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CreatorS WarS ~The third day~

作者: 荒川サハラ

三日目です

一日、二日目を読んだあとのほうが楽しめるかと思います。

「目障りな太陽だ。この世に太陽は一つだけでいい――――」

その声は空から降ってきた。

三日目の昼過ぎ、サンと共に学園を目指して歩き出した途端のこと。

太陽は雲に隠れ、陰鬱な空気が渦巻く中、その空気をはね除けるような澄んだ声だった。

「お前は―――どう堕としたものかな」

空を見る。

澱んだ灰色の空に一人の青年が立っていた。

比喩ではなく、虚空を踏み締めて立っていた。

中国のような衣服を身に付けた細い長身。

頭の後ろで束ねた腰まで届こうかというほどの黒髪。

顔を見れば、誰もが凛々しいと認めるだろうその顔。

鷹のような眼だと思った。

それほどまでに鋭い眼光はサンを射抜いていた。

そして何よりも目立っていたのは手にしている長弓(ながゆみ)だった。

微かに赤みを帯びたその弓は、二メートル以上あるだろうか。

どうみても持ち主である青年よりも長い。

あのような弓の持ち主である青年。

何よりも明白に英雄だった。


やはりアルジュナ同様、僕の記憶にこのような英雄はいない。

しかし、サンは何かを感じとったのだろう。

「カズキ……あれはボクの天敵だ」

そう言って、両拳に蒼炎を纏わせた。

距離にしておよそ五十メートル。

「サン、どうするの?」

「出し惜しみして勝てるような相手じゃない……本気でいく」

サンが膝をたわめたその時。


「サン?ソルの間違いだろう?」


そんな声が青年から発せられた。


ソル……?

誰の、こと、だ?

わかっていた。

最初会ったときにサンが本当は違うと言っていたから。

しかし僕はサンと思うことで接してきた。

ソレが崩れるというのは、僕らの関係を白紙に戻す事を意味していた。

「……あぁ、その通り。ボクの真名はソル……サンじゃない。ゴメン、カズキ……騙すつもりは無かったんだ」

サン……ソルは僕に言う。

本当に些細な嘘。

だが、この世界の中での嘘は、裏切りにも等しいモノだった。

仮に――――

仮に分かりきった嘘だったとしても――――――

「誰を……」

信じればいいんだ?

何が信じられる?

答えはない。

問いかけはひたすら同じところをくるくると回っている。

「おい、何を迷う必要がある?ソレはお前を騙したんだぞ?そんなやつは見限って帰ればいいんだ」

青年の声が響く。

「っ!カズキ、ダメだ!騙そうなんて思ってない!信じて」

ソルは必死に声をかけてくる。

わからない。

僕はどうすればいい――――!

「カズキがボクを信じられなくても、ボクはカズキを護るよ。それがボクのここにいる意味だから!」

チッ、という青年の舌打ち。

「カズキ!」

「ああぁぁぁ五月蝿いぞ太陽の分際で――――!」

青年を見た。

弓には一本の矢。

だがそれは圧倒的な何かを孕んでいた。

空気を巻き込みながら、赤熱した矢尻が尾を引いた。

さながら流星の――――否。

九の尾を引く流星などあるものか―――!

悠久(フレア)陽光(ライズ)ッ!」

ソルの奥義が間髪いれずに放たれる。

青年を包み込むはず灼熱の光は、ものの数瞬で砕け散った。

「!!?」

ソルの顔が驚愕に歪む。

当たり前だろう。

超常が当然のように崩されるなど誰が想像しよう。

光の中を飛来する矢尻。

その尾は八になっていた。

「はっ、そんなもんでこの矢は止まらねぇよ!」

青年はソルに言う。

悠久(フレア)の」

「だぁから止まらねぇってよ!」

顕れた途端太陽は消滅する。

だがその度に尾数は一本ずつ消えていく。

恐らくはそれがあの技の耐久値(じゃくてん)

しかし、弱点にはなり得まい。

あまりにも常軌を逸している。

あの技を相殺するには、ソルの奥義は九回必要になる。

高速で飛来する矢尻が到達する前に九度奥義を放つなど、できる筈もない―――!

