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第四話 ナナミの写真

 学校には「教室」という施設がある。誰かが座るはずだった大量の机と椅子が、「黒板」に向かって整列している。そこではかつて「授業」が行われていたと、ライトノベルには書いてあった。俺はVRMMO室ではなく、そっちのほうにナナミを連れて行く。

 

 当然のことだが、リアルのナナミに面と向かって「お前はNPCだ」などと言うわけにはいかない。そんなことは決して許されない。

 

 そのことを伏せつつ、俺は「黒板」に自分の情報端末を接続する。音もなく黒板の電源が入り、情報端末内の写真を読み込む。

 彼女は黒髪長髪のギルドマスターであるヨーコに率いられ、完全武装して戦い、ギルドに勝利をもたらす戦乙女ヴァルキリー。その剣が敵を打ち倒す写真を黒板に映し、俺は何枚もナナミに見せた。

 ナナミはVRMMO内で自分の活躍する写真を見せられ、興奮する。


「よかった。記憶が無いだけで、『私』はちゃんといたんだね……思ってたよりちょっと暴力的だけど」


 その言葉に、俺の胸がちくりと痛む。たとえヨーコに口止めされずとも、俺はゴースト実装実験のことを誰にも話すつもりはなかった。リアルのナナミが単なる実験の副産物だなんて信じられない。それに、そんなことを言えばナナミがひどく悲しむだろうことは容易に想像がついた。いや悲しむだけでは済まないかもしれない。最近芽生えたナナミの自我が崩壊してしまう可能性さえあった。

 

「ゲーム内の出来事、ちゃんと覚えていられたらいいのになあ」と本音をこぼすナナミ。

 それを見て、俺は一つの冴えたやりかたに気付いた。リアルのナナミの写真を、NPCのナナミに見せたらどうだろう。俺が媒介者となって、戦乙女ヴァルキリーナナミとリアルのナナミの意識を共有させられるかもしれない。

 

 NPCのナナミは自分の写真を受け取ってくれるだろうか。NPCとしてのプライドに触れて、怒ったりはしないだろうか。そんな杞憂は、微笑むナナミを見ていると、自然と頭の隅に追いやられていった。大丈夫。きっとうまくいく。

 

 俺は情報端末を取り出し、ナナミの写真を撮る。この数枚の写真が、何かを変えてくれると信じて。

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