4.イグニッサと爆弾王女
一瞬にも近しい速度で通り過ぎる眼前の岸壁を眺めつつ、グリュクは飛んでいた。
天から降り注ぐ魔力の線が、彼らの細胞に潜む微小な器官によって捉えられ、神経を介して別の力となって発現する。それが魔法術、あるいは妖術なる力というものだった。
体に働く重力が反転し、彼らは天へと落ちている。そして、岩山の平たくなった山頂部分と同じ高さまで到達すると、僅かに前方へと移動して術を解除し、着地した。
同行者たちの無事を確かめ――特に裾の長い服装のフェーアの着地が気がかりだった――、自分たちが特に支障もなくヴィルベルティーレという町に降り立ったことを知る。
背後を振り向けば山吹に燃えるなだらかな山地が美しく、青空と織りなす対照構図には霊剣でさえも、つまり七百年の間各地を旅した一振りが、グリュクの視覚を通して感嘆しているのが分かった。緑を受け入れない妖魔の生態系だが、不思議と心は安らいだ。
そしてそのまま鎧の魔女に案内されて黄色い道筋を辿ると、一分と経たずに不意に視界が開ける。
「うわあ……」
そこには確かに、町があった。石造りや煉瓦造りの多い質実な町並みだが、グリュクの見慣れたそれより色がやや黒ずんで見えるのは使用している石材の違いに由来するのか。建築様式も、もはや妖魔領域に随分と入り込んだということか、奇異に写った。
「ヴィルベルティーレへようこそ、旅の若人たち」
屈強な魔女は、いったんこちらを向いてそう表明すると再び歩きだす。グリュクと同程度の身長で歩幅もかなり大きい筈だが、女たちを気遣ってか、速度はさほどでもない。
「ここには我が家もある。そこに着くまで、事情の残りも説明しようかな」
グリュクも着いてゆこうとすると、後ろから軽く袖を引かれた。後ろを振り向き視線を下げれば、そこにはグリゼルダがいる。彼女自身の事情もあるとはいえ、こうして彼の個人的な行いに協力し、恐らくは好意さえ寄せてくれているこの少女について、自分は何を知っているのだろうか。そう自問してしまうような、真剣な眼差しだった。
「さっきのことだけど……あたしは相棒とやらなきゃいけないことがあるの」
それが何なのかを話してほしいというのが本音だが、どうもこの少女には、余程こちらに知られたくない事情があるらしい。同じ霊剣の主としてもっと信頼して欲しくはあったが、そうした信頼に応えられるかどうかという不安もあり、胸の内を口に出すことは出来なかった。
やや速度を落としつつも、霊剣の主たち二人が、少し後ろに離れて歩く。まるで後ろ暗い共通の秘密でも確かめ合っているかのようなそうした会話を、白い産毛に覆われた木の葉のような形状の耳が好奇心で聞き取ろうとしているのには気づかずに。
「そのためには悪いけど、霊剣たちが主をあたしかあなたのどちらかに絞りたいって言うなら……譲る訳にはいかない」
「……グリゼルダ」
「……ごめん、ちょっと……気が立ってるみたい。都合が良すぎるかも知れないけど、きっと話すから」
恥じ入るように目を伏せる少女が歩みを止めずに言葉を続けるのは、せめてもの弁解か。グリゼルダの本来は優しく、嘘や誤魔化しを嫌う性質を垣間見た気もして、グリュクは命の恩人でもある彼女の頼みを聞き入れることにした。
旅の安全に寄与してくれる彼女の機嫌を損ねたくないという下衆な打算も、無いとは言えなかったが。
「分かった」
「ありがとう……」
小さく一言呟くと、少女は足早に先行し、四人の中ではグリュクが最後尾となる。既に町並みは目と鼻の先となっており、何人かの妖族が先頭を歩くレヴリスに気づき、そこへ走り寄って何かを訴えているのが見えた。
黄色の木の葉や枝で偽装を施し木々の間に張った幕の下で、イグニッサ・フェルブレヌングは溜息をこらえた。吐いた体積と同じ分だけ、二酸化炭素とは異なる何かが体内から逃げてゆくという確信があるからだ。