「カズキ!」

ソルが僕を庇うように抱き締めた。

温もりが伝わる。

優しさと愛しさに彩られた、ソルの温もり。

―――ボクを信じられなくても、ボクはカズキを護るよ―――

その言葉に嘘偽りは無かった。

サンがソルであったとしても関係ない。

今こうして僕を護ってくれているじゃないか。

名前が変わっただけ。

それ以外何も変わらないじゃないか。


信じられるものがある。

信じたいものがある。

サンは……ソルは僕の――――――――――


『□□□□□』


頭の中を駆け巡る稲妻。

その稲妻が導いたかのように、そんな(ことば)が浮かんでいた。

詞を紡ぐ。

時間が滞留する。

遅くなったのか、思考力が振り切れたのか。

いやに鈍足な世界の中、詞は結に至る。


「『常勝(ソル・)の―――――太陽(インウィクトゥス)――――――!』」


瞬間、世界が焼けた。

朱の光が弾ける。

解る。

これこそがソルの真の奥義。

陽光(フレア)などというマガイモノではなく。

常勝の名の元に、爆心(グラウンドゼロ)は牙をむく。

矢は瞬く間に呑み込まれる。

が、矢によるものか、爆心は急速に勢いを落としていく。

だが――――――


縮小した爆心は解き放たれるように再び猛威を振るう。

「そんなバカな話が――――!」

青年が口元を歪める。

その顔を彩るのは驚愕と―――畏怖。

青年は弓を構え、真名とともに矢を放つ。


「『穿天神弓(てんうがつかみのゆみ)射堕九陽(いおとすひここのつ)』ッ!!」


先程同様、九の尾を引く流星が襲う。

九度、爆心は膨張を妨げられたが、それだけだ。

「お前は――一体なんなんだ――――!」

泡をくって後方へ逃げる青年。

しかし何の意味があるのか。

この奥義に隙はない。

解ったから。いや、解っていたから。

ソルを想像したとき、コレも同じく想像した。

常勝の太陽。

それは、対象を喰らうまで無限に拡がる爆心――――――!


「ふざけ――――――」

青年は遂に太陽の(かいな)(いだ)かれる。

そして急激に収束し。

轟音とともに、爆散を起こす。

煙すらも焼き焦がし、白い巨星が発光する。

視界が明滅する。

あまりにも鋭利な閃光は、目蓋を貫いて眼球を灼く。

数秒、いや数十秒だったのか。

目が風景を映し出した時。

そこには、青年が満身創痍ではあるが、まだ消えずにいた。

「――――あ、ちぃ、んだよ」

「へぇ、まだ消えないんだ?」

ソルは驚きを隠さずに言った。

「こっ、ちの想像者が、色々想像した、みたいでな……」

青年の肌は焼け、赤黒い肉が煙を上げている。

それでも消えることはなかった。

なんという耐久力。

太陽に飛び込んで生きているなんて事があるはずがない。

流石英雄と言ったところか。

「く、そが……」

青年が焼け爛れた腕を持ち上げる。

あの身体でまだ戦うつもりなのか。


だが、その戦意は黒い斬撃に削がれた。


焼けた身体でその一撃をかわせたのは奇跡に近い。

倒れるように、青年はその一撃をかわしていた。

いつの間にか、僕らから少し離れたところに、忘れもしないあの姿が立っていた。

体を覆う漆黒の鎧。

右手に無造作に構えた黒い剣。

あの黒騎士が立っていた。


「――――――――」

黒騎士が何かを発した。

言葉にはならない叫びのような。

そして黒騎士はソルに向かい膝をたわめ。

五十メートルの距離を一瞬でゼロにしていた。

黒い袈裟斬り。

それをソルは真っ向から迎え撃つ――――!


