2 いつもの朝
ゴンっ
という鈍い音とともに目の前がちかちかした。
「~~~~~っっ!!」
すっっごく頭が痛い…
涙眼を開いてみると目の前には床が…
「何かすごい音がしたけど大丈夫かい?」
外から声が掛けられた。
ここの女将さんのマリーさんだ。
「だいじょぶです~…」
ほんとはあんまりだいじょぶじゃないけど(泣)そう返事を返して
とりあえず床に座りなおす。
ベッドから落ちたのね…とほほ
でもひとつだけいいことが。
いつもあの夢を見た朝は、何か緊張してるときのような変な気分になったけど
今日は床と頭のケンカのおかげでそんな変な気分にはならなかった。
何かやなんだよね、あの気分。
とりあえず…
着替えてお手伝いに行かなきゃ。
ここは冒険者の宿と呼ばれる施設であたしはここに泊めさせてもらってる。
そもそも事の発端は、この宿の常連さんのグループがあたしを拾ってくれたところから始まる。
街道沿いの野原で、普段着で何も持たずにボーっとしているあたしを見かけたその人たちは
不思議に思って声をかけてくれたみたい。
そのときあたしは、いつもの夢から覚めてモヤモヤした気持ちにとらわれてた。
色んなことを聞かれたんだけど、頭がボーっとして何を聞かれてもちっとも思い出せなかったから
とりあえず街まで連れて行ってもらって、ここの宿に預けられた。
連れてきてくれた人たちの口利きもあって、居候させてもらえることにはなったんだけど
タダってわけにもいかないと思って、従業員として働かせてもらってるんだ。
だって、お金も持ってなかったんだもん…。
着替えも終わって、下に降りたらいつもどおりマリーさんは笑顔で迎えてくれた。
「おはよう、ミア。今日もしっかり頼むよ!」
そう、ここに来て1週間。あたしが思い出したのは、自分の名前…たぶん。
夢の中でそんな風に呼ばれていた気がするだけなんだけどね。
「マリーさんおはよーございます。今日もよろしくお願いします~」
と、深々とお辞儀。
ここで働きたいと言ったとき、少しだけびっくりしたマリーさんが、一番最初に教えてくれたこと。
「うちはお客様相手の商売だから、挨拶がとても大事。元気な挨拶ができない子は雇うつもりはないよ?」
と言われたから、精一杯の声で「よろしくお願いします!」と挨拶をしたら、笑顔でうなずいてくれたんだ。
「さて、それじゃそろそろ早い人たちが起きてくるから、テーブルの準備からね。」
「はーい!」
積まれたイスを降ろして、テーブルを拭いていく。
拭き終ったころには、お泊りのお客さんたちが起きだしている気配が聞こえてきた。
「ミア、厨房に行ってクルトの方を手伝ってちょうだい。」
「はーい!」
クルトさんはここのご主人さん。料理が上手でここの宿で出されるものは全部クルトさんがつくってる。
「クルトさん、おはよーございます。お手伝いきました!」
「おはよう、ミア。今日も忙しくなりそうだ…お皿の準備から頼むよ。」
そう、いつもご飯時は大忙し。そんなに大きな宿じゃなかったから、ずっと二人で切り盛りしてたみたいだけど、この忙しさを感じると、二人ともどんなにすごいんだろうって思っちゃう。
「ミア、ボーっとしてないで、できたものから運んでくれよ?」
「あ、ごめんなさい、すぐいきます~」
今日もいつものように、朝の食事戦争、開戦なのです。