第一話 きっかけは、ちょっとした事
俺の名前は瀬能将吾、ここ序奏市に暮らす至って普通の大学二年だ。大学の名前は序奏大学、この市に一つしかない大学で県立にも関わらず偏差値は低め、その為に高みを目指す人は県外へと飛び出していく。俺はこの序奏市が好きなのでここに入ったのだ。趣味はアニメ鑑賞にネットゲーム。ネットゲームについてはバイトを強いられるくらいは重度にプレイしてたりする。問題を言うとすれば容姿くらいだろうか、顔は普通なのだが背丈が165なのと華奢な体なのだ。ゲームしかしてないのだから納得の結果だ。
この自己紹介から察してもらえると助かるのだが一応説明するが、彼女についてはあまり期待しては居ない。だらだらと大学生活を過ごし、適当に就職し、一生を終える。そんな風に生きれば良いと思っていた。まあ、恋愛に関しては昔は期待していたところもあったのだけど、この話は今は止めておこう。とにかく俺はただ、だらだらと過ごす大学生活の予定だった。
しかし、ちょっとしたきっかけで人生は予定とは大きく変わることになる。
今日は大学が始まる一日前、と言ってもサイクルとしては去年と変わらないだろう。俺は朝起きてからPCの電源を入れていつものネットゲームを起動させる。
プラス・ファンタジー・オンライン
4年前にサービス開始が始まった。ゲームシステムは3Dのアクションゲーム。クエストを受けてゲームの世界のいろいろな場所に飛んで行き、調査をしつつエネミーを倒すゲームだ。今までのネットゲームには無かったグラフィックの良さと豊富な武器の種類から評判が上がり、今となっても人気が高い。俺はそのゲームのグラフィックに惹かれて初めてみた。綺麗な景色と操作性の高さから俺はすぐにはまっていった。
ログイン画面を抜けると、画面には自分のキャラクターである小柄な女の子が表示される。名前は小狐。茶髪のポニーテールで、垂れた目が可愛らしい。
そう、俺はいわゆるネカマだ。このゲームに搭載されているキャラクタークリエイトシステムは細かい体の設定が可能。そこで俺は好みの女の子を作ってみたのだった。
ログインが済み、ロビーに入る。画面に薙理というキャラからウィスパーでのチャットが表示された。
薙理と言うキャラクターは俺のフレンドだ。俺が始めた当初、コミュニティを探していた時に女性しか居なかったコミュニティで出会った。ここで分かった方も居るでしょう。そう、昔はネカマをしてたりする。アニメとかの話で盛り上がり、気づけばフレンドになっていた。歳は一歳下だったけど、堂々たる性格と行動力からお姉さん的存在として俺は扱っていた。出会ってから一年経った頃だろうか、薙理さんに本当の性別を打ち明けたことがあった。俺は仲良くなるにつれて隠している事に罪悪感に侵されてしまったのだ。打ち明けた瞬間はこのゲーム自体を辞めようかと思っていた。しかし、彼女は「へぇ…そうなんだー」と人事のように受け取り、今までと変わらない接し方をしてくれたのだった。それからはただのフレンドではなく親友と呼んでもいいくらいになっていた。コミュニティが解散となった今でも彼女は俺に話をしにきたり、クエストに誘ったりしてくれている。そんな彼女だが難点が一つあったりもする。それは百合気味という点だ。可愛い子を見つけては話しかけてきた時にはうんざりしたものだ。
薙理:こんにちは
小狐:こんにちは、今日は早いねー
薙理:今日は学校が休みだからねー
小狐:そうなんだー
薙理:今日はドラゴン狩りに行かない? ちょうど欲しいアイテムがあって…
小狐:いいよー
薙理:じゃあ、そっちにロビーに向かうね
それから2分経って、俺の目の前に170cmくらいの女性キャラクターが走ってきた。白髪のロングでツンとした目が格好いい。薙理さん曰く自分に似せたと言ってはいるが、信じ難かった。
薙理:小狐ちゃんはいつも可愛いわね♪
小狐:はいはい…、早く行くよ
薙理:もぅ…照れちゃって
……俺は男として見られてないのだろうか?
