07.光世記世界
一方、部屋に残されたジル・ハーたちも、カイツが飛来する炸裂榴弾を防いだ直後に動き始めていた。
カイツの出て行った先から聞こえてきた爆音に驚いていると、人工人コグノスコが通告する。
『急迫不正の侵害を検出。ジル、強制着装を行います』
宣言と共に、食卓部屋の隅に佇んでいた純白の聖別鎧が音を立てて分解、狭い部屋の中を飛んで、周囲を見回していたジル・ハーに襲いかかった。
「ほわ!?」
「な、何!?」
思わず情けない悲鳴を上げると、その様子を見ていた無翼人の少年――ヴィットリオという名だったか――が、同様に驚いて声を上げた。
彼とはどういった関係なのか分からなかったが、黒髪の娘が彼をかばって前に出る。
「坊っちゃん危ないです、離れて!」
『心配無用です。ジル、玄関へ』
「りょ、了解!」
既に彼女の全身が聖別鎧で覆われている。
装甲で着膨れた分だけ手狭になった短い廊下を足早に歩くと、玄関の扉が外から解錠されるのが見えた。
「え、鍵……?」
『干渉念場!』
一瞬戸惑ったが、コグノスコが兜の画面に写しだした意匠図に視線を向けて瞬きをすると、不可視の運動エネルギー場が玄関に向けて広がった。
乱暴に扉を開けて放り込まれたのは、手榴弾だった。
それが干渉念場に押し返され、再び集合住宅の外廊下に転がり出て爆発する。
乾いた爆音と、待機を伝わる小さな衝撃。廊下には大きく衝撃波が広がったことだろう。
『範囲を絞って展開を維持。廊下を確認してください』
「あ、うん」
前方に不可視の盾を生成したまま扉の外を覗くと、人間が一人倒れていた。
ジル・ハーが跳ね返した手榴弾の直撃を受けてしまったらしく、廊下に血溜まりを作って死んでいる。
視線を上げれば、廊下の外に出てきていた他の居室の住民たちを押しのけ、もう一人の実行犯らしき人影が走り去っていくのが見えた。
「……!」
『ジル、追いましょう』
「うん……!」
ジル・ハーはコグノスコの呼びかけに応え、無言で外へ飛び出す。
そのまま廊下の手すり壁を飛び越えて、翼を持つ聖別鎧は空気の中を高速で泳ぐように飛んだ。
「ぐ、が……!?」
「捕まえた!」
『戻りましょう。部屋は恐らく放棄ということになるでしょうが』
目撃した他の住民たちの視線がその動きに追いついた時には、再び廊下に飛び込んだジル・ハーとコグノスコは干渉念場で逃走した実行犯の首筋を押さえ込んでいた。
住民たちが部屋に戻ると、既にカイツとケティアルクがそれぞれ、別の無翼人の男を捕らえて食卓の椅子に何重にも巻いた紙ひもで縛り付けているところだった。
また、手榴弾の爆圧で死んだもう一人は、狭い厨房に敷いた新聞紙の上に仰向けに転がっている。
物々しい雰囲気になってしまった居室に、干渉念場で胎児のような姿勢のまま空中に固定した男を連れて入り、ジル・ハーはケティアルクに尋ねた。
「一体何だったんですか、この人達」
「無翼人の反啓蒙者主義者だろう。尋問もしたかったが……カトラ、ここに来る時に尾行されていなかったか」
「面目ないことだわ……ごめんなさい」
「仕方ない。俺は撤収を提案する。防衛とはいえ、襲撃犯が一人死んでしまったからな……遅からずこの国の警察が来る。
他の住民が通報したり、こっちに事情を聞きに来たりする前に逃げた方が面倒が無い。
カトラ、場合によっては倉庫まで強行突破するぞ」
元々そうした職に就いていたということもあるだろうが、ケティアルクの判断と指示は素早かった。
「大丈夫、そんな荒事の必要はないわ」
「?」
「いい手がある。任せて」
「分かった」
彼は一瞬だけ顔に疑問符を浮かべたが、カトラとはよほどの信頼関係にあるのか、小さく頷くだけで済ませた。
続けてケティアルクはカイツたちを指差して、
「カイツ君はブルスキーを、ジル・ハー君はジャコビッチを背負うとして……カトラの連れてきたそちらの二人はどうする」
「アダさんには、脱出の足を用意してもらいます。アダさん、とりあえずベランダから裏手に降りて、飛行機の準備してください」
「はい。じゃあ行きますね」
(任せて!)
