26 お祭りの日に その2
今日は建国祭の2日目。
昨日の食堂は、夜もいつもよりお客様が少なくて、楽だったんだけど、お泊まりは満室になったよ。
今朝は昨日からの続きで屋台の準備も早いみたいで、朝ご飯を取らずにお祭りに向かうお客さんもいるみたい。
おかげで朝の食堂も、いつもより少し余裕があったんだ。
「今日も、お昼は閉める予定だったんだけど、私はギルドに行かなければならなくてね。」
「そうなんだ…。」
「だから、今日はわたしと2人だけど、一緒に回りましょ。」
「せっかくのお祭りなんだし、そんなにしょげないように。私の分まで楽しんで来てくれればいいよ。」
「うん、ありがとークルトさん。」
ちょっと残念だけど、お仕事じゃしょうがないよね。
部屋に戻って準備して、降りてきたときにはクルトさんはもう出かけちゃったあとみたい。
マリーさんと、戸締り確認して、いざお祭りに出発~!
今日もまずは広場まで行ってみることになったんだけど、大通りに出ると、もうすでに大賑わい。
「昨日よりも、人が増えてる気がしますー…」
「そうね。はぐれないように注意しなきゃね。」
マリーさんと手をつないで、大通りをゆっくりと進んでく。
屋台や露店も昨日より増えてるみたいで、みんなとっても楽しそう。
広場につくと、ステージには『力自慢!腕相撲大会』の横断幕がかかってる。
何人もの人がステージ上に立ってて、台の上で腕相撲してるのを、司会の人が盛り上げてるとこだった。
「あの人、おっきい声ですねー。」
「んー、多分魔法で大きな声にしてるんじゃないかな?
あらっ?ミア、ちょっと前まで行ってみましょ。」
何かに気づいたマリーさんに引っ張られて、人ごみの中を進んでく。
前の方まで来て、マリーさんが指さす方向を見ると、知ってる人がいた。
「あ、ラルフさんだ!」
「出てたのね。わたしに内緒だなんて、どうしてやろうかしら。」
急な言葉にびっくりしてマリーさんを見たけど、いたずらっぽい笑顔だったから、一安心。
そうこうしている間に、ラルフさんの順番になった。
名前が呼ばれて、相手の人と組んだところで、マリーさんがつんつんとつついてきた。
「はひっ?」
「ミア、ラルフのこと、応援してあげよっか。ふふっ♪」
「え、う、うん。」
みょーに楽しそうなマリーさん。
でも応援してあげるのはいい案だよね!
おっきく息を吸って、ステージに向かって叫んでみた。
「ラールーフーさーーん、がーんーばってーー!!」
声に反応して、ラルフさんがこっちを見てくれた。
司会の人が「かわいい応援団も来ているようです!」っていうと、会場がわーっとわきあがって…
あれ、ラルフさん、顔が赤くなった。てれやさん?
「ラルフー、負けたらわかってるわよね?」
っていうマリーさんの声に、今度はビクッてなるラルフさん。
「前置きが長くなってしまいましたが…」という司会の人の一声で、再びわきあがる会場。
そんなこんなで、勝負が始まったんだけど、ラルフさんは割と余裕で勝ってた。
そのあとも順調に2回勝ち進んで、次がいよいよ優勝決定戦っていうとこまできちゃった。
相手の人はラルフさんよりごっつい人で、ちょっとラルフさんピンチな感じ…
「さぁ、いよいよ今回のナンバーワンが決まるときがやってきました。
冒険者を引退し、鍛冶屋として新たに邁進するラルフか、それとも前回チャンピオンのギッシングか。
注目の一戦、レディ…ファイト!!」
司会の人の合図で、勝負は始まったけど、2人の腕はほとんど動かなかった。
それでも、お互いに全力の力を込めてるのは、ぱんぱんに張ってる筋肉が小刻みに震えてるので、見てる人にも分かったんだと思う。
会場は、今までにも増して盛り上がってるし、あたしも全力でラルフさんに声援を送ってるんだけど、当の2人はまだ動かないまんま。
ふっと横を見ると、マリーさんは静かに勝負を見てた。けどその表情はちょっと困った顔…?
会場の声がさらに大きくなったから、ステージを見てみたら、ラルフさんが少しずつ押されてた。
そのきつそうな表情を見てると、何だかあたしまで緊張してきた。
応援したいのに、声が出なくなっちゃったみたい…
そしてラルフさんはそのままじわじわと押されて、とうとう負けちゃった…
「勝者はギッシング、これで3連覇だ~~~!おめでと~~~ぅ!!」
司会の人の宣言で、会場はすごい拍手と歓声に包まれる。
ラルフさん、負けたのに笑顔で相手の人と握手してる。
悔しくないのかなぁ?
表彰式も終わってラルフさんがあたしたちの方に来てくれた。
「マリーさんもミアちゃんも、応援ありがとうございました。
来てるとは思いませんでしたけどね。」
「まぁ、いいじゃない。
それにしても、強くなったわねー。あのころとは大違いだわ。」
ふふっと嬉しそうに笑いながら、マリーさんがラルフさんの腕をぽんぽんって叩いた。
2人とも、負けたことをあんまり気にしてないみたい。
「ラルフさん、負けたのにあんまり悔しくないみたいですね?」
「ん?あぁ、今の俺の全力でぶつかった結果だからね。
悔しくないわけではないんだけど、それ以上に全力を出せたことがよかったかな。」
「ふみゅー…」
「ま、もちろん次は負けるつもりはないけどね。」
そういって、ラルフさんが見た先には、みんなに祝福され続けてるチャンピオンのギッシングさんがいた。
そのラルフさんの表情は、とっても楽しそうだった。
マリーさんは、そんなラルフさんを見ながらうんうんとうなずいてる。
よくわかんないけど、悔しいだけよりは、楽しい方がいいよね。
そんなラルフさんを見ると、何だかあたしもいろいろがんばろって勝手に思っちゃいました。
無事帰ってこられました。
累計2000PVありがとうございます!
お祭り、もうちょっと続きます。