表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
霊剣歴程  作者: kadochika
第04話:英雄、荒ぶ
24/145

5.応戦

 聖堂騎士団エギルレ基地は、騎士団領に数十箇所存在する聖堂騎士団の拠点の一つで、大体の他の拠点同様、一通りの基地施設に航空隊用の滑走路などを備えていた。本来ならば固定翼の航空機は空中騎士団の所属だが、陸上騎士団を元に領土を与えられるまでに成長し、その規模に見合う実績もある聖堂騎士団では、独自に航空戦力の保有が許されていた。

 これは有事には他の空中騎士団との確執を生む要因ともなりうるが、わざわざ他の騎士団に要請せずとも自前で航空作戦を遂行可能ということでもあり、正負どちらの側面もあるのであれば、それが許されるかどうかは実績に基づいてくるという一例でもあった。

 その基地の自動巨人格納庫の休憩所にあるベンチに腰を落とし、ナヅホ・オゼキは思索に耽っていた。既にウェンナハーメンでの異端鎮圧に出動してから丸一日、少々強行軍ではあったが今日の訓練にも参加する予定が、カリタスに似た謎の自動巨人に夜行列車の襲撃まで受けて散々に狂った。

 既に彼女の分隊を除いた予定部隊は全て訓練に出動し、五十キロメートルほど離れた山岳演習場で三日後の大規模演習に備えた模擬戦を行っている筈だ。

 “神授聖剣”の効力で魔女の模倣も可能な神剣騎士、つまり彼女のいとこのネスゲンのような神剣の他は身一つで戦う騎士が仮想の敵として魔女役を務め、自動巨人や戦車隊、航空部隊が共同でこれを模擬的に撃墜すべく戦う訓練であり、魔女と妖族を主敵とする王国や騎士団領における軍事訓練としてはごく一般的なことだった。稀に啓蒙者の部隊などが相手を務めることもあるが、多くは神剣騎士が、こうした仮想の標的として騎士団の練度向上を担っている。

 “原因不明の列車事故”に巻き込まれたこともあり、彼女は共に異端鎮圧に出向した巨人乗りのメンバー、そして彼女たちの補佐として派遣された神剣騎士であるネスゲンと共に基地での半日の待機休養が言い渡されていた。そうでもなければ、こうして没入した思考を行うのは就寝前くらいになっていただろうが。


「(あれは……確かにカリタスだった)」


 カリタスは、五十年ほど前に試験場を急襲した魔女部隊に対して試験装備で応戦、そのまま損傷を受けて搭乗者であるバタール・システィノヴォ上騎士を乗せたまま戦闘で行方不明になってしまったことで知られていた。ネスゲンは「水底で漁礁」などと言っていたが、当時現場は混乱していたらしく、水没したかどうかさえ確認されてはいないのだ。当時戦場となった渓谷は、今はダム湖の底に沈んでいる。

 神剣騎士の扱う“神授聖剣”と自動巨人の特性を併せ持ったような存在であり、現行の巨人と異なり搭乗者に“秘蹟”の行使を可能とする装置を搭載していたとも聞く。

 そして、彼女が聖堂騎士団に入団しそこから更に巨人乗りを志したのは、カリタスの搭乗者であったシスティノヴォの存在が大きかった。彼は当時既に高名な聖堂騎士であり、“神剣”を授けられる才能を持ちながらも当時の巨人に乗って大きな戦果を挙げた、現代にまで名を残すほどの英雄だった。彼女が過酷な訓練に耐えて最新鋭の巨人への操縦を許されるまでになったのは、時代を越えた彼への憧れがあったからこそといって良い。


「(あれがカリタスの、あの一号機だったとしたら……誰が乗っている?)」


 カリタスと同じコンセプトで作られた自動巨人は他に無く、以降も五十年に渡って登場していない。神授聖剣も改良を加えられ、無理に巨人を大型化して同様の機能を持たせるまでも無くなったこと、巨人はあくまで市街地などの狭隘な地形に於ける陸上での機動戦闘や他兵科の支援などを行うべきだと考えられたことなどが理由に挙がる。