視線を振られたアダが、右腕を展開して復活せし名を持つ霊剣をケティアルクへと見せる。
ジル・ハーも一瞬驚くが、それを見たコグノスコの観察プログラムが、彼女が全身を機械化した特異な存在であるらしいことを伝えてきた。
「あ、ああ……そうか、君も義体化を?」
「えぇ、まぁ、そんなところで……急ぎましょう」
ケティアルクにそう答えると、アダはカーテンを開いて窓を全開にし、ベランダに飛び出す。
そして着地すると、そこに生えたリンボクの木の幹に、右手から飛び出した短い剣を叩きつけた。
(復活せし名の下に、樹木よ!)
「輸送飛行機に、なぁれっ!!」
高さ5メートルほどのリンボクの木が、灰色の粘液のようになって崩れ落ちる。
次の瞬間にはそれは前後長10メートル程度の、ややずんぐりとした象牙色の機械に変わった。
ケティアルクも、さすがに驚きを隠せないようだ。
「話には聞いていたが、凄まじい機能だな……」
ジル・ハーも驚きはしたが、それよりも、創り出されたその形状にひどく見覚えがある事の方が大きな衝撃だった。
ベランダの手すりから身を乗り出すと、左右に弓なりに張り出した魔力線発動機の形状がよく分かった。
「ピナクル……!?」
『形状はデータベースと酷似。ドゥアト550ターコン、ピナクル2。ブロック160~168が該当しました』
以前彼女が仕事で使っていたものと、全く同じ機種のように見えた。
コグノスコの補足と共に、兜の内部の画面に映しだされたその機影が赤い色で縁取られ、親切に機種名までが表示される。
後ろから出てきたカトラが、手すりから乗り出しながら解説した。
「彼女の能力については後で説明するとして、“両の目”が設計図まで入手出来たのがあの機種だけだったの。
運転はコグノスコに――」
「あ、わ、わたし! やりたいんですけど……!」
「はい?」
「ミレオムで個人運送会社やってて、あれ、使ってました!」
「あら奇遇。ただその前に、うちの手下を下まで降ろしてあげて。
すぐに出発するけど、わたしとケティアは最低限の貴重品だけ確保しときたいから」
「はい! それじゃジャコさん!」
同じ機種を使用している会社は数えきれないほどあったので、そこまで数奇な巡り合わせということもなかったが。
嬉しさのあまり、すぐそこにいたジャコビッチの腕を掴んで引き寄せ、一気に飛び降りる。
「あちょっと!? まだわてくし心の準備がぁぁぁぁ!?」
純白の聖別鎧の飛行能力は、高速での飛行や急角度の旋回だけではない。
地上15メートルほどの高さから成人男子一人――啓蒙者の3割から4割増しと言われる無翼人の体重で、だ――を抱えたまま、赤子を扱うように優しく着地することが可能だった。
両手で目を塞いで震えている痩せぎすのジャコビッチを下ろすと、筋肉質の大男であるブルスキーを背負ったカイツもふわりと着地した。
「あのヴィットリオって子も降ろしてやってくれ。
反啓蒙者主義者たちは……置いていった方がいいだろう」
「わかった」
すると、その少年を姫君のような体勢で抱きかかえたまま、義翼を羽ばたかせてケティアルクが降下してくる。
「貴重品はカトラに任せた。乗り込んで待機してくれ」
「あ、じゃあエンジン入れます。コグノスコ、着装解除して」
『了解です』
コグノスコがそう告げると、ばらりと一斉に彼女から剥がれ落ちて、その背後に即座に組み立て直される聖別鎧。
ジル・ハーは翼をしならせてふわりと飛び上がると機内に滑り込み、運転席の上に突き出た乗り込み用の手すりをひっつかんで運転席へと移った。
助手席には、右手の剣に何やら本来のピナクル2には無いはずの配線をまとわりつかせた義体の娘――アダという名だったか――が座っている。
「あ、ジル・ハーさんが運転するんですか?」
「アダだったよね、よろしく! ……あ、安全帯締めてあげる」