鉄を叩きつけるかのような音。

ソルの右手はこれまで以上に燃え上がり、黒い剣を受け止めている。

ソルの足元には無数のひび割れが生じていた。

改めてその姿を見て、黒騎士の異常さが解る。

黒い剣は持っているのではない。

右手に癒着している。

「――――!」

またも黒騎士は何かを発する。

ソルに一撃を受けられた事が甚だしいのか、黒騎士は右手の剣に力を込める。

ソルの顔が歪む。

ズルズルと、ソルが意思に反して後退する。

それを。


「『穿天神弓(てんうがつかみのゆみ)射堕九陽(いおとすひここのつ)ッ!』」


青年が離れた場所から狙っていた。

ソルが咄嗟に黒騎士の腹を蹴り、後方へ大きく跳ぶ。

体制を崩した黒騎士のがら空きの胴に、青年の一撃が突き刺さる。

しかしその一撃は黒騎士の胴に当たる寸前で消滅した。

黒騎士が頭を巡らせ、青年を見た。

そこにソルが渾身の一撃を叩き込む。

「『常勝(ソル・)太陽(インウィクトゥス)!』」

黒騎士が太陽に呑み込まれる。

青年を覆ったよりも遥かに長く太陽は黒騎士にまとわりつく。

収束していく赤熱の巨星。

ソルが持てる最大の一撃。

しかし。

それでもなお。


黒騎士は倒れない。


内側から斬り崩される太陽の中。

熱せられた紅蓮の鎧が現れる。

なんて……なんてデタラメ。

「おい太陽……コイツはなんだ?」

青年の声がする。

「ボクが聞きたいよ」

ソルが返す。

青年の皮膚は既に癒えかけており、戦闘に支障はないようだ。

「……お前を堕とすのは後だ。先ずは」

「この化け物を倒す!」

そこに、あの深い男の声がした。

「ふむ、これはかなりの強敵と見た。私も加勢しよう」

アルジュナ――――――!


三対一。

黒騎士を囲むような陣形。

(えんきょり)(ちゅうきょり)(きんきょり)

これほどの布陣を以て黒騎士を討つ。

はたして動いたのはアルジュナだった。

木の槍を振りかぶる。

「『舞踊神(シヴァ・)の――――――」

青年がそれに続く。

「『穿天神弓(てんうがつかみのゆみ)・――――――」

そこに。

「『常勝(ソル・)の――――――」


「――――――――――――!」

黒騎士が咆哮する。

明確な声。

だがそれは限り無い憎悪(のろい)の叫び。

右手の剣が変形する。

細身の剣身から、広く、長く、重く。

両刃ではなく、片刃に。

ギシギシと鎧が音をたてる。

鎧の一部が罅割れる。

黒騎士自身が己の右手(つるぎ)の重みに耐えられない。

剣身はゆうに三メートル以上。

斬馬刀すら赤子の玩具。

ごくゆっくりと黒騎士が右手(つるぎ)を持ち上げる。

足元は窪み、踝辺りまで埋まっている。


「『■■■■■■■■■』――――――ッ!!!」


其が黒騎士の奥義なのだろう。

聞き取れない咆哮とともに最上段の巨剣が降り下ろされる。

しかしそれよりも早く。


激昂(パーシュパタ)』――――!」

射堕九陽(いおとすひここのつ)』――――!」

太陽(インウィクトゥス)』――――!」


三者三様、それぞれの奥義が放たれる――――――!


アルジュナの槍が延びる。先端から無数の碧い穂先が現れる。

青年の矢が九の尾を引く。これまで以上の長い流星。

太陽が黒騎士を覆い始める。先よりも神々しい輝きで。


紅蓮地獄とはまさにこの事だろう。

黒騎士を覆った太陽から無数の穂先が飛び出す。

その内部で青年の矢が九度爆発を起こす。

そして太陽が燃え盛る。


地面が炭化する。

大気が渦を巻く。

衝撃が地を伝う。

周囲の家は跡形もなく消し飛んだ。

ソルの後ろに居なければ、僕は同じように消滅していただろう。

ソルが熱を後ろに流すことを赦さない。

太陽(ソル)の意志に焔は従っていた。

これほどの一撃。

これほどの威力。

紅い視界に眼を凝らす。

太陽の焔に触れて尚アルジュナの槍は焦げすらしていない。

紅蓮の牢獄。

だが、そこで、一つ。

何故太陽は収束しない――――?

