21 眠らされた翌日
今日はちょっと朝から不機嫌なあたし。
原因は目の前にある、かわいい子。
朝、気がついたら、マリーさんに起こされてたの。
あたし、床で寝て…倒れてたみたい。
左のほっぺに、床の形がくっきりと残ってて、マリーさんが苦笑してた。
ぼーっとした頭で、こんなことになった原因を思い出そうとしたんだけど。
ふと眼をやると、あたしのベッドに黒いネコ…
食堂の準備をしながら、マリーさんに昨日の晩のことを思い出しながらしゃべってた。
のどがかわいてお水を飲もうとしたこと。
水差しに汲むのを忘れてたこと。
厨房のかめにもみずがなかったこと。(これ、実は毎朝新しい水をクルトさんが汲んできてたんだって。)
外に汲みに行ったこと。
そして部屋に戻ってお水を飲んだこと。
ここまではわりとはっきり覚えてたんだけど…
「そのあと、よく覚えてないの…」
「いるはずのないネコくんに、びっくりしたのかしらね…
それにしても、好かれてるわねぇ。」
ふふっと笑いながらマリーさんがそういったけど、あのネコくんのせいで一晩床で寝てしまったのなら、何か悔しい気がする…
朝のご飯時間も終わって、今日はマリーさんとクルトさんが2人で出かけてる。
何でも、冒険者ギルドからの依頼を、うちの宿でも扱えるようになるっていうことみたい。
よくわかんないけど…
あたしはお留守番。
お昼もあたし1人じゃ何もできないから、今日はお昼の食堂はお休みになってる。
休みでいいよって言われたんだけど…
誰もいない食堂で、なぜか黒ネコと一緒にいるあたし。
外したエプロンにじゃれついて遊んでるのを見ると、かわいいなって思う。
アルくんとメリーちゃんの迷子事件のときには、この子がいなきゃあたしは2人に会うこともできなかったし。
でもやっぱり…
「昨日のはひどいよねぇ…」
ぽつり、と呟いても、返事をしてくれる人は誰もいない。
マリーさんは、このネコくんの関わった話を全部わかった上で、
「そんなになついてるなら飼ってもいいんじゃない?」
って言ってくれた(昨日のことも含めていいっていうのは何だかなんだけど)けど、あたしは迷ってる。
ネコを、っていうか生き物を飼ったことはない(少なくともオボエテナイ…)あたしでも、飼うのは大変だろうって想像はできる。
ましてやここはお客様もくる冒険者の宿で、あたしは置いてもらってるだけなんだもんね。
あたしがそんなに悩んでることを知ってか知らずか、ネコくんはいつのまにかエプロンにじゃれつくのをやめて、エプロンにくるまって寝てた。
「もー、キミのことを考えてるのにぃ。」
ふぅ、そろそろお昼だよね。ちょっとお腹すいてきたし、ご飯にしよう♪
ネコくんは寝てるみたいだし、このままでも大丈夫だよね。
厨房に行くと、朝のついでにクルトさんがつくってくれたトマトのスープと、薄く焼いたパンがあった。
温めて、っていってたけど、1人分だし、火を起こすのももったいないからいいや。
…ちゃんと1人でも火は起こせるんだからね?
そのとき。
コンコン。
表の玄関をノックする音が聞こえた。
「はーい?ちょっと待ってくださいねー!」
おっきな声で返事をして玄関に急ぐ。
あ、ネコくんがびくっとした。
扉を開けると、フェリックスさんたちがいた。
「よ、ミアちゃん。マリーさんたちうわぉっ!」
急に叫んだフェリックスさんにびっくりしてると、駆けていくネコくん…逃げた?!
ま、いいよね…本人(?)の意思だし…
「びっくりした…わりぃ、逃がしちまった?」
「ううん、いいです。それよりどしたんですか?」
「あぁ、ちょっと挨拶にね。しばらく出かけることになったから。」
「にぅ…マリーさんとクルトさん、今日、冒険者ギルドにお出かけなんです。」
「あれ、そうなんだ。俺たちもさっきまで行ってたのになぁ。」
振りかえった先で、アリサさんとエリカさんと…もう1人男の人が…誰だろ?
あたしの視線に気づいたのか、フェリックスさんが紹介してくれた。
「新しく一緒にやってくことになった、レックスだよ。
レックス、この子はミアちゃん。ここのお手伝いな。」
「どうも、レックスっす。新しく『白を継ぐもの』に入れてもらったっす。」
「は、はぃぃぃ…」
手を取られてぶんぶんと握手されたもんだから、あたし目が回っちゃう…
「レックスくん、ミアちゃんがふらふらですよー。」
「はっ、申し訳ないっす!」
「だ、だいじょぶです…」
アリサさんが助け舟出してくれてよかった…。
「しょうがない、夕方出直すわ。マリーさんとクルトさんによろしく伝えといてな。」
「はい、わかりました。」
「それではー、ミアちゃんまたですー」
アリサさんが手を振ってる後ろで、エリカさんも手を振ってくれてた。
あたしも手を振って返す。
しばらく出かけるってことは、旅に出るのかなぁ。楽しいかなぁ?
また夕方くるみたいだし、どこに行くのか教えてもらおっかな。
と、そうだ。ご飯の準備中だったんだ。
…ネコくんはどこにいったんだろ?でもまたすぐに会える気もする、ね。
昨日の続きです。
ネタばらし?ばればれでしたよね^_^;