1 出会い
新シリーズです。神に愛された者たちの話です。基本的に神はギリシャ神話的な存在です。直接干渉することは殆どありませんが、代行者は存在します。そのため超法規的な措置や不条理なことも起きます。
1 出会い
故郷の片田舎から自作クルーザーで一週間、ようやく大学のある星に着いた。さっそく換金のために銀行によることにした。
「お客様申し訳ありません。身分証明か住民登録書のようなものはお持ちですか?」
「何か問題が?」
「お客様の住民登録が確認できませんでした。一定額以上の引き落としには住民の登録か旅客ビザの提示が義務づけられております。また換金においても限度額を超えておりますので、これ以上はクレジットをご利用ください。
尚、当行では新規クレジット登録も行っております。この機会に新しく口座を開設してみてはいかがでしょう。」
「いえ、結構です。身分証明はこれでいいですか。」
差し出したのは未成年者就労許可証。
成人年齢に達しない者が経済活動を行う上で事前に習得を義務づけられている能力判定で、就労可能な職種、禁じられる業種が記されています。これがないと家族経営の商売はおろか内職すら出来ません。ただし、好成績を収めると第一線で大人以上の活躍が出来ます。下手な大人より信用度が高いので中には大企業に正社員で就職する人も居ます。
成人後には許可証明を提示する義務はないのですが、雇う側の方も本人の能力が分かりやすいので履歴書代わりにチェックするところも多いです。
「・・・失礼ですが、リカノ・カジュマリ様は就学でこちらの星へいらっしゃったのですか?」
「はい、ちなみに卒業後は実家の造船会社を継ぐから就職活動はしてないんだよ。」
やっぱり本気で残念そうにしてます。私のカードは特S、通常禁止項目(風俗や政治活動、宗教活動等)以外は禁止事項無し。
もちろん肉体労働や深夜業務等も有効、各種資格等も充実しているし。
小さい頃からとある事情で友達がいなくて資格を取ることに熱中していた時期があったので・・・あまり楽しい思い出でもないんだけど。
長すぎる前髪をまとめて掻き揚げ、解けて落ちた単分子繊維製のワイヤ-でまとめて縛り上げる。切れないのはいいけど直ぐに緩んで解けちゃうのよね。
改めて提出したクレジットカードが使えるかどうか調べてもらうことになり、一端休憩ブースまで下がろうと振り向いたところで、お腹に何かがあたる感触。・・・・なにが?
正面にいた金髪少女が尻餅をついた。典型的な古いファッション、ゴスロリと呼ばれる黒を基調にしたドレス。12,3歳くらいかな。
そんなことより、何時の間にここに?全然気が付かないなんて、この私が。
「だ、大丈夫?怪我は無い?どこか痛いところある?」
思わず差し伸べかけた手を止めて問いかける。
その少女は無表情でしばらく私を見ていました。吸い込まれるような深い瞳。ふっと視線を外すとのろのろと立ち上がり、ぶつかった時に落としたらしい紙製のデバイス、確かホンと呼ばれる情報を印刷された紙の束を拾い上げながら答えた。左の手首には不思議な光沢の布が巻かれています。まるで手首に巻かれた包帯のような・・・
「・・・ありがとう、ごめんなさい。」
とか細い声で呟くとカウンターの方に進んでいった。ぐっ!・・・
そのとき入り口より不穏な集団がなだれ込んできた。やっぱり来ちゃったか。
まあ集団で武器もって押しかけるところと言えばマフィアのオフィスか金融機関ぐらいだしね。
いきなり大口径のブラスターでカウンターの上部を破壊して防護シャッターを壊し、客や残りの行員も監視の下壁の一角にバリケードに仕切られた形で一塊にあつめられた。
唯一の隙間にはこれ見よがしに置かれた爆弾とおばしきキャリングケース。
詳しく調べないと分からないけど起爆装置の仕組み自体は簡単だけどダミーやサブも満載って感じ。
強盗達は貸金庫の辺りを壊しながら中身を物色しているようですね。
昔は窓口に取り付いて現金を狙うこともあったそうですが今は現金なんて使いどころが無いので見向きもしません。まだ金庫の美術品や高額の装飾品、有価証券が狙い所でしょう。
たまたまカウンター近くに居て囲いの外にいたため私とさっきの女の子は一緒に括られてカウンターの近くに座らされています。
・・・彼女の落ち着き払った様子は何でしょう?恐怖も緊張も感じていません。
まるで次になにが起きるか分かってるよう、あるいは何が起きても対応できると確信して居るのかしら、私のように。
そろそろ警官隊が行動を起こしてるはずだけどここからは様子が分かりません。普通なら。
まああの爆弾は何とか処理しておきたいけど・・・
見た感じかなりの高威力のナパーム型爆弾の構造ですが威力が高すぎますね。
これ一つでこのビルは溶け落ちます。
半径100mの溶岩湖が出来ます。周囲1kmの生物は焼死するでしょう。さらに同じのが三個あります。
すでに避難は始まってますね。かすかに悲鳴や足音が響いています。
犯人グループの特定もほぼ済んでいるでしょうが、国外に逃げるつもりなら気にしては居ないでしょう。
こんな所で爆発するとこの国の今年の歳入並の損害が出ます。あらゆる意味で大損害です。
政府としては一端星域外まで出たところで船ごと始末する気かもしれません。
どうも不思議なのはどう頑張っても採算が合うとは思えない点です。爆弾一つでも、普通貸金庫にある貴金属だけではまかなえません。
もしかするとテロが目的で強盗はついでなのかもしれません。
それならば起爆装置の構造もうなずけます。発信器があれば離れたところからでも起爆できます。
場合によってはここに居る人たちも捨て駒かもしれません。
いつ爆発するか分かりません。
もしかしてこの事件の勇者は私なのでしょうかそれとも・・・・
私の体術の師匠によると、神様は出来るだけ人のすることは人に解決させるようにしているそうです。
そのときに犯罪や社会に悪影響を与える可能性を持つ者を止めるのが勇者の役目で、そのときに相応しい人が自然に担ってしまいます。
しかし、勇者の力が足らなかったり事前に処分されていた時は特別な人が対応します。
大昔のテラで使われた演劇の手法の名前を取って”機械仕掛けの神様”と呼ばれる手段。
神や常識を超越した者たちによる力業。
確かに規模から言えば私が手を出したとしても問題は無いと思います。それに勇者は黒幕の方に行っているのかもしれないし・・・
「・・・起爆装置は押さえています。存分に・・・・」
迷っている私の背後から、ぼそぼそとか細い声が掛けられた。振り向くと紫の瞳が私を見つめていた。無表情なのに何かを期待するような・・・
決めた!この人達を掃除しよう。微笑みつつうなずく。
同時に二人を繋いでいた手錠と単分子繊維を織り込んだ強化ロープが音も無く切れて床に落ちる。切り口は切断した痕跡もありません。
本気でこの子も不思議生物なんだと実感する。
爆弾自体を完全に解体して強盗犯を全て伸した時にはすでに彼女は消えていました。
リカノは痛みを知ってはいますが直接感じたことはありません。
ナパームの爆発にも耐え、あらゆる物理攻撃にも耐えられる体を持っています。
地元では最も神に近い体を持つ者として怖れられていました。生まれた時から・・・