移民たちとハダルの連中はいい。風が吹こうと雨が降ろうと、あのような家がある。
彼女たち追撃隊にはそのような設備など当然無く、ただ行く先々で街があればある程度、後援者である反移民の権力者たちの伝手で、ある程度の自由や融通が利くという程度だ。そうしたものが無ければ野宿か強行軍となるのは必然だった。
レヴリス・アルジャン。
いくつもの移民活動を潰してきた有力な兵団が、彼の指揮する寡兵と素人の集まりに撃退され続けている。その現状に少々苛立ちつつ、今回の攻撃では何とか妖術で全身を強化し、兵団の戦士たちを連れ帰ることは出来た。だが、任務の成果は出ていない。今回の移民団は率直に言って、強敵だった。こちらの工作で彼らが動けなくなった今が攻撃のチャンスでもあったが、だからといって容易くそれをさせないのが彼の手腕の証左ということか。
別の天幕の下では、ファンゲンの医師が、彼女や無事だった仲間の担ぎ込んだ者たちの容態を診ている。死者こそ無いものの、戦闘で重篤な障害を負った者が二人。現在までの襲撃で任務当初からの脱落者は二十人、ファンゲンの戦闘員はイグニッサを含めても五十五人にまで減ってしまっていた。
加えて――これは個人的な事情だが――、あの少女。八年前になるか、彼女が誤って皆殺しにした一家の、その場に居合わせなかった末娘。他の三人は顔を見られたのでやむなく殺したが、部屋に飾ってあった四人の家族写真を見て、あれほど悔やんだことは無い。数時間前にその魔女の娘が、成長した姿で彼女に斬りかかって来たときの、この言い尽くしえぬ動揺。
自分が仇として追われる可能性などは覚悟していたつもりが、全く出来てなどいなかったのだ。それを、思い知ってしまった。
イグニッサは焦っていた。
「……?」
その心情を嘲笑うかのような、無神経な足音が聞こえてきた。いや、これはむしろ無音で来訪すまいとする気遣いか。
ともかく、隠す気の無い二人分の足音が、迷うことなくこちらへと向かってくる。一つはそれでも静かだが、もう一つは大きく、歩幅も短い。子供でなければよほど背が低いか、少なくとも団員ではない。
立ち上がって垂れ幕を背に警戒態勢を取ると、その足音はあっけなく立ち止まり、そっけなく宣言した。
「よう、邪魔するぞ」
敵意を感じられずに慎重に姿を現すと、彼女はそこに、少女と男の姿を認める。
表情には出さず、しかしイグニッサは激しく訝った。
「(……何なんだろ、こいつら)」
少女の活発そうな造作は、しかし人形のように美しく、白金のような髪を側頭上部で左右に結び下げ、その先端が華麗な螺旋を描きながらそれぞれ膝の下ほどの高さまで垂れ下がっている。このような傭兵団の簡易拠点にそぐわぬ衣服は純白のドレス、装飾は少ないながら、三メートル程度離れたイグニッサにもその布地の上等さが見て取れ、何故か表面には汚れの一つもない。
その後ろに控えている従者らしき男は物腰柔らかな長身、煙突のような帽子にあわせた妖族の礼服。後ろ髪はこちらも長いが、三つ編みにしているようだ。少女と併せて、迷い込んだように場違いだった。
だが。
「手前ら、ファンゲンだよな」
その声の響きは過去に喉を潰しかけたことでもあるのか少々濁りがあり、言葉遣いも彼女の知る荒くれたちと大差が無い。玉の化身のような見た目に反して、大きな瑕だ。
「俺はリーン、こっちがアーノルドだ。悪いようにはしねぇ、手前ェらの頭ンとこに案内しな」
「(リーン……!?)」
その名を聞いて、イグニッサは戦慄した。声が震えなかったかどうかの自信もないが、辛うじてまともな声が出せたのは救いか。良く知られた名だ。注意深く、訊ねる。
