118 これからどうしよう その3
「大丈夫ですか?
少し周りの注目を集めてしまっていますよ。」
「あ…」
あたしを後ろから抱えたのは、レイアさんだった。
優しく回された両手に、あたしは少し落ち着くことができた。
よく見たら、橋の上とか、道とか歩いてた人がこっちの様子をうかがってるみたい。
(主よ…)
「ごめん、ミディ…」
(いえ、それよりもレイア殿に感謝せねばなりませんね。)
「あ、うん…
レイアさん、ありがとーございます。」
「にゃー。」
ミディアドーレに言われて、レイアさんにお礼を言うと、合わせるようにミディアドーレも鳴いた。
それをきいて、レイアさんはくすくす笑って、あたしから離れた。
「ネコさんにもお礼を言われてるみたいね。
でも本当に大丈夫ですか?」
「ん、だいじょぶです。
ちょっとびっくりしただけ…かな。」
ほんとはすっごいびっくりしたんだけど、レイアさんのおかげで、何とか落ち着くことができたし。
足を止めたりして、こっちの方をみてた人たちも、あたしが落ち着いたから特に気にすることなく通り過ぎていく。
でも、びっくりして当然だよね…
「えっと…まだ向こうにいた方がいいかしら?」
「あ、ミディ、どうかな?」
(ここにいてもらってもかまいません。
ただ、わたしの声が届かないので、先程も申し上げたとおり、退屈させてしまうかもしれませんが。)
ミディアドーレの言ったことをレイアさんに説明すると、別にかまわないからってことで、一緒にいてくれることになった。
レイアさんとあたしが並んで座って、ミディアドーレがあたしの前に座る。
(さて、何も1人で全てをこなせというわけではありません。)
「そうなの?」
(はい、というよりも、今のあなたには、どうすればよいかもわからないはずですから。)
「…そーだね。
ってことは、やり方とかは教えてくれるの?」
(もちろんです。
それに、できれば信頼できる協力者を募った方がよいでしょう。)
そういって、ミディアドーレはレイアさんの方を見た。
レイアさんならだいじょぶってこと?
(詳しく説明するといろいろ細かいこともありますが、まずは[根源たる色彩]をそろえる必要があります。
これについては、すでに所有者が存在するものもありますが、残りのものを、主お1人で探すのでは時間もかかってしまいます故、所有者たちに協力を求めたいところです。)
「そっか…じゃ、フェリックスさんにも?」
(できれば引き受けていただきたいところです。)
「じゃ、今晩、ちょっとお話してみるね。」
(それがよいでしょう。)
フェリックスさんもレイアさんも、この話を信じてくれるとは思うけど、都合もあるもんね…
お願いできたらいいな…
([根源たる色彩]がそろえば、次に魔界への道を見つけ出すことになりますが、これについては上も動いているので、我々が探す必要はないでしょう。)
「上って?」
(天界のものたちです。
レアトキステスが連絡役を買って出ましたので、彼女を介して連絡を取り合うことができるはずです。
それにしても…あれに気に入られるなど、主はどのような手段で…いや、今はいいでしょう。)
ミディアドーレが言ってることはよくわかんなかったけど、レアさんも協力してくれるのは嬉しいな。
でも、とにかく何とかやるしかないってことだよね…
ほんとにできるのかな…不安しかないんだけど…
(おや、いらっしゃったようですね。)
「何が?」
「お待たせしましたー。」
「ひえっ!」
ミディアドーレの言葉を聞き返したとき、アリサさんの声が真後ろからしたから、びっくりした。
振り返ると、アリサさんが結構おっきな袋を抱えてた。
「実はー、お昼ご飯をー、買ってきたんですー。
いろいろー、ありますよー。」
そう言って、アリサさんが袋の中身を見せてくれた。
中にはサンドイッチや果物がいくつも入ってる。
そーいえば、もうお昼なんだよね。
おいしそうな袋の中身に、急におなかがすいてきた気がした。
「こんな状況だからー、どこのお店もー、忙しいかなー、って思ったんですけどー、作業しながらでもー、食べられるようにー、こんな形でー、販売しているところがー、結構あったんですよー。」
「そっか、みんな大忙しだもんね。」
「みなさんー、がんばってますよー。
あー、ネコくんの分はー、お魚をー、包んでもらいましたー。」
そのまま河原で3人+1匹のランチタイムに突入して、しばらくゆっくりご飯を食べた。
おなかがいっぱいになって、しばらく河原でゆっくりしてると、ミディアドーレと話してたときのショックもちょっとずつ薄れていく気がした。
あたしがやらなきゃだめなんだよね。
それなら不安がっててもしょうがないし、できることからやってみなきゃ。
そう思ってミディアドーレの方をみると、ミディアドーレもこっちを見てて、うなずいてくれた。
うん…何とかなるような気がしてきた。
「よーっし、がんばるぞー!」
(…主よ、急に叫ぶと連れのお2人が驚いていますよ。)
「あ…」
思わず立ち上がって叫んでみたけど、アリサさんとレイアさんが、ぽかんと口を開けて、同じ顔であたしを見てた。
あうー…ちょっとはずかしい…
それからもうちょっとだけゆっくりして、夕方って言うにはまだちょっと早いくらいの時間に、白枝亭に戻った。
だって、夜はみんなのご飯作らなきゃいけないから、クルトさんのお手伝いしなきゃね。
白枝亭に入ると、ちょうど壁を直すのが終わるとこだったみたいで、大工道具を持った人たちとクルトさんが食堂でお話してた。
「ただいまです。」
「ああ、おかえり。
ちょうど今、壁を直してもらったところだよ。
悪いけど、厨房にお茶の用意がしてあるから、大工さんたちに持ってきてくれるかな?」
「はーい。」
レイアさんとアリサさんが運ぶのを手伝ってくれたから、お茶の準備はすぐにできた。
そのまま、レイアさんとアリサさんには休んでもらうことにして、あたしは厨房に戻ることにした。
クルトさんは大工さんたちとお話ししてるからもうちょっとかかりそうだよね。
何気にお勝手口を開けてみると、薪がずいぶん減ってることに気づいた。
久しぶりに薪割りしようかなって思って、準備をしながらふと思いついたことをミディアドーレに聞いてみる。
「ねね、魔法で薪割りってできないかな?」
(できないことはないと思いますが、下手をすると薪が原型をとどめない状態になるのでは…)
「むー、そっか…あ、じゃあ鎌でできないかな?」
(主よ…平和利用が悪いとは申しませんが…いや、まあやってみるとよいでしょう。)
何か引っかかる言い方…だけど、やってみなくちゃわかんないよね。
いつも通り、土台になる分厚い板の上に薪を置いて、準備完了。
「じゃ、ミディ、お願い。」
ミディアドーレはふうっと息をつく。
んー、薪割りに使われるの、いやなのかな…悪いことお願いしちゃったかもしれない。
なんて思ってる間に、ミディアドーレが白く光って、あたしの手の中に飛び込んで鎌になる。
でも、斧よりずっと軽いし、もしかしたらすっごいやりやすいかも!
「じゃ、いくね。
せーの!」
思ったほどの手応えがなく、鎌を振るった後に、カランと薪が2つに割れて倒れる音がした。
うん、だいせーこーだね…
土台さえ切れてなかったら、だけど…
(やはり、こうなりますか…)
「ミディ…わかってたの?」
(確信があったわけではありませんが。)
「うー…」
クルトさんに何て言おう…
割れた土台も、使えないことはなさそうだけど…
とりあえず、ちゃんと薪割りしておこう…