 啓蒙者の技術支援が無くては大量生産の目処が立たなかったことが、当時盛んに自助自立を唱えていた王国の経済ドクトリンに合致しなかったという背景もあった。

 ただ、そういった過去はどうあれ、カリタスが、少なくともそれに酷似した自動巨人が、あの時出現したことは確かなのだ。あれは“秘蹟”に似た威力さえ、彼女たちに向かって行使して見せた。

 もしも英雄の最後の搭乗機を侮辱するような目的であの巨人の操縦が行われているのだとしたら、それを許してはならない。絶対に――


「なーに浸ってんだよ」

「熱っつ!!?」


 突然首筋に熱を覚えて、ナヅホは飛び上がった。首筋を押さえて振り仰ぐと、そこには中々縁の切れないいとこが立っていた。両手には蓋付きのマグカップがあり、恐らく熱く温めた茶などが入っている。迷わず声を荒げて抗議した。


「何すんのよ!?」

「待機解除だ、基地を挟んだ演習地の対蹠に例の未確認。とっくに空偵が出てるが、それらしき物体を目撃した俺たちにも出番をくれるとよ」

「ゴーシュとドロアは!?」

「先に格納庫に行った」

「了解、ありがと!!」


 ネスゲンに礼を言うと、ナヅホは先に行ったという分隊の部下たちを追って、格納庫へと走った。


「淹れたてなのに困ったな……」


 ネスゲンも、既に帯びていた神授聖剣の鞘を揺らしながら、マグカップを両手に彼女の後を追った。






 圧縮された大量の魔法物質が炸裂し、樹木を吹き飛ばして山肌を溶かし、大小の岩石を巻き上げてなお、物足りないかのごとく噴煙を立ち昇らせた。


『変換小体反応アリ……破壊!!』


 破壊を撒き散らすという表現が似合いそうな威力を秘めた魔法物質の炸裂弾が、雷に匹敵する電圧を周囲に発散する魔法物質の散弾が、ダム湖の沿岸に小さな戦場を生み出している。


「留まれッ!!」


 グリュクの手の先から発生した力場が大きく広がり、頭上を飛行する目標を追った。しかし即座に離脱され、今度の念動も不発に終わった。反撃とばかりに複数の炸裂魔弾が飛来して着弾、周囲の土砂や樹木を根こそぎ吹き飛ばした。

 障壁を最大硬度で展開してどうにか凌ぎきれるといった所の正に破壊的な威力の連続で、霊剣のアドバイス通りに土で耳栓をしていなかったら鼓膜が破れていただろう。吹き飛んだ土砂や植物のむせ返るような濃い匂いに、鼻も悲鳴を上げていた。

 土煙が立ち込める中、魔女の知覚を全開にして周囲と敵を探った。攻撃の傾向からして、恐らく相手も似たような知覚手段を持っているのだろうが――


「(さっきから一発も当たってないな……)」

(彼奴は今まで相手にした妖獣ほどの巨体は持たぬが、恐るべき飛行性能よ。念動力場すら看破するとは、新術を以ってしなければ対抗は難しかろう)

「(早くやってくれ……)」


 リンデルと共に山中を歩き、いよいよ国境を越える抜け道へと近づいたと言う時だった。夜行列車を襲ったものと同一と思われる、空を飛ぶ自動巨人に再び襲撃され、リンデルや抜け道に被害が及ばないように囮となって――というか、最初からグリュクだけを狙っていたが――ダム湖に向かって戦場を移し、十五分ほど戦闘を続けて今に至る。

 最初の攻撃を防いで以降、リンデルには正午までにグリュクが戻らなければ、諦めて連邦に帰るように言ってあった。あと三十分ほどだ。


(いざ……)


 霊剣の言葉と共に、最早慣れ親しみつつある感覚が体を走る。グリュクの身体に散在する無数の変換小体が空間を満たす魔力線からエネルギーを取り出し、霊剣の意志によって形を取った。それは見た所うっすらと光る魔法物質の球体で、グリュクの扱える幾つかの魔弾と相違は無いように思えた。

 だが、


(今だ、唱えよ!)

