83 成長したかも
「……………………ふぃ。」
手先のものに集中させてた意識を戻す。
あたしの左手には、皮をむきおわったじゃがいも。
右手には、皮をむくための包丁。
ちょっとずつ練習して、ようやくちゃんと皮がむけるようになってきた。
「うん、だいぶ早くなったね。
もう皮むきは大丈夫かな。」
「よかったー…
でもまだ集中してないとできないよ。
クルトさんみたいにおしゃべりしながらなんて絶対無理だよ。」
お客様に出す分は、あたしがやったら大変なことになるし、あたしたちが食べる分の下準備を手伝わせてもらってるの。
っていっても、皮をむいたり、切ったりするだけで、火を使ってお料理したことないんだけどね。
「それじゃ、小さく切ってしまって。」
「はーい。」
あたしがじゃがいも切ってる横で、クルトさんが他のものをどんどん準備していく。
さすがクルトさん、すっごい早い…
じゃがいもが切り終わるころには、他のものも全部そろってた。
「さて、はじめるとしますか。
そういえば、ミアにはまだかまどの使い方を教えてなかったね。」
「うん、いつもクルトさんがやってくれてるから、お湯も沸いたのしか使ってないよ。」
「ついでだから、教えておこう。
これを使うんだよ。」
そう言ってクルトさんが取り出したのは、赤く透き通った水晶のかけら…あれ、どっかでこんなの見たような気がする。
クルトさん、細めの薪を1本取って、その水晶のかけらに押し当ててる。
「〈火よ〉」
「ほへ…〈魔法語〉?」
「まあ、見ていてごらん。」
クルトさんが薪を押し当ててると、だんだん煙が出てくる。
そう思ったらもう火がついてた。
これって…前にミルファム教会で見た[光結晶]とよく似てるんだ。
「クルトさん、これって[光結晶]みたいなもの?」
「ん?ああ、よく知ってるね。
これは[火結晶]だよ。
キーワードで起動させると、《発火》という赤色の魔法と同じような効果が得られるんだ。
割と手軽に火をつけることができるから便利なんだけど、悪用されると困るから、魔法士ギルドもうちのような商売として使うところにしか販売してくれないんだけどね。」
「ほへ…」
「ミアは〈魔法語〉が使えるし、[光結晶]を見たことがあるなら、これも同じように起動できるのはわかると思うから、今度から手が足りないときはミアにつけてもらうこともあるかもしれないね。」
便利な道具があるんだー…
もっといろいろできるものがあったらおもしろいかも?
魔法士ギルドで売ってるなら、ゼル先生なら詳しいかな?
今度聞いてみよっと。
「あとはうまく薪を組んで、種火になる薪を入れればいいんだよ。
火が強かったり弱かったりするときは、薪の位置を少し変えてあげれば…たとえば強いときは、よく燃えている薪が、鍋の下から外れるように動かすとかすれば調節できるからね。」
「そっか…クルトさんがかまどの下をごそごそしてるのは、火の強さを調節してたんだ。」
「ははは、じゃあ今まで私が何をしてるかわからなかったのか。」
むー…でもその通りです…
あたしがちょっとうつむいてる間に、クルトさんは材料をお鍋にいれてく。
いつ見ても、あっという間に作業が進んじゃって、どんな風にすると何ができるかはわかんない。
やっぱりクルトさんはすごいんだ。
「あとは少し煮ればいいかな。
ミア、今朝出してたパンの残りがまだあるはずだから、3人分切っておいてくれるかな?」
「はーい。」
パンは外側がちょっとかたくて、普通の包丁だと切りにくいから、刃が波型になってるのを使うの。
台の上にパンをおいて、軽く押さえて切るだけだから、じゃがいもの皮をむくよりずっと簡単。
固くしぼった布巾をかぶせられたお皿の上に、元は大きなまん丸だったパンは、朝にお客様に出してた分の残りで、半分くらい残ってるのがあった。
1個のまん丸パンから、10人分くらいは切り出せるくらいおっきい。
お客様に出すときは、はしっこは切り落として、真ん中の部分を、大きさに合わせて厚さを変えて切っていかなきゃダメだから、あたしにはできないんだけど、自分たちの分ならちょっとくらい厚さが変ったっていいんだよね。
とにかく、3人分を切りだして、残りにまた布巾をかぶせとく。
「クルトさん、切れたよー。」
「こっちも大体できたみたいだね。
それじゃスープボウルを出してくれるかな?
そこの台の端に置いてくれればいいよ。」
クルトさんに言われたとおりに、スープボウルを出して台に乗せる。
あとは出来上がったらクルトさんがよそってくれるし、あたしはマリーさんに声をかけてこなきゃね。
「じゃ、マリーさんに伝えてくるね。」
「ああ、頼んだよ。」
今日もとってもいいにおい。
早くマリーさんを呼んでこなきゃ!