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霊剣歴程  作者: kadochika
第11話:白耳、ときめく
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8.白耳と、赤心と

 天船アムノトリフォンの内部、今や事態は発展的に解消したと言っていい。

 戦術長は彼の主君がめでたく腰を落ち着けることとなったこの記念すべき日に、酒宴を開くべきだと考えていた。そこで宴の準備をさせたい新人を探しているのだが、彼の姿が船内のどこにも見当たらない。


「カレッフォアはどこだ?」


 カモメの使い魔に居場所を尋ねるが、彼は首を振った。

 戦闘が収まった今、むやみに使い魔を放つのは移民請負社(ハダル)を無為に刺激することになる。


「何処に行ったんだあいつは……」


 その後、その船団の新参者は一人、完全に消息を絶った。






 事態で生じた損害などの把握に費やしたのが半日、その時に、グリゼルダの協力を得て、黄金の旋風と赤い雨の連携作用によって、フェーアの手首の毒を解除できないかどうかを試した。

 微妙な関係にあった三人の意識を再び共有することになってしまうのは人間関係の破局の可能性もあったが、無理をしてマトリモニオとやらに向かう必要が無くなる可能性があることを考えれば、絶対にやっておくべきことだ。

 だが、結果は失敗に終わった。赤い雨の作用で因果を抽出して分かったのは、即席で生成されたにもかかわらず強固な魔具のような性質を持たされていること、そして腕を切り落としたところで他に転移するよう仕組まれているということだけだった。

 必然的に、互いの感情も共有し合った。

 グリゼルダは不機嫌になり、フェーアは更に気落ちするという散々な結果に終わり、グリュクは当初、頼まれた妖族たちの治療に対してあまり身を入れることが出来なかった。

 そして、復旧が始まってから更に半日。

 セオ・ヴェゲナ・ルフレートとトラティンシカ・ベリス・ペレニスの襲来から、丸一日以上経った夕刻。

 二度に渡る移民事業防衛に少なからず尽力をしたとして、二人の霊剣使いと妖族の娘一人、そして魔女だか妖族だかよくわからない青年一人。彼らのために、歓送会が開催されていた。

 広場に設えられた簡単な会場と、そこに集まった妖族の移民たち。

 右手に持つ電気拡声器で拡大されたレヴリスの挨拶が、朗々と響く。


「こうして皆さんの新天地への旅路を妨害者から守り抜き、目的地までもあと半月を残すのみとなりました。彼らはその旅の途中で、たまたま進行方向が一致したに過ぎませんが……我々の事業を助けてくれた彼らを、暖かく送り出しましょう」


 電気拡声器や発電機など、移民請負者(ハダル)の設備は魔女国家のものらしき製品も多かった。彼自身は魔女なので、ベルゲ連邦を始めとした魔女の国々との繋がりもあるのだろう。

 彼は挨拶を終えると、左手に持っていたグラスを掲げた。


「それでは……乾杯!」

「乾杯!!」


 集まった妖族たちから歓声が上がる。宴ということも大きいだろうが、グリュクは何より、レヴリスが自分たちの戦いを肯定し、こうした催しで労ってくれるという事実が嬉しかった。


「ありがとう! 君たちの好意は忘れないよ!」

「一時は駄目かと思ったが、実は俺も前々から魔女との同盟はありだと思ってたんだ」

「社長も凄い隠し球を持ってたもんだ」

「社員じゃないっていうなら、俺達の作る新しい街で暮らさないか?」


 一時は囲まれ、嬉しくも苦しい質問攻めを受けた。

 賞賛されるために手を貸した訳ではないという自負はあったが、やはり、具体的な形を伴ってこれほどの大勢に感謝されるというのは、やりがいを感じるものだ。

 怪我などで動けない移民請負者(ハダル)の社員、その看護などの手放すことの出来ない重要な仕事に就いている者達以外は、移動都市(ヴィルベルティーレ)のほぼ全ての移民・乗組員。