「あなたは……あのリーン殿下であそばしますか」
「ほーぅ、今時感心な傭兵どもだ。俺のことを知ってる若い連中もいるのかよ」
リーンと名乗った王女――狂王の一族は、その殆どがイグニッサの数倍、数十倍の年月を生きている筈だ――はその強く尊い生まれにあまり似合わない細い腕を組み、半眼で口の端を吊り上げる。
イグニッサはどちらかというと兵団においては客分に近い身の上なのだが、それは特に言わず、自分の知識を述べた。
「……父君である狂王陛下と……そのご子息方のお命を狙っていらっしゃると」
それを聞いてリーンが数歩前へ、イグニッサの方へと歩み出る。一瞬とはいえ胆力の無いものは気絶するか失禁するであろう凄絶な形相が垣間見えたが、彼女は平静を保って踏みとどまることが出来た。
「殿下とは呼ぶな。家の名もとっくに捨てた」
「……失礼を致しました」
「そういう堅ッ苦しいもいらねぇ。このアーノルドの野郎こそ俺を慕って来ちゃくれるが、往昔はともかく今の俺は一般妖族だ。次に君臣ごっこをやらかしやがったら半殺すぞ」
「……分かったよ、リーン」
「そーそー。それでいい」
内心冷や汗をかいたが、それで納得したのかリーンは再び腕を組み、目を伏せてこくこくと頷く。こちらには少々納得の行かない強制ではあったが、イグニッサは従った。無意味に逆らうのも不毛であったし、妖魔領域ではそこそこ名の知れた手練である彼女さえ、恐らく戦いとなればその途方も無い魔力には敵わないであろうから。
しかし、父親であり妖魔領域の現生神でもある狂王とその一族を抹殺すべく付け狙うなどという、この血迷った爆弾王女が、この兵団に何の用だろうか。世話になっている身であまり偉そうなことは言えないが、故郷で成功できずに別の土地へと逃げ去ろうとしているだけの弱い妖族たちの旅を、権力者の都合に従って失敗に追いやろうという、いわば汚れ仕事の最中でもある。まさか何かの支援をくれるという訳でもあるまい。
ただ、客分同然である彼女の判断でこの珍客を追い返していいのかと考えると、それはためらわれた。イグニッサは腹を括るような――実際にはそれほど大げさなことではなかった筈なのだが、そうした心境で、口を開く。
「団長の所だったね。一先ず案内しよう」
「おう。アーノルド!」
「はい、お嬢さま」
粗野な王女は従者の名を呼ぶと、その言葉遣いに似合わぬ淑女を思わせる所作で以って、イグニッサの後を付いてきた。
「(……従者がお嬢さまって呼ぶのはいいのか)」
その間柄にはどのような由来があるのか、興味が無いでもなかったが。彼女は内心で嘆息すると、幌の外に出て通りがかった兵団の者を呼び止め、団長の所在を確かめた。
兵団の信用に関わる局面で、面倒な客が来たものだ。
ヴィルベルティーレと呼ばれた小さな町の一角に、その小さな家はあった。
他の家屋同様に石材の組み合わせからなっており、内部には近代的な断熱材が使われている。夏は日射の熱を遮り、冬は寒気を防いでくれるのだろう。更にここまで町を歩くすがらに、排水溝などの設備が整っているのを見ていた。恐らく、この一帯は雨期のようなものがあるのだろう。
中心を通るさほど長くはない大路にはそこそこに賑わいもあり、開けた一角では腕の立ちそうな物腰の妖族が、若い――といっても、年齢は純粋人や魔女に比べてかなりの幅があるだろうが――同族の者を集めて修練らしきことをやっているのが見えた。レヴリスの部下か何かが移民者の有志を訓練しているのか、その練度は霊剣の主として見ても、決して素人同然ではない。訓練生たちが声を張り上げて妖術を試し撃ちする様には、妖族の兵団によって旅を妨害されていても、必ずや新天地に根を下ろしてやるのだという意志のようなものが充ちている気がした。