三者へ視線を飛ばす。

ソルは額に大粒の汗を浮かべていた。

青年は再び矢をつがえていた。

アルジュナは今一度槍を振りかぶっていた。


ま、さか……


不意に太陽に黒い刃が突き立った。

そしてそれはゆっくりと滑り出し。


紅蓮の牢獄を破断した。


行き場を失った奥義の残滓とでも言うべき紫電が中空を駆る。

九度の爆発、無数の刺突、灼熱の牢獄。

そんな異常と超常の中に於いてなお。

黒騎士は、倒れない――――!


「バ――――――」

ソルが驚愕する。

剣一閃。

黒騎士の剣は既に見ることすら叶わない。

その黒い斬撃は、空間を巻き込みながら一度に三方向に放たれる。

青年は身体で捌き、アルジュナは槍で受け、ソルは拳で弾く。

が。


「なッ!」

「む!」

「ッ――!」


青年の長髪が斬り飛ばされ、頬に鮮血が散った。

アルジュナの右手の甲冑が崩される。

ソルの拳から肘までが切り裂かれる。

信じられないことが起こっていた。

英雄三人がかりですら相手にならない。

もう強さそのものが逸脱し過ぎている。

こんな――――こんなモノが英雄の筈がない。

「く、ォアァァァァァァッッ――!!」

ソルが地を蹴った。

裂かれた右腕は血塗れだ。

左腕にも幾筋もの血が流れている。

それは特攻だ。

己を顧みない、捨て身の特攻。

「『常勝(ソル・)太陽(インウィクトゥス)』――――!」

ソルの全身が発火する。

燃え盛る太陽(ソル)へ、黒騎士は右手(つるぎ)を振りかぶる。

「行け太陽。私達が動きを封じる」

「勘違いすんなよ!今すぐお前を見棄てたっていいんだからな!」

アルジュナが右手に抱き着くように黒騎士に密着する。

青年が左腕に矢を放ち、鎧に覆われていない部分に突き立った。

黒騎士は(いぶつ)を引き抜こうと左腕を動かした。

しかし絶妙な角度で突き刺さった矢には届かない。

「ウオォォアァァァァァァァァッ――――――!」

光源体と化したソルが駆る。

この隙を逃すすべはない。

この一瞬に命を燃やせ。

この一瞬に総てを掛けろ。

「行っけぇぇぇぇぇェェェェソルーーーーーッ!!!」

僕は絶叫した。



☆ ☆ ☆



自分が何者かなど、わかるはずがなかった。

自分を突き動かす衝動が何処からのものなのか知るよしもなかった。

気付いた時には此処にいて。

何がしたくて剣を振るのか。

思考には濃い霧が立ち込めている。

痛みなどない。

そもそも痛覚など存在していない。

忘れたくなかった思いすら忘れてしまった。

護りたかった誰かの顔すら忘れてしまった。

焦燥感とは違う。

悲壮感とも違う。

総ては虚無の中。

倒すべき誰か。

護るべき誰か。

望むべき何か。

何もかも無くしたこの世界で。

そんな虚無感だけが、

黒騎士の世界(しんじつ)だった。



☆ ☆ ☆



霞む視界の中でカズキの声がした。

ああ――――――こんなにも温かく身体を巡る声。

負けられないと改めて思った。

黒騎士(コレ)は異常過ぎる。

こんなモノに敵う筈がないと叫ぶ心を圧し殺した。

逃げ出せと泣き喚く心を放り捨てた。

死が首筋に絡み付く。

長い長い牙を生やした獣が首を喰らわんと狙っている。

だが、そんなものに気を割ける余裕などない。

身体が震えている。

昂っている。

眼前の黒騎士(きょうてき)を討てと己の中の誰かが叫ぶ。

思考は焼け尽き、在るのは闘争心のみ。

痛覚――――遮断。

聴覚――――遮断。

「ウオォォアァァァァァァァァッッ!」

右腕を引いた。


ナニカ――

ツブレタヨウナ――――

ソレガ――――――――

ドウシタ――――――――――


限界まで引かれた右腕を突き出す。

拳が前を向かない。

あらぬ方向に折れ曲がっている。

ならば焔で補強しろ。

意識が飛びかける。

血液が足りない。

ならば焔で補充しろ。

速度が遅い。

もう足が地を離れている。

ならば焔で補足しろ。

もとよりこの身体は――――――


太陽(しんわ)の具現――――――!