右手が機体から伸びた配線に飲まれていて、安全帯が締められないままだったらしい。
これが秘蹟の一種ということなら、そうしていないと維持できないものなのか。
彼女の前方に乗り出し、安全帯を引っ張りだして金具を固定する。
「ありがとうございます。一応設計図通りのはずですけど、こんなに大きい啓蒙者の機械を作るのは初めてで……」
「ほぼ完璧だよ! ちょっと配置が違うところもあるけど、ブロック違いの範疇だし。ありがとう!」
「は、はい」
舞い上がっている自分をやや引き気味に見る視線には気づきつつも、始動スイッチを押して機体の自己点検機能を走らせ、ディスプレイの点検状況を確認する。
どういった奇跡なのかは知らないが、本来必要になる各種の生体認証は省かれていた。
仕様は正規品と同じらしく、自分で改造を加えていた部分などは無くなっている。
だが、これなら飛べるという確信が、機体を通して心に昂ぶった。
健在だった頃の愛機を操っていた時の感覚が、蘇る。
「……と。みんな乗りました?」
総船室扉の開閉スイッチを押して扉を開き、後部の座席を確認する。
コグノスコが操る内部が空洞の純白の聖別鎧に、カイツ。
純粋人のジャコビッチ、ブルスキー、ヴィットリオ少年と、啓蒙者のケティアルク。
そしてちょうど、カトラが乗り込んできたところだった。何やら大きな背負袋を抱えている。
「これで全員よ、ジル・ハーさん、出しちゃって!」
「了解、点火!」
最後のスイッチを押すと、魔力線エンジンに火が入り、木管楽器の旋律を思わせる細い音が高らかに響いた。
「浮上します、目的地は?」
新品同様の操縦桿を引けば機体がゆっくりと浮き上がり、水平を保ちながら弓状の魔力線エンジンを傾斜させる。
「自動案内は……ネットワークに繋がってないから使えないか。
一先ず目視で案内するから、このまま西の、海の方へ向かってくれ!」
「レンシュ支部で使ってる機体と、コグノスコが調達した機体、どっちもそこに置いてあるわ」
ケティアルクの説明に続けて、カトラが補足した。
ジル・ハーは操縦桿を引いて、機体を上昇させる。
「そんじゃ、行きます!」
高度は50メートルほど、安全を期するならもう少し上げたい。
なおもゆっくりと上昇しつつ、西に向かって回頭。
ピナクル汎用輸送機は神聖啓発教義領の航空法で規定された高度まで到達すると、干渉念場を後方へと吐き出して速度を上げていった。
後に残ったのは、509号室付近にいくらかの破壊を受けた集合住宅と、そこに拘束された反啓蒙者主義者四名(うち一名は死亡)、混乱する近隣住民――そして残念ながら遅参となった現地警察だった。
地上の滅亡まで、既に残り52時間を切っている。
鋼鉄色の天船の唐突な再来は、移動都市ヴィルベルティーレの従業者たちを一時的にだが混乱させた。
だが、そこから数日の間留守にしていたレヴリス・アルジャンが姿を見せると、“声”を聞いていた社員たちは歓呼の声でそれを迎え入れた。
レヴリスも事情を、特に多国間特務戦隊に参加してからの経過と、“声”について、そして地上に降臨した始原者についてを説明した。
家族も、迎えに来てくれた。
「それも大事だけど! 父さん!」
パパと呼ばれなくなって何年経つか、などと頭の悪い考えを巡らせてしまいそうになりつつも、レヴリスは娘のシロガネの話を聞いた。
「何があった、シロガネ」
「父さんがどこらへんにいた頃かは分からないけど……“心臓”が光って閉鎖区画が開いた」
「……本当にか」
妻や息子とも語らいをしたい思いはあったが、レヴリスは一先ず、そちらの確認に出向くことにした。
閉鎖区画と呼ばれているものは、レヴリスの父親であるイーザスト・アルジャンがこの移動都市を所有していた頃――余談ではあるが、その当時はまだ移動旅館として使用されていた――から、誰にも開けることが出来ない“開かずの間”が存在した。