 その数百名が一同に介して収まりきるほどの広場に多くの卓が配され、そこには食事を載せた大量の皿が所狭しと並べられた。

 酒も振る舞われ、立て続けに訪れた苦難を退けたこの日ばかりはと、移民たちもそれを楽しんだ。

 移民追撃隊(ファンゲン)に追われていた時はそれどころではなかったし、グリュクたちの助成を得てそれを乗り越えてなお、セオにトラティンシカという想定外にも程がある珍客の来訪を受け、心の休まる暇は殆ど無かった筈だ。

 その旅も、既に終着が近いらしい。


「なぁなぁ、変身するんだろ! 見せてくれよ」

「俺は見世物じゃねえ! 途中参加なんだからもうちょっと放っとけ!」


 輪から離れて妖族の酒を飲んでいた――体が勝手にアルコールを分解してしまうそうで酔えないと言っていたが、それならそれで飲みまくってやるとも言っていた――所に子供たちに群がられたらしく、カイツが苛立ちながら逃げ回っていた。走る訳にもいかないのだろう、今ではすっかり囲まれて身動きが取れなくなっていたが。


「戦う時だけだ! あっち行ってろ!」

「えー……見たーい」

「あたしもー」

「僕も―」


 妖族も、二十歳程度までは純粋人や魔女の子と同様の成長が続く。カイツを囲んでいる子供たちの年齢は、見たままの幼さだと思っていい。

 周囲に集まった彼らの好奇心溢れる視線に耐え切れなくなったか、カイツは意を決したように顔を上げると、グラスを置いてよく分からないポーズを取って叫んだ。


「……変身!」

「おおおおおお!!」

「すげーっ!!」

(まんざらでもないみたいだね……)


 優しく響く爆音と共に白い魔人へと変身したカイツは、何やらせがむ一人を目線の合う高さまで担ぎ上げて握手などしてやっていた。裁きの名を持つ霊剣(レグフレッジ)の評するように、悪い気はしないらしい。


「いっそここで働いた方がいいんじゃないの、彼」

「結構天職かも知れないね……」


 純粋人でも、魔女でも妖族でもない存在になってしまった彼だが、妖族たちはあまり気にしないのだろう。グリュクも気にしていないつもりではあったが、何といっても彼らが旅路の成否を預けているレヴリス・アルジャンが、呼び声一つで銀色の全身鎧を召喚して全自動で着用するような男なのだ。問題なく受け入れられるであろうことは間違いない。


「楽しんでくれているようだね彼は」

「二人ともお疲れ様です」


 シロガネを連れたレヴリスだ。


「グリゼルダさん、あの時はありがとうございました」

「どういたしまして」


 シロガネと何かあったのか、彼女の礼にグリゼルダが苦笑する。


「そういえばあのへらへらしたセオの秘書? 終結宣言の時もいなかったね……文句の一つも言ってやろうと思ったのに」

「あの人にだって自分の仕事があったんでしょうし……」

「まぁ、今更いいけどさ」


 黄金の旋風によってセオとトラティンシカとの仲が取り持たれてから、セオの天船はトラティンシカの天船からの燃料補給で十分な飛行能力を取り戻し、不時着場所から移動された。

 大小二種――といっても、小に当たるセオの船でさえ数百メートルの前後長がある――の天船は、今は移動都市(ヴィルベルティーレ)からやや離れ、併走するようにゆくりと飛行している。レヴリスとセオが連名で戦闘の終結を宣言したため、それに強く異議を挟む者は居なかった。


「大叔父上とペレニス卿は、残骸の撤去と移動都市(ヴィルベルティーレ)の破損箇所を復旧させ次第、引き上げるそうだ」


 連戦で、移動都市上の設備や地形なども、少なからぬ被害を受けていた。妖魔領域で狂王を覗く第十三位であるセオと、宝物庫の調査事業などというそれなりの高位にありそうなトラティンシカが責任を負ってくれるというのだから、期間中の不便はあれど問題はあるまい。

