24 いつもの朝?
「はれ…?」
いつもの朝。
いつものあたしのベッド。
いつものあたしの部屋。
いつものあたしの寝間着。
そう、おかしなところなんて何もない。
昨日の記憶がないこと以外は…
…
……
うん、順番に思い出そう。
昨日もいつもみたいににぎやかな夜だったよね。
わたわたと走り回ってお給仕してたよね。
酒屋のおじさんが配達に来てくれて、応対したよね。
そのあともお給仕したよね。
お客様が帰ったあとにお片付けしたよね。
あとはいつものようにお茶…
お茶したっけ?
とか考えながらちゃんと着替えてたんだよ。
準備完了!朝のお仕事いきますっ!
「あら、おはようミア。大丈夫?」
「おはよーございますマリーさん。」
…あれ?大丈夫って…?
「昨日は大変だったもんねぇ…」
「マリーさん…」
「ん?やっぱり調子悪い?」
「……すみません、何があったか覚えてません…っていうか、あたし何かしちゃいました…?」
マリーさんが苦笑い…してる、よね。
はぅー、何だろ…
「ミア昨日、お酒飲んだの覚えてない?」
「おさけ…ってあのお酒、だよね…?」
「もちろんそうよ。それでね…」
「お茶持ってきましたー。」
「ミア、ありがと。今日もお疲れ様。クルトは?」
「もう来ると思います。」
ミアが言い終わるか終わらないかというところで、クルトも食堂から入ってきた。
カップと、陶器のビンも持ってきているけど、どうしたのかしら?
「クルトもお疲れ様。」
「待たせたかな。」
「それは?」
「あぁ、酒屋の親父さんが持ってきてくれたんだよ。新しくつくったものの1つだそうだよ。」
「なるほど。試してみるのね。」
笑顔で答えて、クルトが自分の分とあたしにビンの中身を注いでくれる。
カップの中身は赤く透き通って、割と嗅ぎなれた香りがする。
「これ、紅茶?」
「みたいだね。リュートくんのアイデアかな。」
「あ、甘いんだ。割と飲みやすいわね。女性にも受けそうねー。」
うん、女の子のお客様も来るし、こういうのがあってもいいわね。
クルトもうなずいてるし、新メニューかも?
他の新作も気になるところだけど…
「クルトさん、あたしもちょっと飲んでみていい?」
「えっ?んー…ミアにはちょっと早い気もするけど…」
ミアの残念そうな顔に、わたしもクルトも弱いのよね…
「ちょっとくらいならいいんじゃない?」
「そうだね。でも無理そうならやめとくんだよ。」
「はいっ!」
この子、ほんとにうれしそうな顔するなぁ…
っと、カップ2個しか持ってきてなかったのね。
「ごめんね、カップとりに行くのも面倒だし、わたしの残りでもいい?」
「わーい、いたたきますー。」
カップを両手で持ったミアは、まずくんくんとにおいをかいでる。
何となく、ミアって子犬っぽいところがあるのよね。素直でいい子だし。
あ、ちびちび飲んでる。
「わ、甘ーい。おいしーかも!」
もぅ、そんなにニコニコして…って一気に飲んじゃった?!
「ミア、そんなに一気に飲んだら…」
「クルトさん、これすっごくおいしーですよ!」
…割とお酒強いのかしら?
横を見ると、クルトもちょっと驚いてるみたい。
「ま、ミアも飲めるくらいだし、新メニュー候補、かしら?」
「そうだね。ま、今日はもう休もうか。片付けだけしてしまうよ。」
「あ、わたしも手伝うわ。ミアは先に休んでていいわよ。」
「えー、お手伝いしますよー?」
ミアの気持ちは嬉しいけど、初めてのお酒も入ってるし、休ませてあげた方がいいわよね。
もうやる気満々でカップ重ねてるけど…
「いいから、今日は先に上がってね。」
「うー、はぁい。マリーさんありがとれす♪」
カップを取り上げたら(もちろんやさしくね?)、ミアも素直にうなずいてくれたし。
クルトも、先に持っていった分を洗ってるだろうし、洗うのと拭くのを手分けしてやったらすぐよね。
「よし、これで終わりっと。あれ、ビンは?」
「あ、まだ持ってきてないわ。取ってくるわね。」
ミアからカップだけ取り上げてそのまま持ってきちゃったから…
クルトがカップを棚に片付けてくれている間に行きますか。
「あれ、ミアまだいたの?」
テーブルに座ったままだったみたいだけど…
あれ、反応がない?
「ミア?」
「あ、まりーさん。ふあふあー。」
「ミア…ってあんた、酒臭い…」
「ごめんらさひー、びんがたおれれ…」
よく見たら、テーブルの上に倒れたビン、ミアはお酒まみれ…
で、酔ったってこと…?
「ミア、大丈夫?ちょっとべたべただし、流しに行ける?」
「かたづけましゅー…くぅー…くぅー…」
寝ちゃったし…やっぱりお酒は早かったかしら…
「で、体拭いて着替えさせて、クルトにベッドまで運んでもらったんだけど…」
「ごごごごめんなさいぃぃぃ…」
とんでもないことしてるあたし…
どうしよ…どうしたらいいの…?
「ミア、落ち着いて。大丈夫だから。ごめんね、わたしたちも飲ませちゃったんだし。
頭痛いとか、胸がムカムカするとかない?」
マリーさんがぎゅってしてくれたから、ちょっとだけ落ちつけたみたい…
「だいじょぶです。頭も痛くないし、ムカムカもしないです…」
「それならいいわ。じゃ、今日もがんばりましょ!」
「は、はい!」
次にあたしができることは…食堂まで駆けこむことだった。
「クルトさん!」
「あ、ミア、おはよう。大丈夫かい?」
「お、おはよーございます!だいじょぶです!」
クルトさんもマリーさんも、あたしの体調気にしてくれてる…ほんとごめんなさい。
「昨日はほんとにすみません!」
「ミアが大丈夫ならいいんだよ。今日もしっかり頼むよ?」
「はい!あ、食堂の準備まだだから先に行ってきますね。」
まだテーブルとか準備してなかったから、食堂に戻ろうとしたら、クルトさんが呼びとめた。
「あ、ミア、1つだけ…」
「はい?」
「しばらくお酒禁止。」
あうぅ…しばらく飲みたいなんて言いません…
「ところで、頭痛かったりしない?」
ミアちゃん、お酒に負けちゃうの巻でした。