19 はじめてのお出かけ その2
「さてと、それじゃそろそろ行きましょっか。」
お弁当も終わってちょっと休憩もとって、リフレッシュできたし、どんどんいけそう!
バスケットも、お弁当の中身がなくなって、水袋も中身が減ってるから軽くなってるし。
「っと、そうだ。これつけといてくれる?」
そういってポーチから出したのは小さなベルだった。
ユーリさんも自分のかごにつけてる。
「これ、なんですか?」
「森は見通しが悪いから、動物もあたしたちに気づかずに出くわしてしまうことがあるのよ。
出会っちゃうと…ケンカになることもあるからね。こっちから音を出して、動物に注意してもらうためのものよ。」
「ほへ…」
わかったようなわからなかったような…とにかくバスケットにつけてみた。
動くたびに、カラコロ鳴ってる。
「ここから、しばらく川沿いに進んだら、ちょっと森の中に入るから、足元注意してね。」
川に沿って歩いて行くと、川が分かれてるところまで来たんだけど、ユーリさんはその川の細い分かれた方をたどっていくみたい。
生えてる木もだんだん増えてきて、ちょっと森っぽくなってきた。
「根っこに気をつけてね。変に踏むと、足痛めちゃうから。」
今までに比べると土は柔らかくて、たまに木の根っこが出てたりして結構危ない。
しっかり足元確認しなきゃ…
「いたっ!」
「ミアちゃん、大丈夫?」
ユーリさんが慌てて声をかけてくれる。
左手の甲に、赤い筋がついてた。枝を引っ掛けて、すっちゃったみたい。
下ばっかり見てて気付かなかったけど、低い木の枝も結構出てる。
「あぅー…」
「あらら、下も木をつけないといけないけど、前も見てね。」
そういって、腰のポーチからきれいな白い布を出して手に巻いてくれる。
うー、迷惑かけちゃってる…
「ごめんなさい…」
「気にしない気にしない、っていうか、あたしもちゃんと注意してあげれてなかったね。ごめん。」
「そんな、ユーリさんは全然悪くないもん。」
「ありがと。もうちょっとだから、がんばろうね。」
ふふっ、と笑ってユーリさんは歩き出した。
今度は前も注意しながらついて行く。もうケガしないんだから!
前を見て気付いたのは、少し薄暗い木々の間から、木漏れ日が射してること。
風が吹くと、光もさやさやっと揺れてる。何だか不思議な感じ。
前を見て、下を見て、また前を見て…忙しい。けど、ちゃんとついていけてる。
…あれ、もしかして、ユーリさん、ゆっくり進んでくれて…る?
「ユーリさんもしかし…」
「さぁ、ついたわよー!」
あたしがしゃべろうとしたときに、ユーリさんがそう言った。
すこし開けたその場所は、泉になっていて、たくさんの草が生えてた。
「すごーい、きれーい…水の上にも生えてるんだ。」
「ここで摘んでいくから、ちょっと待っててね。」
そういうと、ユーリさんはブーツを脱いで、裾をまくって泉に入っていく。
なれた手つきでハーブを選んで摘んでいく姿は、さすがって感じだった。
「あ、ミアちゃん、さっきのケガ大丈夫?」
巻いてもらった布を外すと、赤く筋になってはれてる…。
でも、傷にはなってないみたい。よかった♪
「だいじょーぶです。傷にもなってなかったみたい。」
「そっか、よかったね。こっちももうちょっとだから待っててね。」
そういいながらも手早くハーブを摘み取ってはかごに入れていくユーリさん。
そのまま入れてるのもあれば、ぬれた布に包んでいるのもある。
いろいろ違うんだねー…
「これくらいでいいかなっと。ミアちゃん、おまたせー。」
ユーリさんは泉から上がると、手足を拭いてブーツを履いていく。
持ってきたかごは、まだまだ余裕がありそうだけど…
「ユーリさん、まだまだ採れそうだよ?」
「あ、うん、でもね…全部摘んじゃうと、次から採れなくなっちゃうからね。
ちゃんと残しておかなきゃだめなのよ。採りすぎて使えなくなってももったいないし。」
「ふーん…」
「あともう1か所回りましょ。ミアちゃん、もういける?」
「いけまーす。」
泉を後にして、また森の中を進んでいく。
カラコロとなるベルのおかげか、動物たちに出くわすこともなかった。
「はい、次はここ。」
「ほぇ?…ここ?」
今度は一見何もない森のはずれ近く…だけど。
「ほら、この木をよく見て…」
ユーリさんが指さしたあまり大きくない木には、青紫色の実がなってる。
これ、市場でも見たことがある…甘酸っぱいやつ?
「すごいでしょ。お茶の材料にもなるけど、ミアちゃんもお土産に少し摘んでったらどう?」
「わーい、そうしますっ!」
いくつも生えてるその実から、おいしそうな大粒を選んで摘んでいく。
左手いっぱいになったところで、ちょっと困っちゃった。
「ミアちゃん…何してるの?」
「あ、もうもてない…です」
「…背中に背負ってるの何だっけ…?」
ユーリさん、必死に笑いをこらえてるけど…
あ。バスケットがあるんだった…
ユーリさんに照れ笑いで返しながら、バスケットを開けた。
ちょうど、お弁当を包んでいたナプキンがあるから、摘んだ実を包んでおく。
もうちょっとだけとって、終わりにしようかな。これも採りすぎるときっとだめだよね。
あたしが摘み終わる頃には、ユーリさんも採った分をかごに詰め終わってた。
「さて、それじゃそろそろ帰りましょ。夕方までには街に戻れるわ。」
「はーい。」
帰りはそのまますぐに森を抜けて、原っぱを歩いてく。
たくさん歩いたけど、楽しかったなぁ…
ボーっと歩いてたら、ユーリさんがふと思い出したように声を上げた。
「あ…」
「ユーリさん、どしたの?」
「帰りにお花摘んで帰るって言ってたのに、違う道で来ちゃったなって…ミアちゃん、ごめん!」
「あ…そういえば…」
うん、そんなこと言った気がする…けど、今日は盛りだくさんであたしもすっかり忘れてた。
申し訳なさそうな顔のユーリさんを見てると、何だかあたしの方が申し訳ないよー…
「ユーリさん、だいじょぶ。あたし、今日ほんとに楽しかった!
だから、お花のこと忘れてたよー、えへへ。」
「そう?ほんとごめんね。今度また機会があれば連れて行くから。」
「え、いいの?!…あ、でもあたしと一緒じゃいろいろ時間かかったり大変じゃ…」
「ううん、あたしも楽しかったし、またミアちゃんと行きたいって思ってるから。
もちろん、ミアちゃんが嫌じゃなければ、だけどね。」
そういって微笑むユーリさんの腕にぎゅってして、あたしたちは帰り道を歩いていきました。
マリーさんもクルトさんも、おみやげ喜んでくれるかな…?
青紫色の実、イメージはブルーベリーです。