 戦闘による死者も、奇跡的に出ていない。元の発端が痴話げんかじみた馬鹿馬鹿しいことなのだから、そうあるべきだとも思えるが。


「何だか、疲れましたね」

「先日の疲れも抜け切らないうちに今回の一件だ、仕方ないさ。ゆっくりと休んで、明日以降の自分たちの旅の備えてくれ」

「ええ。そうさせてもらいます」

「私も、明日には妻が仕事から帰ってくるんだ。忙しくはあるが、合間を縫って家族サービスをしなくてはね」

「そ、そうなんですか……!」


 何となく離別するなどして後妻を探しているものだと思い込んでいたグリュクは、小さな歓喜が胸中で弾けるのを感じた。昨日の悪夢が現実化する危険が減ったのだ。

 一行の人間関係はぎくしゃくとしたままだが。


「それじゃあ、楽しんでいってくれ」


 そういうと、彼は愛娘を伴って歩き去っていった。


「ありがとうございます!」

(全くこの主は……)


 意思の名を持つ霊剣(ミルフィストラッセ)が鞘の中で呆れたように呟くと、グリュクはそれで、背後から放射されている少女の怨念に気づいた。


「…………この際だから言葉で聞くけどさ」

「……うん」


 戦闘が起きれば即応するつもりでいるグリュクたちは、酒ではなく水や茶に果汁を飲んでいた。

 少なくとも、彼女の言葉は酒に借りた勢いではないということだ。


「フェーアのこと好きなんでしょ」

「…………好きだ、ごめん」


 核心を突かれて、しかし沈黙したり嘘をつく訳にもいかず、白状する。当のフェーアとは、気まずすぎてほとんどまともに顔を合わせていない。

 言葉にすること無く、互いが互いをどう思っているかが完全に知れてしまった状態なのだ。


「何謝ってんのよ、バカ」


 彼女がそっぽを向くと、グリュクは居たたまれない気持ちで杯をあおった。これが酒で、飲んで即座に酔いつぶれてしまえれば楽なのだろうか?


「グリュクさん!」


 背後から聞こえたその明るい声に一瞬身体が竦むが、彼は何とか振り向き、喉を絞った。


「ど、どうも、フェーアさん……」

「ちょっと、お話が。ごめんなさい、お邪魔かも知れませんけど……」


 一日ぶりにまともに顔を合わせる白耳の妖女は、戦いに臨むかのような真面目な表情で要請してきた。


「邪魔だなんてことは、ない、ですけど……」

「……行ってきなよ」


 こちらは非常に不機嫌そうな、グリゼルダの提案。

 フェーアは神妙な表情を強め、そんな彼女に告げた。


「ごめんなさい、グリゼルダさん。グリュクさんのこと、ちょっとお借りします」


 どうやら、彼だけに用があるらしい。高まる動悸に、グリュクは先程までの動揺も忘れていた。


「…………好きにすればいいじゃん」

「(グリゼルダ……)」

「グリュクさん、それじゃあ、ちょっとこっちに」


 彼の腰に帯びた鞘に収まった意思の名を持つ霊剣(ミルフィストラッセ)が一言の茶々も入れないのが気にはなったが、ともかく呼ばれている。

 少女に対する申し訳なさを引きずりながらも、彼はフェーアの誘いに従って、その後について行った。






 歓送会の会場からさほど離れていない、小高くなった夜の丘。

 移動都市(ヴィルベルティーレ)にまだまだ多く存在する未開発区域の一つだ。

 背の高い樹は生えておらず、まばらに群れ合う低木の他は背の低い草ばかり。

 そこに冷えた風が吹き抜けて、草木がざわざわと鳴いた。

 グリュクの心も、ざわめいていた。

 彼をここに連れてきた妖女が、足を止めて彼へと向き直った。

 その白い産毛に覆われた、大きな木の葉のような形状の耳を一度上下させて、彼女がこちらに告げる。


「聞きたいことがあります」

「……何でしょう」


 おずおずと尋ねると、彼女は意を決したのか、やや大きい声で言葉を発した。


「わ、私への気持ち……本当なんですか……?」

「そ……それは……」


 こちらだけでなく彼女も緊張しているのか、言葉が時として上ずる。このような時、霊剣使いとして便利なのは、過去の膨大な経験――もちろんそこには色恋沙汰も含まれている――にもとづいて行動できるということだ。それで何度も、命を救われてきた。

