93 相談の内容
食堂に降りると、マリーさんとクルトさんがお茶の準備をしてくれていた。
「こちらからお願いしているのに申し訳ない。」
「いや、うちはお持て成しが商売ですからね。
ところで、お2人だけですか?
とりあえず腰を下ろしてください。」
「はい、失礼します。」
フィランダーさんがクルトさんにお辞儀して、レイアさんと一緒に座った。
レイアさんはテーブルの上に包みを置く。
何か大事そうなお話っぽいよね。
「マリーさん、あたし部屋に戻ってた方がいいかな?」
「隊長、ミアちゃんに一緒にいてもらってもいいですよね?」
「ああ、構わない。」
小さな声で聞いたつもりだったんだけど、返事は違うとこ、レイアさんとフィランダーさんから返ってきた。
とにかくだいじょぶみたいだから、マリーさんの隣のイスに座って一緒にお話聞くことになった。
「それで、わたしに話って一体?」
「まずはこれを見てもらいたいのです。
レイア、開けてくれ。」
「はい。」
レイアさんが開いた布の包みからは、きれいな赤色の杖が出てきた。
ほんのり光ってるようにも見えるその杖は、よく見るとちょっと明るい部分や暗い部分があって、まるでかまどの火みたいにゆらゆらしてた。
「ふっわあ…すごい…」
「なかなかこんなものにはお目にかかる機会はなさそうだね…」
クルトさんも目を細めてみてる。
あたしはこんなにきれいなもの見たことないけど、クルトさんもそうなのかな?
ふと隣を見ると、マリーさんが何か難しそうな顔してる…
「これ…もしかして[根源たる色彩]なのかしら?」
「流石ですね、その通りです。」
「それでわたしに話を聞きにきたってわけね…
でもわたしはもう持ってないわよ?」
「はい、わかっています。
現在の所有者の所在がわからないもので…」
「なるほどね…」
[根源たる色彩]って何だろ?
クルトさんは驚いてるみたいだし…知ってるみたいだよね。
レイアさんもきっと知ってるよね。
ってことは知らないのあたしだけかな…聞いてもいいかな…?
ちょっとお話止まっちゃってるしいいよね…
「あの…[根源たる色彩]って何ですか?」
「「えっ?」」
フィランダーさんとレイアさんが同時に声をあげた。
しかも同じ顔してる…うー、有名なものっぽい…
「ミアは知らなくてもしょうがないわよ。
[根源たる色彩]っていうのはね、神々が人に与えたと伝えられている6つの武器よ。
悪魔の力に対抗することができると言われているわ。」
「ほへ………悪魔の力に対抗…それってすごい…」
あれ?さっきマリーさんがもう持ってないって言ってたよね。
ってことは前に持ってたってことだよね…
もしかして…もしかするの?!
「あの…[無垢なる白]って…もしかして…」
「よく覚えてたわね。
そう、あの剣も[根源たる色彩]の1つよ。
さて…それでわたしに何を聞きたいの?
たぶんほとんどわからないと思うけど…」
改めてフィランダーさんとレイアさんの方を向いて、マリーさんが尋ねた。
それにしても…すごい武器なんだね…
今度フェリックスさんに見せてもらわなきゃ。
「はい、俺たちは封印を解く方法を偶然知ることができただけで、実は物についてはほとんど知らないのです。
今わかっているのが、これが[根源たる色彩]に間違いなさそうだということ、名前が[揺らめく赤]であること、だけなのです。」
「つまり…使い方がわからないのね…」
「恥ずかしながら…その通りです。」
使い方があるんだ…なかなか難しそう…
そいえば、マリーさんは[無垢なる白]を使えてたんだよね。
だから聞いてるのかな。
「アンフィト大陸でも、1つ見つかってるっていう話だけど、そっちには聞かないの?」
「[高鳴る黄]のことですね。
あの斧は、エルメート帝国の宝物として厳重に管理されているので情報がほとんどないのです…」
「そうなの…わたしは魔法士ギルドで時間を掛けて調べてもらっただけなのよね。
[無垢なる白]について言えば、まず剣との間に契約のようなものを結ぶこと、これが使うための条件だったわ。
使い方は、剣を使って印を結んで悪魔に傷を負わせる、だったんだけど…剣だから、なのかしらね。」
そこでふうっとため息をつくマリーさん。
フィランダーさんとレイアさんも難しい顔してる…
「契約のようなもの、というのは、一度結んでも解くことができるようですね?」
「ええ、新しい契約を結べたからこそ、わたしはあれを引き継いだんだから。
まあ調べてもらうのが一番だとは思うけど…使うとしたら誰が使うかも考えないといけないわね。」
「使うのはレイアにしようと思っています。
力量的にも問題はない…」
「ふぅん…とにかく、これ以上はわたしにもわからないわ。」
「はい、ありがとうございます。」
何だか微妙な雰囲気になっちゃった…
問題、解決しなかったんだもんね…
………
…………………
…うぅ、みんな黙っちゃった。
どしよう…
「あっあのっ…ちょとだけ…持ってみてもいいですか?」
「ミア、ダメよ、だいじなものなんだから…」
思わず変なこと言っちゃった…
うん、ダメだよね…
そう思ったんだけど、レイアさんがフィランダーさんに話しかけたんだ。
「いいんじゃないでしょうか?
わたしも隊長も何度も持ってるけど、ただの杖にしか思えませんし。」
「そうだな、難しい話に付き合わせてしまったし。
レイア。」
「はい。」
レイアさんは返事をすると[揺らめく赤]を持って、あたしのとこまで来てくれた。
すごい、近くで見ても不思議…
何だか吸いこまれそうだよ。
「もう…
ほんとすみません。」
「いいえ、ミアちゃんにはわたしもお世話になってますから。
さ、ミアちゃんどうぞ。」
「は、はひ…」
いざ持つとなると何だかキンチョウしてきた…
はわわ…手のひらに汗が…
エプロンでふいちゃえ!
レイアさんが差し出してくれたのを受け取ると、見た目よりも軽い感じ…
何だかほんのりあったかい気がするのは気のせいかな…?
「ひぅ…ドキドキする…
って、何これ…?!」
「「ミアっ!」」「ミアちゃん?!」「何だとっ?!」
そのとき、目の前が真っ白になって、みんなの声が遠くに聞こえた…