開ける手段は不明だったが、動力炉である“心臓”からさほど離れていない、また移動都市には現在でも未だ機能や用途が不明な点が多いため、十分な調査もなしに入り口を破壊して進入することは忌避されていた。
レヴリスが移民事業を始めてから、その存在は半分以上忘れていたようなものだった。
だが、それが開いたという。
前後長が9000メートルを超える移動都市、その後尾部分の地下深くに、レヴリスはようやく到着した。
中心部を前後に向かって貫く、幅の広い廊下の最奥に、厚さ50センチメートルはあろうかという分厚い金属製の両扉が開いている。
その時そこでレヴリスを出迎えたのは、彼にとって馴染みのない、よく分からない存在だった。
『あなたは責任者ですか?』
彼が目撃すると同時、それはそう尋ねてきた。
『私は光世記世界号の支援用魔導従兵、トンプロテットです』
レヴリスがあっけに取られていると、今度は名乗られたらしい。
「(こうせいき、せかいごう……?)」
魔導従兵という言葉は、レヴリスも聞き慣れている。
情報を書き込んだ魔具の札を差し込んで、物体を動物などを模した形状に成形し、擬似的な使い魔とするものだった。
「(だが、ただの魔導従兵なら普通、このように流暢に喋ることは出来ないはず……)」
大きさと形状は、人間に近かった。
手首と足首、肘と膝を持った四肢。頭部らしき形状を頂点とする、完全な直立体勢。
ただ、服などは着ていない。服飾店の人形から衣服を除き、更にその全身の表面を鈍く輝く鉄色などで塗ってみれば、試行錯誤の果てにこうしたものが出来上がったかも知れない。
頭部はのっぺりとして凹凸のない、ふくらんだ泡を思わせる形状をしており、当然表情などは窺い知れなかった。
耳に聞こえる音声を発しているというのに、口すらも無いとは。
それが、再度尋ねてくる。
『再び確認します。あなたは責任者ですか?』
「……ハダル社、社長のレヴリス・アルジャン。この移動都市、ヴィルベルティーレの首長も兼任している」
いつでも銀灰色の鎧を着想できるよう構えつつも名乗ると、トンプロテットというらしい無貌の銀人(と、でも呼ぶべきか)は、その名を復唱した。
『ヴィルベルティーレ。ここは、光世記世界号の低温睡眠室です。この場所は、現在ではヴィルベルティーレと呼ばれていますか?』
「俺たちはそう名づけて呼んでいるよ、トンプロテット。
詳しく話をしたい。ここの方がいいか?」
『それを希望します。あなたとあなたの後ろの人々の動きから理性を検出しましたが、同時に微弱な恐怖も検出しました。
会話を行い、相互に学習することで、恐怖は減少するでしょう』
それから3時間ほど、無貌の銀人トンプロテットと、移民請負社の長であるレヴリス・アルジャン――および移動都市の立会人たちによる情報交換が行われた。
分厚い金属の扉は閉鎖しないまま、今まで閉鎖されていた区画を大雑把に案内され、その隠された役割、果たすはずだった機能を解説された。
始原者が地上を滅ぼさんとしている時にこのような事態が生じたことで、当初のレヴリスは大きく混乱していた。
だが、言語感覚のやや異なる彼と話す内、トンプロテットもまた、今地上を襲わんとしている災厄と無関係ではないことが明らかになってきた。
「つまり、君はこの……長期睡眠装置の中で眠るはずの妖族たちが、星の世界に飛び出して行く際の守り人のような役割をしていたということか?」
『その通りです。しかし主人たちの企ては失敗しました。
光世記世界号、現在あなた方がヴィルベルティーレと呼ぶ船は、完成前に建造中止となりました。
旅立つ予定だった同志たちも、みな行方不明です。ここにある低温睡眠装置は全て無人です。