 だが、何故か今この場では、彼女に対する適切な答えが出てこない。

 意思の名を持つ霊剣(ミルフィストラッセ)にどうなっているのか訊くという手も浮かびはしたが、意中の相手に問われている最中に剣に、他者に助けを求めることなど情けなく――有り体に言えばみっともなさ過ぎて、出来ることではない。

 言葉に詰まる彼に痺れを切らせたか、彼女は続けた。


「私、あの粒子で……グリュクさんの気持ちに初めてはっきりと気づきました。それまでももしかしたらって、思わなくはなかったんですけど……グリゼルダさんもいましたし……」


 まさか自分から尋ねようとするほどの積極性があるとは思っておらず、グリュクは少々、たじろいでいた。


「で、でも……やっぱりそういうことは、グリュクさんの声で、直接聞きたいんです。ミルフィストラッセさんには悪いですけど、あんな方法で分かってしまって、何も言わずにそれだけなんて……嫌です」


 魔法術も、妖術も、意思を載せた声を媒体とする。どこまで緻密で重厚に構築しようと、声を出さなければ発動しない。

 物理的なエネルギーを伴わないただの意思であっても、それは同じだ。


「あ……そ、その……!」


 言外に意思を伝える方法もあるだろうが、やはり、声に出さなければ伝わらないものがある。

 自分が声に出してそれを伝えたいのだ、という意思は、喉を通さなければ伝わらない。

 霊剣使いは相棒の助けのない状況で何とか勇気を振り絞り、純粋な相手への好意を伝えようとした。

 それを届ける言葉は、呪文と言ってもいいかも知れない。


「俺、フェーアさんのことが好きです! 俺の、嫁になってください!!」

「よ……!?」


 突然強い夜風が吹き、妖女の白い大きな耳が大きく動いた。

 言ってしまったという、よくも悪くも取り返しのつかない事実。彼女の返事を聞くまでは、動悸が収まりそうにない。


「よ、よ、よめ!?」

「その、突き詰めればそういうことなんで……この際そこまで言うべきだと」


 彼女の反応は、あからさまな嫌悪や戸惑いでないだけ、グリュクを安堵させた。

 だが、ここまで言ってしまっては、逆に言い足りない。


「その、俺……まだ碌に定職にもついてませんし、嫁に来てもらっても苦労をかけるかも知れません。でも、あなたの手首の毒は、絶対に解決してみせます! ドロメナで助けてから……困ってるフェーアさんの力になりたいと思って、いつの間にか、好きでした! これからも、ずっと! あなたの傍にいたい! 俺は――」

「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください!!? それ以上はちょっとっ!?」


 勢いづき過ぎていた熱意も、彼女の悲鳴である程度の冷静さを取り戻した。フェーアはばたばたと両手を振り乱し、顔は羞恥に赤く染まっている。真顔で恥ずかしい告白を連ねる彼を止めなければ、あるいは勢い余って襲われると危惧したのかも知れない。

