126 海辺の町にて その2
「さて、はじめようか。」
夕食が終わって、一息ついたところでいよいよ打ち合わせをすることになった。
ギルドが手配してくれたこの宿は高級なところみたいで、みんなで集まって打ち合わせできるような部屋もちゃんと用意してくれた。
何か、大事な話とかをするのにつかわれるような、しっかり守られてるところだって言ってた。
エリカさんと手分けして、みんなのお茶を用意して、あたしも自分の席に座った。
足元にはもちろんミディアドーレが、そして肩にももう1匹…白い鳥、セルヴィアナさんの使い魔のレアトキステスさんがいる。
それにしても急に来るからびっくりしたよ…
---◇---◇---◇---
「な、何か…乗ってる…?!」
港で不意に感じた頭の重み、それは…
(申し訳ありません、目測を誤りました…)
(…レア、失礼だぞ。
主の…頭…の上…など…)
「レアさん?
っていうか…ミディ、笑ってるでしょ…」
(いえ…決してそのような…っ)
むー、絶対笑ってるし。
とにかく両手でレアさんをつかんで下ろしてあげると、何やらポーチのようなものを下げていた。
レアさんより一回り小さいくらいのポーチは、きっとレアさんには大きすぎるんだろね…
「何か…たいへんそだね…
そのポーチ、持つよ?」
(いえ、大丈夫です。
無様な姿をさらしてしまいました…)
言葉では大丈夫って言ってるけど、相当疲れてるっぽいレアさんを連れて、あたしたちは宿に戻った。
エステルさんがぽつりと、伝書鳩ってつぶやいたのは、疲れてるレアさんには聞こえなかったみたい。
---◇---◇---◇---
とまあ、そんなわけでレアさんも一緒に打ち合わせに参加中。
ちなみにしばらくあたしについていくようにって言われたみたい。
ミディアドーレと同じように、自分の使い魔として扱ってくださいって言ってたけど、あんまり扱いってわかんないんだよね。
「では、[根源たる色彩]入手についてだが…
なるべく急いだ方がよさそうなので、当初考えていた通り、組分けして探していこうと思うが、異論はあるかな?」
フィランダーさんの質問に、誰も口をはさまない。
みんなを見渡して、ふむ、とうなずいたフィランダーさんが言葉をつづけた。
「チームワークもあるだろうし、それぞれのグループで動くのがベストだろう。
あとは…ミアさんがどちらに入るかだが…」
その言葉に全員の視線があたしの方を向いた。
ちょっと怖いです…
(ティスミア様はみなさまとは別行動ではどうでしょうか?)
「んー……ええっ?!」
レアさんが急にとんでもないことを言うものだから、しばらく理解するのに時間がかかったけど…
別行動って…どーゆーこと…
(主よ、皆が驚いておりますが…
レアトキステス、どういうことだ?)
(失礼しました。
残り4つのうち、1つは既に所在がわかっております。
みなさまが2組に分かれて行動されるということならば、ティスミア様が残り1つを目指せば一度にすべてがそろいます。)
「あー…えと、まぁそうだけど…あたしだけで何とかなるの?」
(もちろん、わたくしもお供させていただきます。)
「お供って言っても…」
最後まで言葉をつづける前に、レアさんがあたしから飛び立って地面に降りた。
その瞬間、赤と青のまぶしい光が部屋を覆い尽くしたような気がした。
「うわっ!」「何だ一体?!」「きゃー!」「何のー、光ですかー。」「じじじ事故っスか?!」
いろんな声が響き渡る中、あたしの耳にはミディアドーレの声が聞こえた。
(相変わらず派手なことだ…)
光が収まって、だんだんとまた見えるようになってきた。
みんなも同じような感じみたいで、まぶたの上からマッサージしたり、目をぱちぱちしたりしてる。
「失礼致しました。」
レアさんの声が聞こえた。
ただ、さっきまでよりもはっきりと聞こえるような気が…
「先にティスミア様を通じて注意しておくべきでした。」
声の方向を見ると、白い鳥が…いなくて、見たこともない女の子が立ってた。
真っ白な服でそろえられていて、あたしよりもまだちょっとちっちゃいくらいの女の子。
「え、と…レアさん…?」
「はい、この姿であればティスミア様のお供として、お役にたてると思います。」
お役に…って、言われても…うーん…
困ってしまってミディアドーレの方を見た。
(おそらくセルヴィアナ様から、主の手助けになるようにと言われたのでしょう。
実力に関しては、問題ないでしょうし…)
「これからもよろしくお願いいたします。」
「は、はぁ…」
とにかく、状況をみんなに説明しなきゃね…
そんなわけで、レアさんのことを改めて紹介して、その提案をみんなに伝えたんだけど、みんなはあたしとレアさんの2人(ミディアドーレも一緒なんだけど…)では…って、ちょっと困ったような感じだった。
だけど、レアさんがいくつか見せた技と魔法で実力はわかってもらえたのと、やっぱり急がなきゃってことで何とか納得してくれた。