こうして今日もネットゲームを楽しむ一日が過ぎた。
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新学期が始まり、俺は教室で待機していた。昨晩のクエストがきつかったので寝て過ごす予定だ。だが、リアルはゲームのように静かにしてはくれない。
「将吾くん、疲れてそうだけど、大丈夫?」
「ああ~、寝てれば大丈夫~」
声を掛けてきたのは、霧島舞代。俺が小さい頃からご近所さんとして交流してきた女性だ。肩までかかった茶髪におっとりとした表情が可愛らしい子だ。俗にいう幼なじみというもので運が良かったのか今でも友人としていられている。なにかと面倒を見てくれる舞代だったが、ネトゲに走ってからというもの学校外での交流は減ってしまった。
「おいおい、幼なじみが声を掛けてくれてるんだぞ? ちゃんと挨拶せんか!」
「はいはい……、おはよう」
「うん、おはよう将吾くん」
今注意したのが、俺のリアルでの男の友人こと木下宗次郎。この序奏大学に入ってから知り合った。仲良くなったきっかけは、たまたま席が近くて話が合うくらいだった。背丈は170くらい、さらっとした茶髪とメガネが特徴だ。まあ、あまり説明しても面白く無いので寝ることにした。
授業が始まり、教室での黒板をチョークでなぞる音が心地よい。そうして意識は昼まで吹き飛んでいった。
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お昼時。俺は大学の中庭にて売店で買ったパンにかぶりつきながら眠気を覚ます。ボーっとしていると、いつの間にか目の前に宗次郎がたっていた。
「ったく、お前はいつも無気力そうだよなー。少しは彼女とか作る努力とかしろよ。少しは見が覚めるだろう」
「あー、俺はあんまり期待してないから」
「ということで、明日合コンを開くことになった。もちろんお前も参加な?」
突然の発表に俺の頭は真っ白になった。
合コン!? 冗談じゃない!!
「はあっ!? 俺は行く気はねーぞ?」
「バイトは明日シフトに入ってないんだろう? だったら、参加な。これは強制だから絶対に来い! これを期に少しは己を恥じてみろ」
「ええ…」
「じゃあ、明日の19時に駅前の居酒屋でな!」
そうして俺の反論も聞かずに立ち去ってしまった。
世話を焼いてくれる友人が居るのは良いことだったと思っていたが、訂正しなければならない……そう思った。
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その夜、あまりに不安だった俺はなんとなく薙理さんに相談してみることにした。
いつもだったら話すことのない話題なのだが、背に腹は変えられない。
薙理:ふ~ん、その合コンに出ることになったのね。
小狐:うん、ああ言われちゃうとしょうがないよね…。昔からのよしみもあるし…。
薙理:優しさの投げ方がスパルタに感じるわ
小狐:あはは…そうだろうね。明日は本当に面倒…。あー、薙理とだったらまだ楽なのになー
薙理:うん? じゃあ、行ってあげようか?
小狐:いやいや、無理しなくても
薙理:あはは、期待してなさい!
>薙理がログアウトしました
小狐:ええ…ホントに行っちゃった…。まあ、実際に来るわけがないよね…?
薙理さんとはアバウトな住所は教え合っていたのだが、来るまでには至らないだろうとその時は思っていた。しかし、その考えが浅はかだったことも将吾は気づけなかった。
そしてこれからの人生を大きく変えるものとも…
前作を呼んでくださっている方はこんにちは。初めての方は初めまして。倉理沙と言います。なんとなく書いてみました。
更新の方は一作目もあるので、かなり不定期の予定なので、気長に待っていただけるとありがたいです。一応頑張って連載していこうかと思います。