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第七話 ホテル最上階のイレギュラー

 雨が降っていた。

 何処をどう歩いたかは、覚えていない。

 

 赤く点滅する信号をいくつも超えて、俺は情報端末が示す「ホテル」の場所へと歩いていった。こんな遅い時間にホテルが開いているはずはない。そんな常識が何度も俺の足を止めようとする。

 それを振り切って、俺は歩いた。電車やバスは信用できない。信じられるのは自分の足だけだった。

 

 雨に打たれて、俺はホテルの前にいた。煌びやかな彫刻が玄関を覆っている。ホテルの入り口は開いていた。そして、ホテルのフロントには、誰もいなかった。ロボットすら居なかった。

 俺は夢見心地で歩き、一階の奥のほうにあるエレベータの前に辿り着いた。

 

 上へ。とにかく上へ。しばらくして、チンと音を立てて到着するエレベータ。重量感のある扉が開き、俺はその中に滑り込む。行き先は最上階。何階なのかは知らない。誰がいるのかは知らない。ただ、この街の、この世界の一番上へと、俺は向かった。

 

 エレベータが開き、俺は最上階に出た。そこは一切の壁のない、フラットな、だだっぴろいフロアだった。

 黒人と白人の二人組が、その中央に居た。

 黒人は座り込み、カップラーメンのようなものから伸びたコントローラを操作している。白人はその傍らに立っていて、俺を見留めた。黒人も、俺に気付いたのか、ゆっくりと顔を上げる。

 全てはメタファだ。と俺は唐突に悟った。

 こいつらは黒人でも白人でもない。別の何かだ。全く別の概念だ。

 

「誰だコイツ」黒人のそんな声が響いた。

「イレギュラーだ」白人が囁く。

「自力で『昇って』きやがったのか」黒人が驚く。

「ダメだ記憶は消せない。そういうルールだ」白人が確認する。

 

 彼らは心底うざったそうに、俺を手招きした。そして眼前で自己紹介した。

 

「俺たちは二人組のGMゲームマスター。もっと簡単に言うなら、『神』だ」

 

 彼らは俺に、この部屋に通常のPCは入れない。なんでも願いを叶えてやるから今すぐ出て行けと言った。

 彼らの言葉は異国のそれのようで、素早いひそひそ声で何を喋りあっているのかは分からなかったが、とにかく俺が何か致命的な大失敗をやらかしたということだけは分かった。

 何が起きたかしらないが、俺はGMと会った。会ってしまったのだ。

 

「じゃあナナミを人間にしてくれ」と俺は願った。

 

 その台詞に、彼らは限りない軽蔑の視線を送った。GMは言う。

 

「いいか少年。よく覚えておけ。この街の全ては、しょせんゲームなんだ」

 

「それでもナナミはゴーストの格納容器じゃない。一人の人間なんだ」俺は言った。

 

「……愚かなお前に、少し考える時間を与えよう」GMは言った。

 

 もしもう一度「昇って」これたのなら、この世界の全てを自由にできる権利をやる、と。

 そこで俺の記憶は途切れた。

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