衝撃と共に右腕が砕け散る。

黒騎士の眉間に焔の拳が突き刺さる。

腰を回し、肩を回し、全体重をかけ、速度を加え。

ただただ前へ。

そして――――――


黒騎士がアルジュナもろとも吹き飛んだ。

地面ギリギリを滑空する。

その衝撃波に大気が哭いた。

土埃を巻き上げる。


あまりにも長い距離を飛び、多くの民家を大破させ、黒騎士は遂に地に伏した。


感覚が戻ってくる。

まず感じたのは熱。

続いて想像を絶する痛み。

「ッ――――――――!」

声にならない。

頭が痛みを痛みと認識するのを拒んでいる。

なんとか保っていた意識が白くなる。

身体が地面の感触を確かめるより早く、その腕に抱き留められる。

誰のものかは言うまでもない。

安堵に包まれ。

ソルの意識は、そこで途絶えた。



☆ ☆ ☆


アルジュナの身体は悲鳴をあげていた。

黒騎士もろとも吹き飛んだのだ。

どこの骨もやられていないことだけでも上等だった。

夏野涼太(クリエイター)の姿はない。

想像である己が思うことも憚られることではあるが、彼は戦闘には向いていない。

だからこそ、出会ってからの三日間は彼をつれ回したりはしていない。

だがそれ故に、彼は必ず帰らなければならなかった。

この世界で己だけが彼にとって希望になりうるものだからだ。

今回の目的は視察だった。

やみくもな戦いは自身を磨耗させるだけで、リスクが非常に高い。

限られた時間とはいえ、先ずは敵の観察が重要だと判断したためだ。

しかし。

黒騎士を眼にして観察など意味をなさないのだと悟った。

こちらの刃は通らない。

こちらの言葉は届かない。

そんな存在が黒騎士。

観察など無意味。

あれはこの世の理から外れている。

出会したが最期、どう足掻けど助かるまい。

だがそんな異常に立ち向かうモノがいた。

諦めを知らないモノがいた。

もしかしたらと思ったのだ。


そして今。

もしかしたらは、確かな事実(かたち)をなしていた。


地に伏した黒騎士。

右手(つるぎ)はところどころが欠け、罅割れ、なまくらと化している。

完全な勝利とは言えない。

被った損害が多すぎる。

遥か遠くでソルが倒れる。

青年もよろめきつつ、空を飛び消えていった。


アルジュナは痛みを遮断して立ち上がる。

ギシギシと身体が音を立てた。

息苦しさを懸命に堪えて待ち人へ向かう。

私は無事だと伝えるために。

その横顔は、微かに綻んでいた。



☆ ☆ ☆


ソルを背負った際に感じたのはその軽さ。

僕を護ってくれている存在の脆弱さ。

頼りきっていた。

護る――――――その言葉に甘えていた。

わからなくなってしまった。

この世界を書き変えた誰かを恨んだ。

こんな事に何の意味があると言うのか。

苦しみしか生まないこの世界の不条理に。

絶望の入り雑じった風に視界が揺らいだ。

足が重い。

気が重い。

半ば廃墟と化した町並みの中に二人。

いつの間に雲から顔を覗かせた太陽が、僕らを照らしていた。



☆ ☆ ☆



音の消えた廃墟の中心。

憎悪と苦痛、そして絶望の具現がいた。

黒い鉄仮面の奥。

瞳に理性のない黒い光を宿らせて。


「――――――――!」


黒騎士(ケモノ)は、月を仰いで咆哮した。




☆ ☆ ☆


・残騎数五

黒騎士 ソル アルジュナ 青年(????)


・脱落騎数二

ベオウルフ

Den Lille Havfrue


残日数四


終末の巫女顕れず

終笛(ギャラホルン)確認済


☆ ☆ ☆


The third day is end. And next fourth day.

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