124 旅立ちの日に
「う…んぁ…
あれ…?」
目が覚めたとき、あたしは1人だった。
昨日は確かマリーさんと一緒にベッドに入ったはずなのに…
(おはようございます。
お目覚めですか?)
「ミディ…?」
(まだ少し寝ぼけておられるようですね。
神族も、こちらで肉体を持つと、睡眠が必要、ということでしょうね…)
ミディアドーレが何か言ってるのが聞こえるけど、まだ頭がうまく働いてないみたい…
とりあえずベッドから出て、自分の部屋に戻ることにした。
マリーさんたちの部屋を出ると、厨房でもうクルトさんが準備を始めてる音が聞こえた。
あいさつしておこうと思って、厨房の入り口から顔をのぞかせる。
「おはよーございます。」
「おはよう、今日はこっちはいいから、身支度を整えておいで。」
「はい、ありがとです。」
「ご飯の準備はもう整うから、準備ができたら降りてくるといいよ。」
「じゃ、準備してくるね。」
じゃまになるといけないしさっさと準備しにいこうと、食堂のほうへ抜けると、カウンターにマリーさんがいた。
カウンターの内側を整理してたみたいだけど、あたしに気が付いたみたい。
「あら、おはよう。
しっかり眠れたかしら?
早く準備しないとおいていかれちゃうかもしいれないわよ?」
「マリーさん、だいじょぶなの?」
心配になって思わず聞いちゃったけど、なんだか元気いっぱいって感じがする。
「大丈夫よ。
それより、ちゃんとあいさつしてほしいな。」
「あ、うん…おはよーございます。」
「はい、よくできました。
さ、早く準備してらっしゃいな。」
マリーさんにうながされて、2階へ上がったけど、なんだかちょっとびっくりしちゃった。
でも、元気になれたのならうれしいな。
部屋に戻って、掛けてあった新しい服に着替える。
長い旅になるだろうし、丈夫な服のほうがいいだろうってことで作ってもらったものなんだけど、いつもと違う服だから、何だかぎこちない感じがしちゃう。
靴もしっかりしたブーツで、少しは慣らしたつもりだったけどまだちょっと硬いかな…
持っていかなきゃいけないものは、もう大体詰め終わってるし、脱いだ服だけしっかりたたんでおけば、準備完了。
「ミディ、お待たせ。
下に行こ?」
いつの間にかベッドで丸まってたミディアドーレに声をかけると、返事はなかったけどあたしの足元まで降りてきた。
扉を開けると、そのすき間からさっと出て外で座って待ってる。
ミディアドーレに続いてあたしも部屋を出て、カギをかける。
しばらくはこの部屋ともお別れ、かな。
「ミアちゃんー、準備できたみたいですねー。」
「アリサさん、おはよーございます。」
「おはようございますー。
エリカもー、もう出てきますしー、そしたらー、降りましょうー。」
「そですね。」
すぐにエリカさんも出てきたから、3人で1階に降りていくと、もう朝ごはんの準備ができていた。
マリーさんが動いているのを見て、アリサさんとエリカさんが駆け寄っていく。
「2人とも、おはよう。
しっかり眠れた?」
「おはようございますー。
マリーさんはー、体の方はー、もうー、大丈夫なのですかー?」
「ええ、おかげさまでね。
宿の方もそろそろ本格的に復帰しなきゃいけないし。」
「でも…無理しちゃ…ダメ…です。」
「あら、ありがとエリカ。
ちゃんと体のことも考えて、急に前みたいに、なんてことはしないわよ。
さあ、みんな座ってちょうだい。」
マリーさんにうながされて、アリサさんとエリカさんが席に着いた。
当のマリーさんは、1つ横のテーブルのイスに座ってる。
一緒にご飯食べるんじゃないのかな?
あたしもエリカさんの横に座ろうとしたら、マリーさんの楽しそうな声が聞こえた。
「あらあら、ミアもなかなか様になってるわね。
まさか、ミアが冒険に出るなんて考えたことなかったけど、何だか自分のこともいろいろ思い出しちゃうわねー…
ちょっとそこでくるっと回ってみて。」
何だかちょっとはずかしいけど、言われた通りその場でくるっと一回り。
「問題なさそうね。
ま、ちょっとくらい問題が出たとしても、アリサやエリカがいれば大丈夫よ。
先輩たちをしっかり頼ってね。
2人とも一流なんだから!」
マリーさんの視線の先では2人とも苦笑してたけど、旅なんて何もわかってないあたしにはとっても心強い先輩たちだもんね。
そんな感じでいろいろやってたら、そのうちにみんなも集まってきてご飯が始まった。
いつもと同じような朝ご飯だけど、今日でしばらくこの朝ご飯とはお別れになるんだなって思ったら、何だかちょっとだけ寂しい気持ちになっちゃうな。
ご飯が終わって一息ついたころに、宿の扉がノックされる音がした。
クルトさんがさっと扉に向かって応対してくれる。
「出発の準備が整ったみたいだよ。」
その声に、みんなそれぞれ荷物を持って立ち上がる。
ちょうどマルハウに向かう商隊があるから、同行させてもらうことになってるみたい。
あたしも自分の荷物を背負って玄関へ向かう。
玄関を出る前に振り返る。
出発するあたしたちはたくさん、そしてお見送りしてくれるのはマリーさんとクルトさんの2人、何だかいつもよりも宿が広く感じられた。
「本当は門まで見送りに行きたいところなんだけど、宿のこともあるからここで申し訳ないね。
とにかくみんな、気を付けて行ってくるように。
帰りの連絡があれば、また腕によりをかけたご飯を用意しておくからね。」
「リックたちもフィランダーさんたちも、ミアをよろしくお願いします。
無事に目的を達せられるように祈ってるわ。」
2人の言葉にみんながしっかりとうなずいてる。
足元ではミディアドーレまで。
って足元に気を取られたら、急に目の前が真っ暗になってびっくりしたけど、マリーさんがぎゅっと抱きしめてくれてた。
「ミア、ちゃんとまた帰ってくるのよ。
わたしもクルトも待ってるからね。
気を付けて行ってらっしゃい。」
「うん、行ってくるね。」
あたしの腕にもぎゅっと力がこもる。
ちょっとのお別れのはずなのに、とっても寂しい気持ちがあふれてくる。
でも、あんまりみんなを待たせちゃいけないし、名残惜しいけどマリーさんと離れた。
がんばってちょっとでも早く帰ってこれるようにすればいいんだよね。
よーし、やるぞー!
「マリーさん、クルトさん、行ってきます!」
あたしの声をきっかけに、みんな宿から出ていく。
外は青空、いいお天気でまさに旅日和かな?
たくさんの先輩たちと、心強い黒猫さんと一緒に、いざ出発です!