 彼も、猛省しつつ今度は全身が自己嫌悪で凍りついた。

 彼女が訊ねたのをいいことに、霊剣が黙っているのをいいことに、喋りたいだけを叩きつけてしまった。

 しかし、フェーアはそんな彼を詰ることもせず、


「嬉しいです、その気持ち。でも、その……」


 でも。逆接(ぎゃくせつ)から始まった台詞に、グリュクはまたも肝を冷やした。


「自分から訊いておいてなんですけど……ありがとうございます。でも、返事はちょっと、待ってもらえますか……?」

「え、えぇ」

「その、いきなりお嫁にとまで言われちゃうと……あと十七日したら、生きてるかどうかも分かりませんし……」

「あ……」


 目元に浮かんできた涙を拭う彼女に駆け寄って、その両肩を掴んで励ましたい衝動。それを必死に抑え、グリュクはゆっくりと歩み寄った。


「俺の魔法術でその手首の毒を消せないのは、本当にすみません……言い訳にしかなりませんけど」

「……悪いのは、タルタス殿下です。グリュクさんがあの人をやっつけてくれたらいいんです、きっと」


 やっつけるなどというその表現も、強がりに近いものなのだろう。だが、自分と霊剣の力ではどうにも出来ず、あの妖王子の言われるままに動かなければならない事実が歯がゆかった

 恐らく、施術した自分でも解除できないといったのは本当で、そうでなければ、()()()()()解除できないなどと言ったはずだ。


「もしタルタス殿下の言ったことが嘘で……私が死んだとしても……グリュクさんは、出来ればあまり気に病まないでくださいね」


 彼女は苦笑して、そう言った。


「そんなこと――」

「感謝してるんです、大叔母さまの怨念に体を奪われてた私を助けてくれたこと、私を守ってここまで来てくれたこと。外の世界は、こんなに広かったんだなって」


 割りこませるべき言葉を見つけられずにいるグリュクを慰めるように、彼女はなおも続ける。彼の横に回り込むようにゆっくりと、一歩一歩を踏み出して行く。


「だから……もし上手く行かなくても、私が恨むのは、グリュクさんたちじゃありません。遺言があるとしたら、今の言葉が私のそれです」

「遺言だなんて、そんなのは……」

「私だって、このまま死にたいわけじゃないんですよ? 生きて、もっと、広い世界を見たい」


 足を止めた彼女がこちらを振り向くと、再び強い夜風が吹いた。

 肌寒さに身震いするフェーアに、グリュクは思わず手を伸ばす。妖女は体調を案じてグリュクが伸ばした手に軽く触れて、はにかんだ。


「出来れば、あなたと」


 そこまで聞いて、彼の手は触れた温もりを掴み、そのまま引き寄せ、気づいた時にはその体を抱きしめてしまっていた。最低の衝動に抗えなかった己を恥じるが、もう遅い。

 しかし、一瞬固く強張った白い耳がぱたりと倒れ、彼に体重を預けるように、その体が脱力した。拒絶されないのをいいことに、その背を抱きしめる腕に更に力が籠もってしまう。

 彼女の全身の重みと、亜麻色の髪の感触がどこまでも温かかった。











 マトリモニオ。四方をなだらかな丘に囲まれた、妖魔領域(ヴェゲナ・ルフレート)有数の歴史を持つ風光明媚な都市だった。この地を巡る争いの歴史も今は昔、血の気の多い妖族たちが彼らなりの平和を保ち、そこでそれぞれの生活を営んでいる。

 その最も小高く市街を一望できる丘の上に、大きな館が建っていた。

 そして窓を全て開け放ち、風通しの良くなった執務室には二人の男。

 荒々しくも優しげな金髪の偉丈夫と、眼光鋭くも落ち着いた物腰の黒髪の青年。

 そこに鷲の使い魔が、一陣の風とともにやって来て青年の腕へと停まった。

 右腕には群青色の篭手をつけており、鷹の鋭い爪で怪我をしたり、礼服の袖が破かれるのを防いでいる。


「報告いたします、殿下」

「うむ。兄上もお聞きください」


 眼鏡を掛けた、温厚そうな黒髪の青年だ。彼はそのまま、兄と呼んだ金髪の偉丈夫へと鷲の使い魔を見せ、語らせた。


「明日には到着いたします。フォレル殿下に於かれましては、宿願の成就をお慶び申し上げます」

「そうか……着くか!」


 野性味を強調する短く伸ばした顎鬚を撫でながら、齢千五百年を超えてなお若々しい狂王位継承第三権者、フォレル・ヴェゲナ・ルフレートはそう微笑んだ。






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