆はあたしに恩が売りたいらしい。
あの手この手であたしに媚を売ってくるのだ。正直面倒くさいし辞めてほしいけれど、そう言うと泣きそうな顔をして機嫌を取ろうとしてきたのでもう言わない。
「闇お嬢様」
「闇お嬢様」
いつもそんな声を聴いて、青春を過ごしていた。好きな人が城崎ましろとかぶった時は、あたしは別に仕方がないと思ったのに、城崎ましろイジメがいまのように始まった。
好きな人は、実は一瞬の憧れで、今はもう興味の対象ではないというのに。
まるであたしが悪役になる運命かのように、学校はあたしを中心に回っていた。
そして、その日の帰りに、あたしは交通事故にあった。
*
その結果がこれだ。クールに料理を準備され、ナチュラルにはべったり張り付かれて、パッションは狩りへ、キュートはあたしの新しい服を縫っている。黒と紫を基調にした、フリフリしたドレス。今着ている服も、彼の趣味なのだろうか。黒いお城のような広さの部屋の中であたしたちは話す。たぶん、外観もお城のようなものなのだろう。細かいところがいちいち高そうで、金もふんだんに使われている。
「ダーク様。ボクと一緒に絵本でも見よ~?」
ナチュラルが図体に似合わないことを言い出す。あたしは暇なので差し出された絵本を取り出してみた。見たことのない文字で書かれているのに、何故だか読める。
「ボク、ダーク様に拾われるまで絵本とか読む機会がなかったんだよ~。ボクたちね、皆ダーク様に拾ってもらったんだぁ~だから、皆ダーク様のことが大好きなんだっ」
「そ、そうなの」
ぴっとりとくっつくナチュラルを、引きはがそうにも無理があるので、あたしはされるがままになっている。
クールが作るスープのいいにおいがこちらまで香ってくる。よだれが出てきそうなぐらい間のあたしは空腹だ。
「ダーク様おなか減ってる? ボクの分も分けてあげるね~?」
「ありがとう、ナチュラル」
「ナチュ。ダーク様はボクのことをナチュってあだ名で呼んだよ」
「……そう。ナチュ。かわいいあだ名ね」
「そうでしょ~? ボク超気に入ってるんだよね~」
きっとこの懐き具合は、あたし自身も相当彼をかわいがっていたのだろう。何故彼なのかはよくわからないけれど。
「ご飯が出来ましたよ、ダーク様」
クールの呼びかけに、ナチュラルが走る。
瞬間移動みたいだった。
今回のご飯は変わった色をしたスープに、何かの肉にサラダだった。
「お気に召すといいのですが……」
謙遜するクールを前にして、スープに恐る恐る口づける。
「うん、おいしいよ」
「左様でございますか、嬉しゅうございます」
「クールも食べなよ」
「ありがたきお言葉」
あたしの言葉にクールが座り、食べだす。躾の行き届いた子供のような、きれいな食べ方をしていた。
ナチュラルは、あまりきれいに食べられないらしくよくこぼしていた。
「ダーク様、ボクに何かついてる?」
「いや、そう言うわけじゃないけど……」
年上っぽい気がするし、指摘しないほうがよさそうだ。そのうちパッションが狩りを終えて帰ってきた。キュートはクールがご飯を運んで行ってひたすら縫物をしているようだった。
これが、魔王とその手下の四天王だと、目覚めたばかりの時に聞いたけれど、正直全く納得がいかないあたしだった。
確かに四人は魔王の手下っぽい。でかいしごついし……。