あなた方の話から総合すると、それも500年ほど前のことです。
その際、コショクの完成させていた鎧の数領が散逸して、あなた方の手に渡ったのでしょう』
彼のいうコショクという名詞は、レヴリスの銀灰色の鎧、タルタスの深海の色の鎧の作者とされる、中世の妖族の名工、コショク・ジャックニッカのことだ。
レヴリスは直接聞いたわけではないが、この無貌の銀人の証言は、コショク・ジャックニッカがその最盛期に、前触れもなく多くの未完成作品を残して失踪したとされていること。
また、霊剣使いグリュク・カダンを消滅させたという始原者の分身体の言っていたこととも一致する。
彼もこの、“光世記世界号”の計画に、船外活動服の製作者として参加していたのだ。
ならば、と、レヴリスの胸に期待が湧いた。
このトンプロテットは、500年も前に宇宙に進出を試みて、それを始原者に妨害された天才妖族たちの計画の、いわば遺児といえよう。
彼を説得することで、偉大な先達の残した武器か何かを使うことが、可能なのではないか。
「なぁトンプロテット、聞きたいことがある」
『聞いてください』
「既に話した通り、今この地上は君の主人たちを殺し、計画を妨害したメトというやつに滅ぼされてしまう可能性がある。
500年も主人たちの遺作を守ってきた君には悪いが、何か、それを防げそうな有用な道具はないか?
あるならぜひ、教えて欲しいんだ」
『…………』
考え込んでいるのか、こちらの言葉の意味が伝わらなかったか。
それでも30秒ほども待っていると、トンプロテットはようやく言葉を発した。
『私は戦闘に関することを判断出来ません。
また、主人たちの遺産が始原者を攻撃することについて有用かどうかを判断できません。
私は取引を提案します。
あなた方に、資材倉庫を開放します。私の稼働に必要なものを除き、蓄積された物資を譲渡します。あなた方はその要不要を判断してください。
その代わり、この低温睡眠室から奥の区画を違う用途に転用することを禁止します』
一瞬だけ、その提案はレヴリスを迷わせた。
閉鎖区画――トンプロテットが守っていた区画は、大まかな概算ではあるが移動都市の容積の5パーセントほどをも占めている。
客室として、資材・食料庫として、大いに活用したいところではあった。
500年前の航宙計画者たちの遺産にすがるしか無い状況とはいえ、遺産の内容も吟味せずにそのような約束を交わしてしまって良いものか?
とはいえ、軽く見せてもらっただけでも調査に数週間は要しかねない量を、レヴリスは見て取っていた。
ここはこの、未知の守り人との信義を重んじ、迅速と誠実を尊ぶ経営者として決断をするべきだろう。
「君の提案を受諾する、トンプロテット。
契約書も急いで用意させよう。他に、もし君が必要な物があれば、ハダルの社員証をつけている妖族を探して訪ねてくれ」
『感謝します。あなたが短期的利益より長期的信頼を重視する性格だと判断します』
「この戦いが無事に終わったら、君の希望次第ではあるが、君の主人たちのうち、墓所が分かっている者のところに案内しよう。
魔導従兵とはいえ、君も死者を悼むという心を知っているからこそ、この部屋を使わせまいとしているのだろうから」
トンプロテットの杓子定規じみた喋り方の影響を受けて、言葉の区切りが短くなるのを自覚しながら、言葉をかける。
『それは不明です。ですが、やはり感謝します。社長レヴリス・アルジャン』
500年前にも、握手の習慣は変わらず存在したらしい。
レヴリスが右手を差し出すと、トンプロテットも硬質で冷たい銀色の手を差し出し、それを握り返した。
その感触は冷たくはあったが、比熱が小さいのかすぐにレヴリスの体温が移り、暖かくなっていった。
この時、始原者メトの宣言した地上抹殺まで、残すところあと51時間ほど。