120 出発に向けて その1
「では、[根源たる色彩]を集めて回る旅に出るわけじゃな?」
オーウェルさんの問いかけに、あたしは力強くうなずいた。
ここは魔法士ギルドのギルド長室、今日来たのは、今後どうするか決めたら教えるっていう約束を果たしに来たからだ。
それぞれ準備があるからってことで、今日はもうみんなバラバラで動いてる。
アリサさんは魔法士ギルドまで一緒に来てくれたけど、やることがあるからって入り口で別れたんだ。
だから、一緒にいるのはミディアドーレだけ。
ちょっと不安だけど、あたしの口からちゃんと説明しなきゃってことで、何とか説明を聞いてもらったところでさっきの問いかけがあったってわけなんだ。
「しかし…大変な話じゃぞい…
白と赤はそばにあるとして、黄はエルメート帝国の宝物だというが…他の3つに関しては、何一つ情報がないではないか。」
「[根源たる色彩]のある場所…っていうか方向は、あたしの力で調べられるんです。
それで、離れた別のところでもう一度調べれば、場所の特定ができるってクレメンテさんが…あ、クレメンテさんはレイアさんと一緒に冒険してる人で…」
「ほうほう、それならばうまくいきそうじゃの。」
あたし自身、あんまりよくわかってないことを、オーウェルさんも、一緒に聞いてるギルドの偉い人たちもうなずきあってるから、何かうまくいくんだよね…
(さすがに魔法士ギルドのお偉方、すんなりと話が通じますね。)
「それ、どーゆーこと?」
ちょっとにらんで小声でミディアドーレの言葉に答える。
まあ、わかってないのは事実なんだけど…
「それで、出立はいつになるかの?」
「えと、みんなの準備をする時間を考えて、数日後になると思います。」
「ふむ。
とにかく聞いた通りじゃ。
ジョルジュ、本山への連絡を頼む。
パスティスとネイルは準備をしてくれ。
テューリは冒険者ギルドへの連絡じゃ。」
オーウェルさんがてきぱきと指示を出すと、みんなうなずいて部屋を出て行った。
何か大事になってきてるよね…
「それではミアさんや、出発の日程が決まり次第また連絡をお願いしてもよいかの?」
「はい、わかりました。」
「うむ、よろしく頼んだぞい。
こちらもできる限りの援助ができるように手筈を整えておくからの。」
「ありがとうございます。」
「ほっほっほ。礼を言うの話きっとワシらの方じゃな。
ミアさんがこれから行うことを考えると、な?
さて、あとは先程テューリに指示を出しておいたが、ミアさん自身も冒険者ギルドに顔を出しておいてもらいたいのじゃ。」
何でも、魔法士ギルドだけじゃなくて冒険者ギルドの方にも全面的に協力を依頼してくれたみたい。
それで、あたしが直接話をした方がわかりやすいところもたくさんあるだろうってことだった。
オーウェルさんに別れを告げて、魔法士ギルドを出たあたしたちはそのまま冒険者ギルドに向かうことにした。
「何だか大事になってきたねー。」
(主よ…その言葉は今更だと思いますが。)
「んー、そっか。
確かにもう大事だっけ。」
(まったく…もう少し自覚してください。)
「むー、わかってるよー。」
だいぶお日様が高くなってきたのを見ながら、冒険者ギルドへの道を歩いてく。
広場もだいぶ落ち着きを取り戻してて、露店なんかも出始めてた。
みんなが協力してるからだけど、あっという間に直っていく街は、襲撃なんか感じないくらいに元気があふれてる。
またあんなことが起こらないようにするために、あたしは、ううん、あたしたちはがんばるんだよね。
賑やかな街並みを見ながら進んでいくと、あっという間に冒険者ギルドに着いちゃった気がする。
ギルドの中には人がたくさんいた。
受付の列も長いなあ。
今日は受付も人がたくさんで、列は4つあった。
その1つにリゼルさんが座ってるのを見つけて、あたしはその列に並ぶことにした。
列に並びながら周りの人の話を聞いてると、冒険者さんもいっぱいみたいだけど、お仕事の依頼に来た人も同じくらいいっぱいいるみたいだった。
「あの…ミアさんでしょうか?」