「喰らい付け!!」


 霊剣の次の思念でその光球は急激に加速し、周囲に伴った大気で土煙を吹き飛ばしながら上空の気配へと突撃していった。目標の飛行巨人は急速に移動して光球をかわすが、即座に光球がそれに追随し、破裂音を残して機体に炸裂した。噴煙などは出ず、左足の装甲に明確な損傷を与えたのが見て取れる。

 すぐに反撃の魔弾が殺到するが、今度は障壁を展開しつつ後ろに大きく下がってやり過ごした。


(主よ、今の要領……分かるか)

「ああ……!」


 霊剣の呼びかけに頷くと、その手本を再現すべく念じた。反応障壁よりもかなりイメージ難度が高く、霊剣の助言で魔弾を躱して集中を続けた。既にかなりの広範囲が破壊されており、恐らく付近にあるという聖堂騎士団の基地からでも視認出来るのではないかと思えた。

 ただ、聖堂騎士団が出てくれば、彼らがこの自動巨人に対して何らかの行動を起こす可能性は高い。その隙を突く余地は残されているかも知れない。

 魔法術の構築が完了すると、それを開放して呪文を唱えた。


「今一度……喰らい付けッ!!」


 霊剣の当てた追尾魔弾とでも呼ぶべき光球も、さほど劇的な効果をもたらした訳ではないようだったが、苦労しながら彼の手本よりも大きく生成してみた魔弾は動きにやや切れが無いながらも敵を直撃し、甲高い爆音と共に胸部を防御した左前腕の装甲と、そこに畳んで装備されていた大型のブレードを破壊した。


「いける、もう一撃――」

(いや、躱せ!)


 追尾魔弾を再び放とうと集中した時、霊剣の警告が聞こえ、突然の衝撃が全身を貫いた。後ろからやってくる急激な空気の流れと眼前に迫った金属の巨人の姿とで、回避運動を止めてこちらに突進してきた自動巨人が、両腕でグリュクを掴んで空中へと飛び上がり、そのまま握り潰そうとしているのだと理解するのに数秒を要した。

 全身でもがくが、胴体と肩から肘にかけてを強固に保持されてしまっており、首や手首と、宙に浮いた脚しか動かせなかった。既に森林は彼方、曖昧な目測ながら二百メートルは上昇しているのではないか。


『変換小体反応……破壊』

(主よ、何とか振りほどけ!)

「無理だ、潰されないように念動で対抗するので精一杯で……!」

(駆動装置を術で強化しているのか……先ほどの魔弾の雨といい、此奴、魔女が乗っているのか……? それにしては――)


 右手に握る霊剣が、驚きを交えて分析していた。確かに、ただ自動巨人に把持されただけなら念動の魔法術で苦も無く振り解ける筈ではある。

 巨人はそのまま腕の力を緩めることなく飛び続けると、不意に頭部を動かした。探照灯やセンサー機器が集まっているのだろうが、博覧館に展示してあったものに良く似ていた。

 その視線――そう呼んでも良さそうに思えた――の先を魔女の知覚で覗うと、何か高速で飛来する大きなエネルギーが感知できた。


(あれは――)


 グリュクも遠目にであれば、何度かその実物を見たことがあった。機首で轟音を上げつつ回転するプロペラと大気を孕む長大な一対の翼を備えた二つの影が、ダム湖上空を飛行する巨人に猛烈な速度で接近しつつある。距離にして恐らく数百メートルは離れているが、白地に赤のアクセントははっきりと見て取れた。


「聖堂騎士団の戦闘機か……!」

(どうやらこの巨人に交信を求めているらしいな……応答無しと見れば何か攻撃を仕掛けてくるやも知れぬ、警戒せよ!)

