52 大騒ぎの日 その1
「魔獣が出やがったー!」
そんな叫び声が響いて、平和だったお昼の食堂に緊張が走った。
冒険者のお客様たちは、ご飯をさっと平らげて、部屋に戻ってく。
そして、お昼だけ食べにきてたご近所の常連さんたちはご飯を食べる手も止まってる…
「マリーさん、魔獣って…?」
「普通の動物たちよりも変に大きかったり、体の一部だけが歪に成長してたりする獣よ。
それにしても、街の近くまで来るなんて…」
っていうことは、普通じゃない状況なんだ…
何だかちょっと…大変なこと…だよね?
クルトさんも厨房から、こっちに来てた。
「クルトも聞えたのね。」
「ああ、こっちも聞えたみたいだね。
それにしても、ここしばらくなかったんだけどなぁ…
みなさん、とりあえずは落ち着いて待っていてください。
何か動きがあれば、対応はさせていただきます。
下手に外の状況を考えずに出てしまうと、騒ぎに巻き込まれたりすることがありますので。」
クルトさんがまだ食堂にいるお客様たちに呼びかけて、少しみなさん落ち着いたみたい。
そうこうしてるうちに、部屋に戻ってた冒険者さんたちが装備をそろえて降りてくる。
みなさん、マリーさんやクルトさんに、様子を見にいってくるって出ていく。
フェリックスさんたちも降りてきたけど、行っちゃうのかな?
「俺たちも行ってくるわ。
まあ、あれだけ行けば出番はないだろうけど。」
「気をつけてね。
ってまぁ、今のあんたたちならわたし何かが心配しなくても大丈夫だろうけど。」
「気持ちが緩むと…どんな相手にも負ける可能性…あります。」
マリーさんの言葉に、エリカさんが答えて、みなさんは出て行った。
魔獣って強そうだけど、悪魔より強いのかな…?
だったら怖すぎる…
「ミア、大丈夫だよ。
冒険者たちはみんな強いから、魔獣なんてあっという間にやっつけられるさ。」
「そっか、そだよね。」
うちだけでもあんなにたくさんの冒険者さんたちが向かったんだから、きっと大丈夫だよね。
それからしばらくは静かで、さっきの騒ぎは何だったんだろうって気がしてくる。
残ってたお客様たちも、落ち着いたみたいで、ご飯の残りを食べ終わってる人たちもいたから、クルトさんの案で、お茶をサービスすることになったの。
「どうぞー。
サービスですー。」
「お、こりゃありがたいね。
お茶がついてくるなら、たまに魔獣が出てもいいかもなぁ、ははは。」
何て軽口を飛ばせるくらいに、落ち着いてきてたんだけど…
バタン
って急に表の扉が開いて、また食堂のみなさんがびっくりする。
あたしもマリーさんもびっくりしたけど。
飛び込んできて、荒い息を整えようとしてるのは、教会のシスターのシャルテさんだった。
「ミアさん…!よかった…少しお願いしたいことが…」
「大丈夫かい?ちょっと座って落ち着いて…」
「す、すみません、急に…」
イスに座ったシャルテさんに、まだ残ってるお茶を出した。
シャルテさんは苦しそうだったけど、少しにっこり笑って、お茶に口をつけてくれた。
「はぁ…すみません、実はミアさんにちょっと教会の方まで来ていただけないかと…」
「ふぇ?!」
「どういうこと?
今は魔獣騒ぎで危ないでしょう?」
シャルテさんの言葉に、あたしよりもマリーさんが反応した。
それにしても、何か急いできたみたいだけど。
「はい…実は、ファングボアが…」
「また厄介なのが…」
「はい、それで、負傷された衛兵の方がミルファム教会に運ばれてきたのですが、少し傷が深いのです。
治療師の方をお探ししようと思ったのですが、冒険者の方はみなさんファングボアの方を追いかけて行かれたみたいで…」
ファングボアっていうのが魔獣のことなのかな?
って、ぼーっと考えてたら急にシャルテさんに両手をつかまれてびっくり。
「ミアさん、治療師ですよね?
お願いします、どうか一緒に来てください!」
「え、えぇっ?!」
急に言われて、混乱しちゃって思わずマリーさんを見たら、マリーさん頭をなでてくれたから、ちょっと落ち着いた。
「ミアはどうしたい?」
「え…と…あたしで力になれるなら…って。」
「うん、それじゃ行きましょうか。
クルト、ちょっとこっち頼むわね。」
「やれやれ、まぁ、君らしいな。
気をつけていくんだよ。」
何だか、マリーさんも一緒に来てくれるみたい?
シャルテさんはありがとうございますって、あたしとマリーさんの手をとってお辞儀しっぱなしだけど…
「さぁ、そうと決まれば早く行かなきゃ。
ミア、ペンダントはつけてるね?」
「はい、だいじょぶです。」
「シスターさんは、いける?」
「ありがとうございます。
大丈夫です。」
こうして、大騒ぎの街を、ミルファム教会へ3人で向かうことになった。
早くケガした人のとこへ!
何だか…事件です…
無事解決に導けるかな…