55 街中みんなでお片付け
ファングボアが大暴れした次の日、朝の食堂も終わって休憩に入ったんだけど、あたしは広場のお掃除に参加したいってマリーさんたちにお願いしてみた。
衛兵さんたちや、冒険者さんたちががんばってくれたおかげで、被害も小さかったって聞いたけど、広場でファングボアをやっつけたから、だいぶ汚れてしまったっていってたし。
マリーさんもクルトさんも、お掃除しに行くことには反対しなかったんだけど、だいぶすごい状況になってるかもしれないから、大丈夫かなって心配してる。
「わたしかクルトがついていければいいんだけど…」
「1人でも行けるよ?」
「あー、えっとね、そういうことじゃないのよ…」
何となく歯切れが悪い感じ…
あたしもどんな風にお願いすればいいかわかんなくなってきた…
そのとき、上からお客様が降りてきた。
「あれ、エリカ、1人で出かけるのかい?」
「はい、広場の片付けに…
私の魔法…たぶん役に立つ…から。」
「そうかい、冒険者は片付けに参加しなくても誰も文句なんて言わないけど、こういうときエリカは手伝いに行くこと、多かったわねー。」
ふーん、冒険者さんたちは、街を守る方でがんばるってことなのかな。
確かにあたしじゃファングボアにはかないそうにないし…見てないけど。
あ…そうだ。
「エリカさんと一緒に行くのはダメ?」
「えぇっ?
エリカに迷惑かけてしまうかもしれないでしょ。」
急に言われて、エリカさん、不思議そうな顔をしてたけど、マリーさんが説明して納得したみたい。
ちょっと考えて、あたしも一緒に行ってもいいって言ってくれたんだけど、マリーさんは何か歯切れが悪い。
でも、エリカさんの口添えもあって、何とか許可を出してもらうことができた。
「…じゃあ、迷惑になりそうだったらすぐに帰ってくること。
いいわね?」
「はい!」
ということで、さっそく出発しようとしたら、マリーさんにデッキブラシを渡された。
エリカさんは手伝うとなると、魔法を使うことになるけど、あたしはそうはいかないもんね。
でも、魔法で手伝うってどういうことだろ?
広場に向かう途中の大通りでは、たぶんファングボアが当たって、いくつか壊されてる建物があった。
そんな建物で、何人もの人が、修繕を始めてる。
衛兵さんたちも手伝ってるんだね。
広場につくと、たくさんの人がお掃除に参加してた。
台車にタルを乗せて、水を運んでくる人、ブラシで石畳をこすってる人、それぞれにがんばってるみたい。
「ミアちゃん…大丈夫?」
「はひ?
まだ何もしてないですよ?」
「えっと…臭いとか…」
臭い…そういえばちょっと変な臭いするよね。
どっかでかいだことのある気がする臭いも混じってるけど。
「んー、これって何の臭いですか?」
「たぶん…血…とか…腐敗臭、かな?
マリーさんも心配…してたけど、昨日のうちに…だいぶ片付け…進んでたみたい。」
そっか…マリーさんが気にしてたのって、そのことなんだね。
でも、がまんできないほどのものじゃないし、ちゃんとできそう。
エリカさんは、こすっても取れにくい汚れを、水を勢いよく飛ばす魔法で落とすからって、別行動することになった。
とりあえずあたしも、見よう見まねで石畳をこする人たちに加わる。
川から水をくんできてくれる人たちが、どんどん水をまいて、そのあとをあたしたちがこすっていくみたいな感じで作業は進んでく。
でこぼこしてるから、結構大変だったんだよね。
まわりの人たちは、お知り合い同士が多いみたいで、作業しながらいろいろお話してる。
でも、あたしの知ってる人はいないみたいだね…
「おや、ミアさんもお手伝いに来ていたのですか。」
「はひ?
あ、ゼル先生、こんにちは。」
急に声をかけられてそっちを向くと、タイミングよく知ってる人発見で何だかちょっとうれしくなっちゃった。
ミアさんも、っていうからゼル先生もきっとお手伝いに来てるんだろうって思ったんだけど、ブラシも何も持ってないみたい。
そんなあたしの視線に気づいてか、ゼル先生が笑ってこういった。
「私たちギルドの方からは、主に魔法を使ってのご支援をさせてもらうことになっているのですよ。
風を使って、悪臭を吹き飛ばしたり、水で汚れを落としたり、といった感じです。」
「そですかー。
街中でお手伝いなんですね。」
「はい、みんなの街ですから、みんなで協力しませんと。」
話をしてたら、ゼル先生、別のとこで呼ばれてる。
お互いがんばりましょう、って言ってそっちに走って行っちゃった。
そんな感じでしばらくお掃除に参加してたけど、まわりの人たちの話を聞いてたら、エリカさんの言ってた通り、昨日のうちにだいぶ片付けしてたみたいで、思ったよりも早く片付いちゃった。
あたしも、途中で抜けてお昼の準備かなって思ってたんだけど、十分間に合いそう。
何となく噴水のとこにみんなが集まってたから行ってみると、1人のおじさんが噴水の縁に上って、集まった人たちの方に向かって「みなさん、お疲れさまでした!」って言った。
そしたら、集まった人たちも、口々にお疲れさまーって言い合って、みんなで拍手大会みたいになっちゃった。
何だか、みんなでがんばるのって、楽しいね。
これでお掃除はお開きになったみたいで、集まってた人たちも、ばらばらと帰り始めたみたい。
「ミアちゃん…も、お疲れさま。
大丈夫…だった?」
「あ、エリカさん。
はい、ちゃんとできました!」
「そう…良かったね。
それじゃ…帰りましょう。」
少し人ごみを離れると、離れたとこにゼル先生が見えた。
ぺこっとお辞儀したら、ゼル先生も気づいてたみたいで、手を振ってくれた。
あたしもちょっとは街のお役にたてたかな?
帰ったら、お昼の準備もがんばらなきゃね!