「こんな状態じゃ警戒したってどうにもならないだろ!?」


 霊剣の助言になっていない助言を非難すると、戦闘機はあっというまに彼らの居る地点を通り過ぎ、数百メートル、ともすれば数千メートルも離れて周囲を旋回する動きに入ったように思えた。高度はこちらより上方を保っているようだ。


(今時の飛行機は動きが早いな……音も大きい)

「前から思ってたんだけど、お前どれくらいあの祠で寝てたんだよ……」


 ダム湖北に展開した簡易の発令施設では、大戦機に酷似したという所属不明の自動巨人の動向を窺っており、様々な情報を収集していた。当時の書類と大まかなデータが一致した時点であれをカリタスと見なす雰囲気が強まっており、まずは情報を集めるべく、航空隊の偵察機を出動させて装置による観測を行わせた。

 それによって交戦相手がどうやら魔女であるらしいという情報が入るのと前後し、巨人部隊と歩兵科をそれぞれ少数動員――騎士団領において演習以外で大規模に部隊を動かすのは、敵国に意図しないメッセージを送ることともなる――、基地の近隣で戦闘を行う両所属不明勢力による領土及び領空侵犯を停止すべく、作戦が開始された。

 もちろん、軍事組織によるそういった動きを当事者たちが把握しているはずはなく、グリュクは飛来してきた二機の飛行機を見て危機感を覚えていた。


「何か、今にも攻撃してきそう……」

(落ち着け、まずはこの腕から逃れるのだ)

「やってるよ! でもこいつ、空を飛ぶのと腕の強化で二つ同時に術を使ってないか!?」

(機械の補助でそのような芸当が出来るのやも知れぬ。ならば最大限に念動の出力を上げることで、二つの術の維持均衡を崩すのだ。飛ぶのに使っている力も腕に割かねばならないようにしてやれ!)

「これ以上……!?」

(出来る! 防御障壁を内側から強化するのと同じ要領だ。少々難しいが、御辺ならば!)


 確かに、とっさに展開してしまったことで術の強度を高めるような集中が出来ていなかった。既に拡大の元手となる魔法物質が存在している障壁と異なり、念動力場というものはやや捉え所がない。

 だが、迷いと裏腹に体を締めあげる巨人の腕の力は強まっていた。いや、グリュクの術が弱まっているのか。


「くっ、そぉぁぁぁぁ!!!」


 集中し、叫んだ。それに引かれるように彼の体を取りまく力場の強度が上がり、全体の効率低下に伴い光と音に変換されたエネルギーがそれを周囲に放出した。偵察機からは、自動巨人に体を掴まれた魔女が爆音と共に鋭く発光する有様が観測出来ただろう。

 今の彼に発生できる最大出力の念動力場が炸裂し、余った勢いで巨人の掌が大きく開く。ここまで出力を上げても腕が破壊されずに機能を留めているのは、やはり魔法術かそれに準じるもので強度を上げていたということか。


(上方に障壁を展開しつつ、手足を揃えて着水に備えよ!)


 霊剣に言われて気づいたが、そういえばダム湖の上空だった。巨人によってそこに連行された状態で捕縛を解けば、当然水面への落下が始まる。

 拘束を破られた巨人が追い打ちに複数の魔弾を放つが、これは空中に広げた障壁で防いだ。先ほどから高硬度で何度も障壁を展開し、更には全力全開での念動の反復発動で、流石に神経の疲労が無視できなくなってきている。衝撃と共に全身が冷水の中に没するのを感じるのに一瞬遅れて、締め付けられるような感覚と、何度も脳を揺さぶる強烈な衝撃の連続がやってきた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