先ほどの攻撃から一時間ほど、移民たちは町の外に避難していたはずだが、彼らはそうした事態に打ち克つ逞しさを持った人々なのだろう。
少し離れた道沿いでは、そこに向かって妖族の若い娘たちが楽しげに声援を送っている。男であれば、そのような声に思わず力が入りすぎることもあるだろう。そう考えると何やら自分のことを戒められたようで、グリュクは僅かに、頬を掻きもした。
大人たちは道中か目的地に骨を埋め、駆け回る子供たちは新たな土地を故郷とする新たな世代となる。
そうした活気を窓の外から感じつつ、香ばしい香りが鼻を撫でる。調度も少なく落ち着いた雰囲気の木目調の室内で、グリュクたちは卓を囲んでいた。
移民請負人・レヴリスが湯気の立つポットを傾け、カップに茶を注いでいる。
「ソヴァという茶だ。香りは強いが、悪くないだろう」
「いい匂い……食欲が沸いてきますね」
目を閉じてその匂いを嗅ぐフェーアは、連られて耳まで動いている。
グリュクから右手に向かってグリゼルダ、家主であるレヴリス、そしてフェーアという順番で、それぞれの前にはカップに注がれた茶が湯気を立てている。茶は移民請負人自らが淹れてくれたもので、嗅いだことのない、独特の強く香ばしい匂いのものだ。レヴリスたちの前では未だに一声すらも発していない霊剣たちは、それぞれの主の傍らに立てかけられている。
茶を入れ終えてポットを置くと、レヴリスが口を開いた。
「まずは、移民事業のあらましから説明するべきかな。妖魔領域の広さはご存じだろう」
「ええ」
「しかし、狂王領を始め、主要な伯領や候領は北部に集中している。南方、特に赤道以南は広大なだけで、人口の少ない地域が比較的手つかずで残っているんだ。そうした南部の辺境伯などの要請もあって、希望者を募ってささやかな人口移動に貢献しているという訳だ。
だが、人口の流出を由としない一部の伯や候にはそれが面白くない。これが頻繁になれば税収の減少が起こるし、経済も縮小するというわけだな。彼らとしては、移民の許可は下ろしたくない。そこで、俺を始めとする移民請負人が、これは経済流出ではなく本領権益の拡張である、と銘打ったのが、この移民事業……まぁ、その大義名分を認めない北部の諸侯がファンゲンなんていう連中を雇って俺たちを攻撃するのも、理解は出来る」
妖魔領域にも税制はある。人口が減少することで単純に自領の力が衰えることを危惧する者、それがそのまま他の領地の経済力になってしまうことを嫌う者がいれば、逆に移民を誘致することで他領から人口を誘導して力を奪おうと考えるものもいるのだろう。そうした政治や経済の領分に属する問題に全くの無関心ではないが、少なくとも霊剣の主が積極的に関与していくべき問題ではないように、グリュクには思えた。
新天地を目指す旅の途上で攻撃を受ける移民者たちの力にはなりたいが、彼らにはレヴリスのような強力な魔女が味方におり、それよりは放置しておけば二十日後に毒死するであろうフェーアの助けになりたいというのが本音だ。
グリュクはそう内心で結論付けつつも、レヴリスの事情に口を挟むことはせずに聞き続けた。
「だが、俺は古い軛から逃れて新たな土地で頑張りたいという弱い妖族たちの願いを叶えてやりたい。出来る限り犠牲を減らすために、君たちの助力が欲しいんだ」
「……一度は割って入りましたし、そのあと助けて頂いたことも感謝しています。ただ――」
話の区切りと見て、グリュクは十日ほど前、ある事情でフェーアの手首に二十日後に発動する致死毒が打ち込まれていることを説明した。フェーアも包帯を解き、その左手首の禍々しい紋章を見せる。
「そいつは難儀だな。こんなかわいいお嬢さんに何て仕打ちを」
全くの同意見ではあったが、グリュクはレヴリスのような男がそう表現することに僅かに不快感を覚えた己を戒しめた。戒めつつ、補足する。
