32 できちゃった
「んぁ…?」
見慣れた部屋の天井が、いつものように見える。
今日は、体のだるさもほとんどない感じで、元気いっぱい♪
昨日1日、迷惑かけちゃった分、今日からまたがんばらなきゃ!
コンコン。
服を着替えてエプロンをつけてると、扉がノックされた。
「はーい。」
「あ、ミア起きてるのね。入って大丈夫?」
「だいじょぶですよー。」
扉を開けてマリーさんが入ってきた。着替え終わったあたしの頭のてっぺんからつま先までじーっと見てる。
何かちょっと恥ずかしい…
「おはよう。もう起きて大丈夫なの?」
「はい。元気ですっ!」
マリーさんが、あたしと自分のおでこにふれる。
「熱は引いたみたいね。でも昨日の今日よ?」
「でもでも、いつも通り元気ですよ?ぜんぜんしんどくないです。
ちゃんとお手伝いできます!」
「ふふっ、きっとお薬がちゃんと効いたのね。
わかったわ。それじゃお願いするわね。」
「わぁ…はいっ!」
よーし、昨日迷惑かけちゃった分までがんばらなきゃ!
「ただし…」
「は、はひ?」
「ちょっとでも調子がおかしかったら無理しないこと。約束ね。」
「はぅー…」
「返事は?」
「は、はいです…」
あたしの返事に、マリーさんは笑顔でうなずいてくれた。
そのあと、不意にぎゅって抱きしめられてびっくり。
「ごめんね…」
「マリーさん…?あたしの方がごめんなさい…迷惑かけちゃって…」
「ううん、ミアが元気になってくれて本当によかったわ。」
こうやってると、何かもっと元気が出てくる気がする…
けど、そろそろ準備に行かないとね。
「ミア、もう大丈夫なのかい?」
厨房に入ったあたしを見て、クルトさんもマリーさんと同じようにちょっとびっくりしてる。
「はい、元気いっぱいです!」
「そうか、それは何よりだね。でも、あまり無理して、またしんどくならないようにするんだよ。」
「あ…はいです!」
クルトさんもマリーさんと一緒だ。
迷惑も心配もかけちゃってごめんなさい、ほんとにありがとです。
そのあと、いつものように朝ご飯の営業。
常連さんたちから「もうだいじょうぶ?」って声もかけてもらえたの。
朝の営業も落ち着いた頃には、ユーリさんも来てくれたけど、あたしの回復ぶりにやっぱり驚いてた。
「2、3日続くかなって思ってたけど、元気になってよかったね。」
「はい、お薬ありがとーでした。」
「もう大丈夫みたいだけど、また調子崩しそうなら何か持ってくるから。」
「うー、にがいのもういいです…」
ユーリさんにも、マリーさんたちにも笑われちゃったけど、ほんっとににがいんだから…
お昼も過ぎて、休憩してもいいって言われたんだけど、元気が有り余ってる気がしたから薪割りさせてもらうことにした。
宿の裏で、いつものように薪割りしてると、いつの間にかネコくんが横で見てた。
「あれー、いつ来たの?」
「にゃー。」
宿の軒下で、ちょこんと座って…一応あたしのこと見てる…んだよね?
カコン、カコンと割り続けて、ある程度の量ができたところでまとめることにした。
縄で束ねて、順番に運んでく。
やっぱり束ねると重いよねー。
最後の1つの束を運ぼうとしたんだけど、前の2つよりちょっと重くて、いったん持ち直そうとしたら。
「いたっ!」
薪のとがってるとこで、指を切っちゃったみたいで、血がにじんできた。
うぅー、ちょっとざっくりやっちゃったかも…じんじんする…
しゃがみこんで、切った指の付け根をぐっとにぎってみたけど、なかなか止まらない…
「にゃっ!」
声に反応して顔を上げたら、ネコくんが目の前に。
じっとあたしの目を見てる。
…あれ?何かこんな状況見たことある気がする。
そうだ、昨日の夢…だったよね?
「また心配してくれたんだね…ありがとー。」
そういってネコくんをなでてびっくりした。
昨日の夢のように、ネコくんがぽやっと光り出す…
ううん、違う、ネコくんだけじゃない。
あたしも…一緒に光ってるんだ…
何で?!
不意に頭の中に言葉が浮かんだ…
ゼル先生に見せてもらったのと同じ、〈魔法語〉…
「〈優しき光、包み込み、その傷を癒す助けとなれ…《負傷治癒》〉」
体から何か少し抜けていくような感覚と、指の傷がほわっとあったかくなるような感覚を感じてあたしたちの光は消えた。
「今の、魔法…?できたの?
…ネコくん?!」
一瞬ボーっとして、指を見ると、傷はふさがってた。
魔法、使えちゃった…!
慌ててネコくんの方を振り向いたつもりだったけど…ネコくんはどこに?
「ミア、ちょっといいかなー?」
お勝手口が開いて、クルトさんが呼んでるのが見えた。
魔法のことは気になるし、ネコくんの行方も気になるけど、また会えるよね…あったら何かわかるかもだよね、きっと。
「はーい、この薪運んだらすぐ行きますー。」
今度はケガしないように慎重に運ばなきゃ…
ミアちゃん、才能開花?