「まあ、フェリックスくんたちはこちらの大陸の[輝ける緑]を探してくれ。
我々はミアさんと共にアンフィト大陸へ戻って[永久なる青]を探そう。
ミアさんたちは[純粋なる黒]だな。
とにかく、我々が一緒にいる間に、しっかりと覚えていただかなくてはな。」
「はい、お願いします。」
そう、一応これが条件だった。
アンフィト大陸に着くまでに、旅をする(こと以外にも何も知らないけど)上で、最低限必要なことを身につける、それができていなければ、あたしはフィランダーさんたちと一緒にいく、ということになったんだ。
「あとは…現地でちゃんと見つけられるか、ですね…」
地図につけられた印を見ながら、クレメンテさんがつぶやいた。
[揺らめく赤]を見つけたときは、情報があったからそんなに苦労はしなかったっていってたけど…
「それは問題ないかと思いますが…」
「え?問題ない…って」
クレメンテさんが思わず聞き返してしまったのは、レアさんの言葉だった。
みんなもレアさんの方に注目する。
「[無垢なる白]と[揺らめく赤]の所有者であれば、近づけば他の武具を感じることができるはずです。」
「へぇ…そんなこともできるのか。」
まるで他人事のように答えるフェリックスさんに、エステルさんが「所有者の自覚、なーし!」なんてつっこむから、みんなちょっと笑ってしまった。
レイアさんがビクッとなってたけどね…
先にやり方を教えるからってレアさんに言われて、フェリックスさんとレイアさんは部屋に武器を取りに戻った。
それを見送って、フィランダーさんがレアさんに質問した。
「それで、フェリックスくんとレイアがいるから2か所はともかく、もう1か所はどうするつもりなんだ?」
「心配には及びません。
ティスミア様は今までも方向を感じ取っているわけですから。」
「ああ、それもそうか。
俺も鈍ったな…」
ぽりぽりと頭をかくフィランダーさん、いつもクールなのにちょっと照れた感じが…何だかちょっと少年っぽくてかわいかった…何て失礼だよね。
少し待ってると、フェリックスさんとレイアさんがそれぞれ武具を持って帰ってきた。
レアさんが2人に説明をしているのをぼーっと見てると、あたしが方向調べでやったことと、だいたい同じような感じみたい。
ただ、ある程度近くないと分からないってとこは違うみたいだけど。
「今はお互いの武具がすぐそばにあるので、それを感じてしまってわかりづらいかとは思いますが、実際に求める武具の傍まで行けば、問題なくわかると思います。」
「うん…魔法を使うときと同じような意識の集中でできるから、わたしは大丈夫だと思います。」
レアさんの言葉にレイアさんがうなずいて答え、フェリックスさんの方を見る。
フェリックスさんは、剣を握りしめたまま、ふーむ…とうなってばかりだけど。
「魔法って言われても、俺は使ったことがないんだよなあ…
まー、多分大丈夫だろ…」
「はい、手順として誤りはないですし、失敗するものでもないと思います。」
多少不安なフェリックスさんの返事に、レアさんが淡々と答える。
あんまり感情が出ないのかな?
もうちょっと笑ったりするとかわいいのにな…
「では、他に何か付け加えることはないか?
なければ今日はこれで終わりにして…」
「申し訳ありません、1つ大事なことを忘れておりました。」
思い出したようにレアさんが手をあげて、フィランダーさんの言葉をさえぎった。
みんなもレアさんに注目する。
「実は、これを皆様にと預かっておりました。」
そう言って、腰のポーチ(鳥の姿で持ってきてたやつだね)から何かを取りだした。
でてきたのは小さな筒か何かかなって思ってたんだけど、どう考えてもその小さなポーチに入らない長さの、きれいに装飾された、2本の短杖だった。
レアさんはそれをフィランダーさんとフェリックスさんに渡す。
「おそらく、武具の周りには封印が施されていると思います。
その短杖には、封印を解く力が込められています。
能力は折り紙つきですので。」
「なるほど…[揺らめく赤]のときは封印を解く手筈を整えて向かったからな…
その準備が不要になるのは大きいな。」
フィランダーさんが受け取った短杖をしげしげと見つめてそう言った。
一方のフェリックスさんはというと…
「そりゃまあ、天界の物ともなれば、相当のものなんだろうな…
アリサ、頼むわ。」
そう言って、アリサさんに短杖を渡す。
アリサさんは、もー、リックはー…とかいいながらちゃんと受け取ってるんだけどね。
「他には…もうないな。
それでは明日、ギルドと打ち合わせをして、明後日にはここを立とう。
朝のうちに打ち合わせをすませれば、昼以降は各自準備に時間を使うといいだろう。」
フィランダーさんの言葉に、みんなそれぞれに返事をして席を立っていく。
明日も半日、街をまわれるみたいだし、何しようかな…