ぼーっと並んでると、不意に声がかけられた。
「はひ?」
振りかえると、男の人が不安そうにこっちを見てる。
でも…知らない顔だよね。
「あ、リゼルさんに教えていただきまして…」
と、男の人は受付の方を見る。
あたしもそっちを見ると、リゼルさんが小さく手を振ってくれてた。
「魔法士ギルドの方から連絡をいただきまして、奥の方へお願いします。」
「あ、はい、よろしくお願いします。」
男の人に連れられて、受付の横からギルドの奥の方へと進んでく。
通された部屋は、応接室みたいで、掛けて待っていてくださいって言われたんだけど、ちょっと豪華なソファーだから緊張しちゃうな。
でも、立ってるのも変かなって思って座ったら、横にぴょんとミディアドーレが飛び乗ってきた。
「ミディ…何か豪華そうだし、あたしの上に乗らない?」
(別に私は汚れていませんが…)
と言いながらも、あたしの膝に乗っかって丸まった。
何となくなでなでしてしまったけど、別に嫌がるでもなかったから、いいってことだよね。
しばらく待ってると、扉の向こうでパタパタと誰かが走ってくる音がして、扉が勢いよく開いた。
「すみません、お待たせしてしまいまして。
ああ、申し遅れました。
私、冒険者ギルド・タレイア支部長のオットーと申します。」
入ってきたのはすらっとしたおじさんだった。
でも、すっごい鍛えてそうな感じで、筋肉とかすごいなあ…って、ぼーっと見てたら、ミディアドーレがにゃっと鳴く声が聞こえた。
はっとして、立ちあがったらミディアドーレはうまく飛んで着地してくれてた。
「あ、えと、ミアです。
よろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくお願いします。」
そういってオットーさんは右手を差し出してきた。
おずおずと手を出して握手すると、オットーさんは手をぶんぶんと振って握手したからちょっと体ががくがくと揺れちゃったよ。
「ああ、失礼、とにかくお掛けください。
魔法士ギルドの方から連絡をいただいて、本部と連絡を取っていたのですよ。」
「連絡…ですか?」
「はい、今回のミアさんたちの旅を最大限サポートさせていただくための準備をしておこうとおきまして。
魔法士ギルドからの依頼通り、各冒険者ギルド支部へと連絡が行っているので、今後新たな街に立ち寄られたときには、ギルドの方へ顔を出していただければと思います。
宿の手配はもちろん、必要な物品があればすぐにそろえることができると思いますので。」
「は、はひ…」
「あと、ミアさんは冒険者登録はしていただいているようですが…そうそう、うちのリゼルが失敗したという話も聞いていますよ。」
はっはっは、と笑いながらしゃべり続けるオットーさんの勢いに、あたしは完全に押されっぱなしだった。
「まだ長期の旅などは未経験なようですので、必要なものを一式こちらで用意させていただきます。
まあ、『白を継ぐもの』と共に行動するなら何も問題はないでしょうが。」
「は、はひ…ありがとうございます。」
「いえいえ、我々も協力できることを誇りに思いますよ。
あ、もちろんあなたについての詳しいことは魔法士ギルドからも依頼された通り、本部のものと、支部長級の者にしか伝わっておりませんが…これをお持ちになれば、どこのギルドでも通用しますので。」
そう言ってオットーさんが差し出したのは、あたしの身分証だったんだけど…前のと違って何か派手になってる。
「これは最上級身分証でして、これを持っていればどのギルドでもすぐに話が通るはずです。
そうですね…何か確認されたいことがあればお伺いしますが?」
身分証を差し出しながらオットーさんが聞いてくれたものの、あたしはまだ自体がよくわかってなかったから、首を横に振るしかできなかった。
「まあ、初めての長旅ですから、出発までに何かあれば気軽にご相談ください。」
そのあと、白枝亭に戻るために冒険者ギルドを出たんだけど、何だか疲れちゃったよ。
ちゃんと出発の日を迎えられるのかな…あたし。