事故犠牲
タイトル:他殺自殺
私の息子は刺殺された。
もっと簡単に言うと、自分から刃物に刺されにいった。
犯人は駅のホームに通じる階段から落ちて、気を失っただけですんだ。
しかし、一緒に転げ落ちた息子の方は、病院に運び込まれる前に息を引き取った。
息子は気が狂っていた。病気だった。
世間では英雄だの勇者だの言われてるけど、そんな度胸があるなら、もっと生きていて欲しかった。
あれは自殺だと思っているのは、夫と私だけだろう。
あの子は夜になると、どこかおかしくなっていた。
泣き叫んだり、暴れ回ったりはしなかったけど、葛藤みたいなものがどんどん溜まっていたように感じる。
目つきが明らかに違っていたから、よく分かった。
きっと疲れてしまったのだ。
ああいう類の人は、生きることに人一倍神経を使っている。
回さなくていい気を回してしまう。
こんなこと親が言うものじゃないんだろうけど、バカな子だったのだ。
要領よく生きていけなかったのだ。
英雄だの勇者だのどうでもいい。
残された親の気持ちを考えていられたら、きっとあんな死に方は選ばなかった。
不器用なりにでも生きていてくれたら、それで良かったのに…。
死んだ息子に対して言葉をかけてあげられない親の気持ちが、あの世にいったあの子には分かるだろうか?
棺の前で、眠っているあの子を見下ろして、何も言えない親の気持ちが分かるか?
謝ることも、泣くことも出来ずに、ずっと見下ろしているだけしか出来ないんよ…?
「阿呆が…」とうめくことすら出来なかった。
犯人に対しての恨みより、息子に対しての憤りばかりが頭に浮かぶのだ。
どうして強く生きてくれなかったのか、あの世のあの子なら答えてくれるだろうか?