78 お呼ばれしました その1
それは朝の食堂がちょうど終わったころだった。
玄関の扉がノックされて、上品な服装の人が入ってきた。
「失礼いたします。
私、ヴァルヴィック様の使いで来させていただきました。
ミア様はいらっしゃいますでしょうか?」
「はひ?あたしですか?」
ヴァルヴィックってどこかで聞いたような気がするけど…
マリーさんの方を見ると、何だかちょっと困ったような顔してる。
誰だっけ…?
「マリー様、別に商売のことではありませんので、お気を悪くなさらないでください。
今回も旦那様と一緒にアルフォンス様とメリンダ様がいらしておりまして、もしミア様にお時間をいただけるなら、お2人に会っていただければと思いましてお願いに上がった次第です。」
「あ…アルくんとメリーちゃん…
そっか、ヴァルヴィックって!」
「ミア、気づいてなかったのね…」
迷子になった2人に会ったのは、もうしばらく前のことだよね。
ちょっと懐かしいな。
でも準備があるから、今は無理だよね…
「あの…今はちょっと無理なんです。
お昼からなら…マリーさん、いい?」
「ええ、ミアが2人に会いたいって思うなら、行ってらっしゃい。」
「かしこまりました。
お2人もお喜びになると思います。
それではお昼が終わった頃に、お迎えにあがりますので、どうぞよろしくお願いいたします。」
そういうと、その人は深々とお辞儀をして出て行った。
何だかきっちりした人だったなー…
「ま、心配ないかしらね。」
「ほへ?」
「んー…ちょっとね。
いろいろとあるのよ、うちの実家も商人だから。
でも、ミアは心配せずに行ってきたらいいからね。
それじゃ、片付け終わってないところを終わらせましょ。」
一時中断してた片付けを再開、っていっても食器は水場に引き上げてあるから、こっちはマリーさんに任せて、あたしは食器を洗う方に回る。
厨房に入ると、クルトさんはだいたい片付け終わって、あたしたちのご飯の準備に取り掛かってるところだった。
「遅くなりましたー。」
「いや、大丈夫だよ。
私もこっちの準備が終わったら手伝うから。」
「はーい、でもできるだけがんばるね。」
そんなこんなで朝の片付けも終わり、そのあとはマリーさんとお部屋の掃除に。
そうこうしているうちに、お昼の準備、そして食堂営業と、あっという間に時間が過ぎていく。
お昼の食堂も終わって片付けもすんだところで、少し休憩することにした。
そろそろお迎えも来るころかな?って思ってたら、扉がノックされた。
入ってきたのは、朝も来たあの人。
「ミア様、お迎えにあがりました。
ご準備の方はよろしいでしょうか?」
「はい…あ、エプロンだけ置いてきますー。」
よく考えたらお出かけだから、エプロンは一応外していかなきゃね。
外しながら階段に向かおうとしたら、マリーさんが声をかけてくれた。
「ミア、わたしが片付けておいてあげるわ。」
「ありがとです!」
「それじゃ、気をつけて行ってらっしゃい。」
「行ってきまーす。」
マリーさんにエプロンを預けて、迎えの人について外に出る。
そこでいきなりびっくりした…
「どうなさいましたか?」
「え…と、これ…乗るんですか…?」
目の前には馬車が来ていた。
しかも結構よさそうな感じの…こんなの見たことしかないよ…
迎えの人は、さも当たり前って感じで馬車の扉を開けてくれているけど…
「はい、わざわざ来ていただくのに、歩いてもらうわけにはまいりませんので。」
「はぅ…」
いきなりちょっと尻込みしちゃったんだけど…
道を歩いてる人たちも何だかチラチラ見てるし…ちょっと恥ずかしい…
えーい、乗っちゃえ!
…中もイスがふかふかしてるし。
扉を閉めた迎えの人は、そのまま御車台に乗り込んだみたい。
「よろしいでしょうか、出発します。」
「は、はい。」
あたしの返事を確認して、馬車はゆっくり動き出した。
思ったほど揺れないのはいい馬車っぽいからなのかな…
そのまま大通りにでて、広場の方に進んでく。
何か不思議な感覚…歩いてるときとは違う感じがする。
馬車は広場を越えて、その先の高級な住宅とかが並んでる一画の方へ進んでいって、大きなお宿の前で止まった。
白枝亭みたいな冒険者の宿じゃなくて、お金持ちの人とかが使うようなところ…もちろん入ったことなんてないよ…
うー、緊張してきたよー…
心の準備をする間もなく、馬車の扉が開かれた。
「お手をどうぞ。」
差しのべられた手につかまって、馬車を降りる。
そしたら、宿の方からまた別の人が出てきたよ…
「ミア様、お待ちしておりました。
さあ、こちらへ。
アルフォンス様とメリンダ様がお待ちです。」
あたし…こんなところに来てよかったのかな…
一体どうなるんだろ?!何だか大変なことになってきたよー!