「……なので、出来ればその王子が指定した期限のうちに、マトリモニオに着きたいんです。あまり足止めを受けていては――」
そのまま続けようとした時、前触れも無く部屋がぐらぐらと揺れた。思わず腰が浮き、そのまま席を立つ。目に見えて調度が揺さぶられる規模の揺れだ。茶がこぼれる。
「ひ!? な、何ですかこれー!?」
「地震……?」
さすがに霊剣使いであるグリゼルダは落ち着いていたが、地震の体験は無いのかフェーアの方は滑稽なほどに狼狽して卓に掴まり、茶の入ったカップを庇っている。グリュクも、霊剣の記憶が無ければ体感温度が十度は下がっていたに違いない。レヴリスはと言えば、またかといった様子だ。地震が多い地域なのか。
揺れが収まり、フェーア以外の全員が茶の入ったカップを茶皿に戻すと――彼女だけは悲しげな表情で、レヴリスから渡されたハンカチを使ってこぼれた茶を拭いている――、レヴリスが口を開いた。
「すまない、まだ言っていなかったな。これは――」
「すみません、ヴィルベルティーレのトラブルです」
扉が開いて後ろから聞こえてきた声に振り向くと、そこには作業服姿の少女がいた。魔女だ。歳の程はグリゼルダより二、三歳下だろうか、しかしその雰囲気はかなり落ち着いている――グリゼルダに落ち着きがないという意味ではなく。油と何かの塗料のような原色の汚れを付着させつつ、作業の際に頭部を守るらしい硬質な樹脂の帽子を被り、生真面目そうな印象を受ける。帽子に無理やり収めた黒髪はうなじの部分でまとめてあり、埃にまみれている。何かの労働作業に従事していたのは明らかだ。
妖族の移民団にいる魔女ということは、レヴリスの関係者か。
「申し遅れました、シロガネ・アルジャン。そちらのレヴリス・アルジャンの娘です。ヴィルベルティーレの保守管理の見習いをしています。よろしくお願いします」
「娘さん……?」
レヴリスについては、このくらいの歳の娘がいても何らおかしくはない年齢だ。グリュクは目の前の屈強な魔女が人の親であることを意識し、義父や両親のことが頭をかすめた。フェーアやグリゼルダは、どうなのだろう。
ともかく、グリュクたちもレヴリスを除き、めいめいに少女に名乗った。
それが終わると少女は改まり、父親に非難の目を向ける。
「それにしても父さん、ヴィルベルティーレのことをお客さんに一つも言ってなかったの!」
レヴリスの表情が変わり、彼は困ったような顔をしつつも娘に向かって抗弁した。
「順を追って話さないと混乱させるだけだと思ったんだよ!」
「ホントはちょっと驚かせたいなーとか思ってたりしたんでしょ!?」
「それはその……それはそのだな!」
「そういう下手くそなサプライズ意識で万一お客さんに誤解されたらどうする気なのよ!?」
「二人とも! 喧嘩されてちゃ本気で分かりませんから!!」
「事情を説明してくれるんでしょ!?」
グリュクが父親を、グリゼルダが娘を抑えて何とか間に割って入ると、親子はどちらも気恥ずかしそうに互いから顔を背ける。先ほどまでのやり手の事業主といった風情が完全に崩壊してしまったレヴリスだが、これは彼らをある程度信頼してくれたからだと考えるべきだろうか。
「すみません……」
「すまない、見苦しいところをお見せした。シロガネ、この際だしお前の方が詳しいだろう。説明して差し上げなさい」
「えーと……もうお察しかも知れませんが……」
グリュクたち全員の注視を受けてやや緊張したか、少女が両手を後ろにやや背筋を伸ばして語った。
「実は私たちが立っているこの岩山、ヴィルベルティーレは巨大な擬似的生命体です。この床板の下の大地は、皆さんとこの町を乗せたまま、長距離を移動することが出来るんです」