16 忙しい夜 その2
扉がノックされて、アリサさんが入ってきた。そしてもう1人、フェリックスさんも一緒だった。
「こんばんはー。遅くなりましたー。」
「こちらこそ、遅くにお願いしちゃってすみません。飲み物を用意し来るので待っててくださいね。」
「アリサ、遅くにごめんね。リックはどうしたんだい?」
「一応夜だし、ラルフんとこの手伝いで一緒にいたから送ってきたんだよ。」
アリサさんとフェリックスさんをテーブルに案内し、マリーさんにお任せして厨房に戻る。
厨房ではクルトさんがすでにお茶の用意をしてくれていた。
「クルトさん、ありがとー。」
「うん、それじゃ持って行ってあげようか。」
お茶の用意を持って、食堂に戻る。
もしかしたらこれであたしの記憶が戻るかもしれないって思うと、どきどきする。
けど何だか不安に感じてたりもして、何か落ち着かないよ…。
あの日、マリーさんとクルトさんに話してみたんだけど。
「それで、ミアはどうしたいの?」
っていうマリーさんからの問いかけに、あたしは困ってしまった。
いろんなことをいっぺんに考えようとしたのが悪かったんだって今なら思うんだけどね。
そしたらクルトさんが「1つ1つ考えてみようか。」って提案してくれた。
「ミアは記憶が戻ってほしいのかな?それとも戻ってほしくないのかな?」
「それは…戻ってきた方がいい…って思う…」
「何かあいまいな言い方になってるけど、気になることがあるのかな?」
「ん…」
また詰まってしまう。
何か大事なことがわかるかもしれないから記憶が戻ってほしいっていうのはあたしの本心。
だけど、今の生活はとっても楽しくて、マリーさんやクルトさんや、他のいろんな人たちもやさしくしてくれてて。
今をなくしたくないっていうのもあたしの本心。
だから、記憶が戻ってほしいし、戻ってほしくない、なんて変なことを考えちゃってる。
「ミア、いろいろ不安もあると思うけど、あんたがここで過ごしてきた日々がなくなるわけじゃないんだよ。記憶が戻っても、戻らなくても、ミアはミアなんだから。」
「マリーさん…!」
前もびっくりしたけど、今度もびっくりだった。あたしの心なんかお見通しなのかな…。
「ミアが望むなら、マリーも私も、ミアがここにいてくれるのには大賛成だよ。」
「クルトさん…」
2人やさしい微笑みが、2人のあたしへの気持ちがすごく感じられたから、あたしは決心することができたんだ。
「さてー、それでは今から魔法をつかいますねー。
この魔法はー、ミアちゃんがー、受け入れてくれないとー、効果が発揮できないんですー。
気持ちを楽にしてー、受け入れてくださいねー。」
そういうと、アリサさんは着けていたペンダントを両手で包むようにして目をつむり、集中しはじめた。
アリサさんの両手が、柔らかな白い光に包まれていく。
「《精神探査》」
アリサさんの口が言葉を紡ぎ出すと、柔らかな白い光があたしの方に伸びてきた。
その光が到達した瞬間に、あたしの体全体が白い光に包まれる。
それをみてアリサさんがちょっと驚いたように目を見張ったような気がした。
そして次の瞬間。
光がパッと消えた。
「あららー?」
「どうしたアリサ、失敗か?」
「いえー、魔法自体は成功していたんですがー…」
ちょっと考えるようなそぶりを見せて、アリサさんがあたしの方に向き直った。
「あ、ごめんなさいねー。ぼーっとしちゃって。
「は、はい、それで…」
「結論から言うとですねー…失敗しましたー。」
ふぇ…?!ってことは…記憶戻らないってこと…?
あ…フェリックスさんがずっこけてる…
マリーさんとクルトさんも固まってる…
「ただー…」
「は、はい?」
「何か封印…か、呪い、のようなものがー、関係しているみたいですねー。
あたしの魔法よりもー、強い力で遮断されちゃいましたー。
まぁ、記憶以外にー、影響しているわけでもなさそうですよー。」
はぁぁぁ~~~~っ、何か気が抜けちゃった…
マリーさんとクルトさんの方を見ると、2人とも疲れてる感じだったけど笑ってくれた。
「封印か呪い、か…俺たちも何かわかったことがあれば、連絡するようにするわ。」
「あぁ、それじゃ頼んだよ。アリサもまたお願いね。」
フェリックスさんの一言に、マリーさんが答えて、固まってた場が動き出したようだった。
「それじゃ俺たち、ラルフんとこ戻るわ。」
「お役に立てなくて、すみませんー。」
フェリックスさんとアリサさんが席を立ったので、3人でお見送りに出た。
「アリサさん、わざわざありがとーございました。」
「あ、わすれるとこでしたー。」
「はい?」
「ミアちゃん、白色魔法の素質があるみたいですよー。」
「ほへ…?」
「あたしの魔法にー、共鳴してたから、たぶん間違いないと思いますー。それではおやすみなさいー。」
さらっととんでもない一言を残してアリサさんはフェリックスさんと去っていったんだけど…
固まってるあたしの両手を、両側からやさしい手が包んでくれた。
そんな2人に、あたしも笑顔で答える。
これからもよろしくお願いします!そんな気持ちを込めて。
宿に入ろうとしたとき、いつの間にか聞きなれた「にゃー」という声が聞こえた。
少し量も多めになりましたが、これでこの晩のお話は一区切りです。
初の2本立てはなかなか忙しかったです^_^;